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第22話、新衣装だって!?

「えっ! 新衣装!?」

「そう。結構活動資金貯まってきたでしょ? ここらでパーッと使っちゃわない?」


 週末、私はしおりお姉ちゃんに呼び出されて近くの喫茶店に来ていた。モダンな雰囲気で心が安らぐ。そんな中で私たちはVTuber活動のことを話していた。


「それは全然いいんだけど……しおりお姉ちゃんはいいの? 新しく衣装作るってなると負担とか……」

「いいのいいの、作るの楽しいからね。それに、そろそろ新しいこと始めた方がファンも喜ぶんじゃない?」


 しおりお姉ちゃんの言うことはその通りだと聞き入れることができた。というか、こっちからぜひお願いしたいことだった。VTuberにとって新衣装は一大イベントだ。もちろん、お金がかかるので作るのが大変……というのもあるが、それ以上に活動の節目や新たなスタートラインとしてファンにお披露目する、いわば晴れ舞台なのだ。


「じゃあ、お願いしちゃおうかな」

「オッケー! 任せて!」


 しおりお姉ちゃんは嬉しそうにVサインを私に向けてきた。


「で、どんな衣装にするの?」

「うーん……それはね……」


 しおりお姉ちゃんが考え込んでいると、店員さんが注文していたコーヒーを運んできた。コーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、心を落ち着かせてくれる。


「そうだね……何かリクエストとかある?」

「うーん、しおりお姉ちゃんにお任せしたいかな」


 私は腕を組んで唸りながら答えた。正直なことを言うと、私はデザインに疎くて自分に似合うものがイメージできない。前世でVTuberをたくさん見てきたが、ファンにウケる衣装というのはそれぞれあって「これをすれば必ず喜んでもらえる」というのはない。記憶があってもそれを活用できないと意味がない。


「そっか……じゃあ、ボクの好きなように作っちゃうけどいい?」

「うん、お願い。楽しみにしてるね」


 私の言葉を聞いてしおりお姉ちゃんがニコリと笑った。そんな会話を楽しんでいるとパフェが運ばれてきた。パフェは頼んだ覚えがないんだけど……しおりお姉ちゃんがこっそり頼んだのだろうか。


「いただきまーす!」


 しおりお姉ちゃんは嬉しそうにパフェを一口頬張る。その顔を見て私は少しだけ前世のことを思い出した。この喫茶店には私がテスト勉強で疲れた時によく訪れていたのだ。その時に、しおりお姉ちゃんは私の悩みを聞いてくれて、相談に乗ってくれたり励ましてくれたこともあったっけ。

 そんなことを思い出していると、しおりお姉ちゃんが私の顔を見つめていることに気づいた。


「ん? どうしたの?」

「いや……ちょっとぼーっとしてたみたいだからどうかしたのかなって」

「あー、うん、ちょっとね。昔のこと思い返してたんだ」


 私はしおりお姉ちゃんに微笑みかける。しおりお姉ちゃんも柔らかい笑みで返してくれた。そして、しおりお姉ちゃんはパフェをすくい取って私に差し出す。一瞬、戸惑ったけど私はそれを受け入れた。しおりお姉ちゃんの意図はわからなかったけど、きっとしおりお姉ちゃんも昔のことを思い返したのだろう。

 私はしおりお姉ちゃんがいなかったらここまで来られなかったと思う。ここまで頑張ろうなんて思えなかった気がする。しおりお姉ちゃんは私のやる気をいつも引き出してくれるし、どんな時もそばにいてくれる。本当に頼り甲斐のある存在だ。


「いつもありがとね、しおりお姉ちゃん」

「えっ、急にどうしたの?」


 私の言葉を聞いてしおりお姉ちゃんが驚いてスプーンを落としそうになった。私はクスッと笑う。こんなやり取りも幸せだと思いながら私はコーヒーを口に含むのだった。

 きっと、時代の変化はすぐそこまできている。私が変えるきっかけになる。VTuber文化を切り開く鍵になる。推しがいない今、推しの代わりを私がしなくてはならない。誰かに、みんなに、VTuberはいいものだと思ってもらうために。私の小さな一歩が、やがて大きな変化を起こすことになれるように。


「見ててね……そるとん」


 私はあなたに救われた。だから今度は私が誰かの光になりたい。そう思っていると、また目の前にパフェが差し出された。


「あんまり思い詰めないで。かなちゃんのやりたいことをやりなよ。もちろん、炎上しない範囲でね」


 しおりお姉ちゃんの優しい笑顔に私は心温まる。この笑顔をいつまでも見ていたい、その思いでいっぱいになりながら私はしおりお姉ちゃんから差し出されたパフェを頬張った。


「美味しい!」

「でしょ? ボクもこれお気に入りなんだ」


 私が笑うと、しおりお姉ちゃんも笑ってくれた。その笑顔を見るだけで本当に心が安らぐ。これからどんなことがあっても挫けないで頑張れると思うほどに……

 だって私はもう一人じゃない。目の前に私の夢を手伝ってくれる人がいる。だから私は笑っていられる。しおりお姉ちゃんの笑顔を見ると、私も自然と笑顔が溢れた。


「これからもよろしくね、かなちゃん」

「うん!」


 こうして今日もまた新しい一日が始まる。でも、きっと大丈夫。だって私には味方がいるから……大切な仲間が近くにいるから。それだけで充分だ。周りに誰もいなくなった前世の……未来の自分とは違う。あんな未来はもうごめんだ。だから、今を大切に生きていこう。


「かなちゃん、はい、あ〜ん」


 しおりお姉ちゃんがスプーンを差し出してくる。もしかしてしおりお姉ちゃんはこれがやりたくてパフェを頼んだのだろうか。さっきからパフェをスプーンですくって私に食べさせてばかりいる。

 私は特に迷いもせずにそれを口に含む。口の中に甘さが広がり幸福感に包まれる。うん……幸せだ……


「どう? 美味しい?」

「うん! すごく!」


 そんなやり取りをしつつ、私たちは笑い合う。そしてまた一口ずつ交換して食べさせ合いっこをするのだった。こんな幸せな時間がずっと続けばいいのに……そう思いながら私はしおりお姉ちゃんを見つめるのだった。そんな時、なぜか私はしおりお姉ちゃんの笑顔にかつての推しを重ね合わせてしまった。


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