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第13話、料理配信ってどうなの?

「かなちゃんさ、料理配信してみる気ない?」

「え?」


 私の配信が終わるのを待っていたらしいしおりお姉ちゃんは、ソファーで仰向けになりながらそんな話を持ちかけてきた。いきなり何を言い出すのだろう。


「かなちゃん料理上手いし需要はあると思うんだよねー。料理作ってるところ見たいって人もいると思うし家で料理作る人の参考になったりとかもするんじゃないかな?」

「そ、そうかな」


 確かにレシピを見ながら料理をするよりかは、自炊している人の動画を見て参考にしたりすることはあるかもしれないけど。それでも、やったことのない分野なので期待より不安の方がどうしても大きい。料理配信をするとなると、やっぱりリアル世界を映さなければならなくなる。それだとせっかく築き上げてきたVTuberという概念が崩れてしまうかもしれない。


「でも、やっぱり怖い……」

「うーん。そっか、人気出ると思うんだけどなぁ」


 私の答えにしおりお姉ちゃんは残念そうに眉を下げる。そんな表情をされてしまうと申し訳ない気持ちになってしまう。


「ごめんね。せっかく考えてもらったのに」

「ううん、気にしないで。ボクが勝手に言い出したことだし」


 しおりお姉ちゃんはソファーから起き上がり、私の頭を優しく撫でる。

 正直、料理配信に興味が無いわけではない。せっかく興味を持ってくれた人がいるのならやってみたい気持ちはある。それでもまだ覚悟が足りなかった。

 きっと、私は怖いのだ。自分が築き上げてきたものが壊れてしまうことが怖いのだ。だから私は強く踏み出せないでいる。しおりお姉ちゃんの期待を裏切ってしまうことが怖いのだ。


「まあ、そんなにすぐやるって決めることでもないから、じっくり考えてみてよ」

「うん。ありがとう」


 私の答えに納得したのかしおりお姉ちゃんは微笑むとソファーから立ち上がりリビングを出ていこうとする。私も彼女の後を追ってリビングを出るとこちらを見ている彼女と目が合う。


「かなちゃん」

「なに?」


 じっと見つめると、しおりお姉ちゃんはこちらをまっすぐに見つめながら静かに微笑んでいる。だけどどこか寂しさを感じる。


「ボクさ、かなちゃんにはずっと笑顔でいて欲しいって思ってるんだ」

「うん……」


 彼女はそのまま言葉を続ける。


「もし、かなちゃんが不安になることがあるなら、ボクはいつでも話を聞くしどんな時も味方だから」

「……ありがとう。しおりお姉ちゃん」


 彼女は本当に私のことを大切に思ってくれている。その優しさがとても温かくて嬉しくて思わず涙ぐんでしまう。


「ううん、気にしないで」


 しおりお姉ちゃんは優しく微笑むと私の頭を優しく撫でてくれる。その優しさがとても心地よくて思わず甘えてしまいそうになる。

 それからしばらくして、私は家に帰り自分の部屋に戻ってきた。ベッドに寝転がり天井を見つめる。

 しおりお姉ちゃんにはああ言ったけど、料理配信をすることに興味はある。料理は好きだし、もし私の料理を参考にしてくれる人がいたらそれは嬉しいことだ。だけどやっぱり不安の方が大きい。

 でも、このままずっと何もしないでいるのは良くない気がする。何か行動を起こさなければ何も始まらないし変わらないままだろう。だけど、それがウケなかった時……私は……


「うぅ……企画がウケなかった時のリスナーの反応を思い出してしまう……!」


 転生前、私は色々なVTuberを見てきた。その中には当然、コケてしまった企画を持つVTuberさんもたくさんいるわけで。その時のリスナーの反応は本当に素直なものだった。本当にその人を応援しているのかわからないレベルの暴言が出てきたこともあった。

 そんなことを思い出しながらスマホを手に取り画面を見る。するとそこにはたくさんの通知が来ていた。


【けーちゃん頑張って】

【悩んでるの可愛い】

【応援してるよ!】


 など、たくさんの温かいメッセージが来ている。それはついさっき、かなが【新しい企画に挑戦したいんだけどみんなに受け入れてもらえなかったらって思うと怖いんだ】と呟いたものに対しての返答だった。

 送られたメッセージはどれも優しくて温かくて思わず泣きそうになってしまう。みんな私のことを見ていてくれるんだと実感できてとても嬉しくなる。私はこんなにも多くの人に支えられているんだと実感する。だから私はもっと頑張ろうと思えた。


「よしっ!」


 ベッドから起き上がり机に向かう。そこにはたくさんの料理のレシピや動画がある。それらを見ながら何を作ろうか考える。


「うーん……やっぱり簡単に作れて、美味しいものがいいなぁ」


 そう言いながら目に付いたのはハンバーグのレシピだった。これだったら誰でも作れるだろうし、みんなが喜んでくれるかもしれない! 私はさっそく材料を用意して始めることにした。

 まず初めに玉ねぎをみじん切りにするのだが、これが意外と難しい。だけどこれも練習あるのみだ。包丁で玉ねぎを切りながら涙が出てしまうがそれでも続ける。そして次にひき肉をこねるのだがこれもなかなか上手くいかないものだ。それでもどうにか形にすることができたので、それをフライパンで焼いていく。するとだんだんといい匂いがしてくる。そして焼き上がったものをお皿に移して完成だ!


「できた……!」


 練習で作ったハンバーグにしてはとても美味しそうに見える。私は早速食べることにする。ナイフを入れると中から肉汁が溢れ出しとてもジューシーな味わいだった。


「おいしい!」


 自分で作ったとは思えないほどの出来栄えに感動してしまう。しおりお姉ちゃんがよく私の料理を褒めてくれたのがちょっとだけわかった気がした。以前なら自分の料理をここまで美味しいなんて思わなかっただろう。これも応援の力……なのだろうか。

 そう思うと、自然と口角があがる。今までは自分が困らないようにというだけで料理を作っていた。でも今は違う。自分のために、しおりお姉ちゃんのために、そして応援してくれるみんなのために作ったのだ。それがとてもあたたかく感じた。


「よし、明日も頑張っていこう!」


 この日から私の料理配信への挑戦が始まったのであった。しおりお姉ちゃんに料理配信をやってみないかと提案されてから数日が経った。あれから私は毎日料理の勉強をしている。最初は不安だったけど、今では少しずつ楽しくなってきた。

 そして今日はついに初めての料理配信をする日だ。緊張しながらも深呼吸をして心を落ち着かせる。大丈夫、私ならできる! そう自分に言い聞かせながら配信開始時間を待つ。そしてついにその時が来たのだった!


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