「うわぁ……めっちゃ可愛い……」
しおりお姉ちゃんが仕立ててくれた新衣装は、白を基調とした王道アイドルっぽい衣装だった。肩や首元にフリルがついていて可愛らしいデザインになっている。スカート丈も短めで脚フェチな自分にはたまらない。まあ、配信ではだいたい腰から上までしか映さないことが多いんだけども。
時間も手間もかかっただろうに、しおりお姉ちゃんには感謝しかない。私のためにここまでしてくれる人はなかなかいない。私は新衣装のデータを大事に保存して、みんなに見せられるその日を待つ。
「でもさ、これほんとに大変だったでしょ?」
「あー……まあ、大変じゃなかったと言えば嘘になるけどそれ以上に楽しかったよ」
「そっか……ほんとにありがとう」
「ううん、気にしないで。だって一緒に活動してるんだし、そのくらいお安い御用だよ」
そう言って微笑むしおりお姉ちゃん。
「……えへへ」
そんなしおりお姉ちゃんの優しい表情を見ると心がぽかぽかしてくる。私はこの笑顔が大好きだ。優しい眼差しで見つめられると胸の奥がきゅうっと締め付けられるような気持ちになるのだ。胸が高鳴ってドキドキすると同時になんだか安心できるというか落ち着く感じがする。しおりお姉ちゃんに抱きしめられているような気分になる。
「ねえ、しおりお姉ちゃん」
「んー? どうした?」
私は思わず無意識のうちに抱きしめてしまっていた。しおりお姉ちゃんは私よりも背が高いから本当の姉妹のように見えるかもしれない。でも今はそんなこと気にしない。むしろもっと強く抱きしめる。しおりお姉ちゃんは驚いたような様子を見せたもののすぐに優しく受け入れてくれた。背中をぽんぽんと叩いてくれる手が心地よい。すごく落ち着く……まるでお母さんに甘えてるみたいだ。
「……なんかこうしてると子供みたい」
「えへへ~、だってしおりお姉ちゃんのこと好きなんだもん!」
「はいはい、ありがと。ボクも好きだよ」
「ふへへぇ~」
しおりお姉ちゃんは軽くあしらうも、その声色はとても優しかった。しおりお姉ちゃんと一緒に過ごす時間は何よりも大切な宝物だ。私にとってかけがえのない存在なのだ。いつも私のことを気にかけてくれて、困った時は助けてくれる優しい人。そんなしおりお姉ちゃんのことが私は大好きだ。
「ねえ、しおりお姉ちゃん」
「ん? 何?」
私はしおりお姉ちゃんに問いかける。それは私にとってとても重要なことだ。
「……これからもずっと一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ」
即答だった。迷う素振りもなく、当たり前かのように言ってくれた。それが嬉しくてたまらなくてつい抱きしめている腕に力が籠る。
「ほんとに?」
「ほんとほんと。何があっても絶対に離れないよ」
「約束だよ? 破ったら許さないからね!」
「はいはい、分かってるってば」
しおりお姉ちゃんは苦笑しながら私の頭を優しく撫でてくれた。その手つきはとても優しくて心地よいものだった。もっと撫でて欲しいと思ってしまうほどだ。
「えへへ、大好き!」
「はいはい」
私はしおりお姉ちゃんのことが大好きだ。心の底から愛していると言っても過言ではない。でも、この気持ちはきっと恋愛感情ではないと思う。だってしおりお姉ちゃんは私にとって家族みたいな存在だから。ずっと一緒に過ごしてきた大切な存在だからこそ、この想いは恋愛ではなく親愛の情に近いものだと思うのだ……多分だけど。
でも、それでもいい。今はただしおりお姉ちゃんの優しさに包まれていたい。そしてこれからもずっと一緒にいられますようにと願うばかりだ。
「しおりお姉ちゃんはどうしてそこまで私によくしてくれるの?」
それは純粋な疑問だった。しおりお姉ちゃんは私の配信活動に協力的だし、活動を始める前にも小さい時からなにかと面倒を見てくれている。しおりお姉ちゃんの性格的に絶対めんどくさいと思っているだろうに。
それなのにどうして、こんなにも優しくしてくれるのか。ずっとずっと考えていたけど答えはわからなかった。だからこそ、しおりお姉ちゃんの口からちゃんと聞きたかった。しおりお姉ちゃんの本音が知りたい。
「……実はさ、主人公に憧れてたんだよ。キラキラ輝いて、誰もが憧れるような……そんな存在に。でも、それは叶わなかった」
しおりお姉ちゃんはどこか遠くを見るような目つきで語り出した。そして、悲しそうに私を見つめる。
「かなちゃんがいたからね」
「え……」
その言葉が本当だとしたら、私がしおりお姉ちゃんの夢を奪ってしまったことになる。しかも、私には主人公なんて大層な役割を担えるわけがない。私は自分が主人公だと言われた混乱としおりお姉ちゃんの夢を奪ってしまったことにショックを受けた。でもそれがなんで私によくしてくれることと繋がるんだろう?
「主人公っていうのはね、誰かの夢を背負って立つものだと思うんだよね」
しおりお姉ちゃんは語る。それはまるで自分に言い聞かすかのような口ぶりだった。そして、どこか懐かしげな表情を浮かべていた。その横顔はとても綺麗で見惚れてしまうほどだった。
「もちろんボクだって主人公になりたいって思ってたよ? でも、ボクはかなちゃんを応援したいって思ったんだ。誰よりも優しくて頑張り屋さんなキミのことを」
その言葉に胸が熱くなるのを感じた。私のことをそんな風に思ってくれていたなんて知らなかったから。私はただ自分のためだけに動いていただけだ。でも、しおりお姉ちゃんは私のために……いや、私に自分の夢を託して共に行動してくれていたのだ。
「私は何もしてないよ……ただ好き勝手にやってただけだもん……」
「そうかもしれないね。でも、ボクは知ってるよ。キミが努力していることも、頑張っている姿も」
「え……?」
そんなはずはないと否定しようとするも言葉が出てこない。まるで喉に何か詰まっているかのように声が出せなかった。
「ボクはかなちゃんのことをよく見てるからね」
しおりお姉ちゃんは私の目を見つめながら優しく微笑んだ。その笑顔を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚がした。なんだか苦しいはずなのに不思議と心地良い気分でもあった。ドキドキと心臓の鼓動が激しくなっていくのがわかる。
私は一体どうしちゃったんだろう……? しおりお姉ちゃんはそんな私の気持ちに気づくことなく話を続ける。
「だからキミの力になりたいと思ったんだよ」
「そう……だったんだ……」
今までずっと不思議に思っていたことの正体がようやく分かった気がする。しおりお姉ちゃんがどうしてこんなにも私に優しくしてくれるのか分からなかったけど、その理由を知って納得した。
私は大好きなしおりお姉ちゃんのためなら、その代わりにだってなんだってなる。