「みなさん……こんかめん。今日はなんだか恐ろしい雰囲気のホラーゲームをやっていこうと思います……ひぇ」
今日私が挑戦するのは、そこまでクリアまで時間のかからない『幽霊物件』というホラーゲーム。前世で既にリスナーとして流れも結末も知っているが、初見という体で遊んでいこうと思う。随分昔に見たから忘れている部分もたくさんあるだろうし。
雑談を交えつつホラーゲームをプレイする心の準備が整った私は深呼吸をして、ゲームのスタートボタンをクリックした。操作自体は簡単で、複雑なものは何もないのだが……
「うぅ……みんなぁ、助けてぇ……」
ゲームの雰囲気に呑まれ、既に怖気づいていた。幽霊物件は怪談やホラー映画が得意な人ならそこまで恐怖を感じないのだろうが、私はホラーが苦手なのだ。怖いものは怖い。
コメント欄はそんな私を面白がるように【声ちっさw】【ドへたくそで草】などと煽られていた。歌枠や料理配信でべた褒めしていた人達とはえらい違いだ。もっと私を労ったり励ましてくれてもいいのに。
「えっと……タイトル画面にあったアパートに向かえばいいのかな……」
説明がなくいきなりゲームに飛ばされたため、何をすればいいのかよくわかっていない。とりあえず、アパートの前まで来ることが出来た。
「それにしてもこのアパート……随分と年季が入ってるね。どんな人が住んでいるんだろう」
事前情報によると、このアパートは事故物件で幽霊が住んでいるらしい。ここに住んでいる親友に呼び出されて来ることになったとか。その主人公、断ればよかったのに。このゲームをやろうと決めたのは自分だけど、やらなければよかったと後悔している。
自分がやり込むタイプのゲームじゃなければ大丈夫だろうと高を括っていたが、いざ自分でホラーゲームをやってみるとなかなか怖いのだと実感した。今までは配信者がプレイしているのを見ているだけで自分ではやってこなかったのだ。
「えっと……どうやって進めたらいいんだろう。とりあえず歩き回ってみよう」
本当にどう進めればいいのかわからないため、適当に歩き回ってみる。歩いていればそのうち何かしらイベントが起きるだろう。そしてついに二階に着いた時に、一つのドアだけに調べられるマークがついた。どうやらここに入れということらしい。
不安になりながらもドアにクリックし、おそるおそる開けてみる。すると、部屋の中には日記帳らしきものが机の上に置いてあった。
「日記帳? 読んでみるべきなのかな……?」
日記帳を開いてみる。そこには親友らしい少女の不安な日々が綴られていた。ある日を境に、部屋には幽霊が出没するようになってしまっているらしい。
「幽霊……怖いなぁ……」
幽霊の描写があまりにもリアルに描かれている。私はホラーが苦手だから、その恐怖を想像するだけで鳥肌が立ちそうだ。
しかし、この日記には気になる点がある。それは、親友の少女が既に亡くなっているということだ。つまり、これは彼女の日記ではなく……
「もしかして……この日記は……」
私がそう呟いた瞬間、背後から物音がした。慌てて振り返るとそこには……
「ひっ……!」
『ア゛ア゛ァ……』
そこには、黄ばんだ目玉をこちらに向けながらゆらゆらと近づいてくる女性の幽霊の姿があった。その姿はあまりにも恐ろしく、恐怖心を煽り立ててくるものだった。私は恐怖のあまりカーソルを動かすことができない。
その時だった。
なんと、ゲームの中の主人公がその幽霊に語りかけたではないか。すると幽霊は、まるで最初からそこにいなかったかのように姿を消した。私はしばらく放心状態になりつつも、ゲームの主人公にとても感心した。
「すごい……あんな幽霊にも話しかけることができるんだ……」
この幽霊は生前、アパートに住んでいた人物なのだろう。しかし、何があったのかはわからないが亡くなってしまい……それからずっとこの部屋を彷徨っていたのだ。
そして、主人公に語りかけられたことで成仏できたのだろう。そう結論付けた私は、すっかり恐怖心が消えて安心してゲームを進行させることに。とは言ってももうエンディングが近いのだが。
「これでようやくクリア……あ、なんか画面が暗くなって……」
ゲームをクリアしたと思っていた私は、突然暗くなった画面に困惑していた。これは一体どういうことなのか……と思考を巡らせていると、画面にこんな文字が浮かび上がってきた。
【幽霊物件をプレイしていただきありがとうございました。もしよければまた遊びに来てくださいね】
「はぁぁ……終わったぁぁぁ……」
ゲームをクリアして緊張の糸が途切れた私は、大きなため息をついた。たくさんの悲鳴をあげた私に、コメント欄は大いに盛り上がっているようだった。
【悲鳴助かった】
【次ホラーゲームやる予定はありますか?】
【歌も料理も完璧なかなちゃんがホラーよわよわなの可愛かった】
「あはは、ホラーゲームはしばらくいいかなぁ……でもなんだかんだ楽しかったね」
ゲームをクリアしたことでスッキリした私は、今日の配信を終えることにした。色々とハプニングはあったものの、大好評で終わりを迎えられたのでよかったと思う。
「今日は付き合ってくれてありがとね。次の歌枠や料理枠でもまた会おうねー! ばいばーい!」
【おつかめん〜】
【お疲れ様でした!】
【次の配信も楽しみ】
不慣れなゲーム配信だったが、リスナーにも楽しんでもらえていたみたいで嬉しい。今日の配信は大成功と言ってもいいだろう。
「はぁ……ゲームでこんなに疲れるなんて……」
初めてのホラーゲームに少し疲れてしまった私は、ベッドに横たわって今日の配信のアーカイブを見返していた。いつもなら配信が終わったらそのまま寝るかトイレに行くのだけども……一人で部屋を出るのが怖かった。
「……そうだ! しおりお姉ちゃんならまだ起きてるはず!」
私はこの配信を見ていたであろうしおりお姉ちゃんに電話をかける。すると、すぐに通話に応じてくれた。
「もしもし……しおりお姉ちゃん?」
『かなちゃん? どうしたのこんな遅い時間に』
「えっとね……その……」
いざ電話をかけてみたはいいものの、何を話せばいいのかわからない。一人でいるのが怖いから一緒にいてほしいなんて言えないし。あれこれ考えていると、いい話題が思いついた。
「今日の配信どうだったかな? 見てくれてたよね?」
『え、それでわざわざ電話してきたの?』
「う、うん……えへへ」
『もう……配信で疲れたでしょ? 早く寝なよ』
しおりお姉ちゃんに寝るよう催促されてしまった。でも、今ここで引き下がるわけにはいかない。なぜなら私は怖いから。しおりお姉ちゃんが一緒にいてくれないと安心して眠れないのだ。
目が冴えちゃって寝れないだとか、なんだかんだ理由をつけて寝落ち通話を取り付けることに成功した。ホラーゲームが怖かったからという理由で電話をかけたのだけど、思った以上にしおりお姉ちゃんとの通話は満たされたのだった。