「じゃあ休みの日を作りつつ無理なく続けてこうか。ボクもこれまで以上にサポートするしさ」
「ほんとにありがとう……何から何までやってもらって……」
いっぱい泣いていつの間にか眠っていたようで、少しスッキリした。私が眠っている間にしおりお姉ちゃんが後片付けをしてくれていたようで、頭が上がらない。
「いいのいいの。料理作ってもらったんだしこれくらいは当然だよ」
しおりお姉ちゃんはそう言うが、そもそも料理を振舞ったのはいつもサポートしてくれてるお礼なのだ。それなのにここまでしてもらっては、私の立つ瀬がない。
でもしおりお姉ちゃんがこう言ってくれているなら、甘えさせてもらおうと思う。
「それならいいけど……本当に無理しないでね。しおりお姉ちゃんが元気じゃないと私も元気じゃなくなっちゃうから」
「大丈夫だって! そんなに心配しなくてもいいよ!」
しおりお姉ちゃんは笑っているが、やっぱり不安だ。昨日までは元気いっぱいだったが、今の笑顔にはどこか陰りがあるように見える。その不安をかき消すためにも、私は今できる限りのことをすると決めた。
しかし、具体的には何をしよう? しおりお姉ちゃんは天才で気遣いもできて完璧超人だ。そんな人に、私がなにをしてやれるというのだろう。いくら考えても答えは出ない。結局、私はしおりお姉ちゃんに寄り添うことしかできないのだ。
でも、それもいいかもしれない。今までもそうしてきたのだ。これからもそうしよう。
「あ、そうだ。配信休んじゃったことみんなに謝らないと……」
私はスマホを手に取り、SNSを開く。すると、怒涛の勢いで通知が届いていた。
「うわぁ……やっぱり……」
それもそのはず。私は、昨日の配信を休むという連絡を一切していなかったのだ。病院のことが不安ですっかり頭から抜け落ちていた。これは怒られるのは覚悟の上だ。
「でもみんなから心配されてるのは嬉しいかも……」
そう独り言ちながらメッセージに一つ一つ目を通していくと、みんなから【大丈夫?】とか【ゆっくり休んで】とか優しい言葉をかけてくれる。本当にいい人たちだ。
VTuberをする前は長年リスナーとして生きていたから、いい人もアンチもたくさん見てきた。でも、いい人の方が多いってことはやっぱりVTuber界隈は素敵な居場所なんだと再認識できて嬉しくなる。
【みんな、心配かけてごめんね。ちょっと喉の調子が悪くて病院に行ってたんだけど、もう大丈夫だから安心してね】
そんな当たり障りのないメッセージを配信用のアカウントで送る。これで大丈夫なはずだ。すると、すぐにみんなから返信が来る。
【よかった! もう大丈夫なの? 無理しないでね!】
【心配してたんだから〜! よかった〜】
【こればっかりは仕方がないよ。ゆっくり休んでね!】
みんな本当に優しい。さっきまで不安がっていたのが嘘みたいに心が晴れやかになった気がする。これなら今日の配信も頑張れそうだ。そう思い、私はしおりお姉ちゃんに顔を向ける。
するとしおりお姉ちゃんは、私に優しい笑みを向けてくれていた。よかった。まだ笑顔を向けてくれるだけの体力と気力があったことに安心する。しかし、気を遣ってくれているだけの可能性もあるので手放しには喜べない。
だから私は、しおりお姉ちゃんに満面の笑みを向ける。私が本当に大丈夫になったということを、行動で示すために。するとしおりお姉ちゃんは、私に優しい笑顔のまま口を開いた。
「そろそろご飯作ってもらおうかな。お腹すいちゃった」
「……うん! 任せて!」
私は元気よくそう答えた。しおりお姉ちゃんに笑顔が戻った。私はそれがたまらなく嬉しい。その笑顔を見るだけで、私の不安は全て吹き飛んでいった。
朝だし、軽めのものを用意しよう。しおりお姉ちゃんは朝あんまり食べないタイプだから、さっぱりとしたものがいいだろう。そう考えて、私は冷蔵庫を開ける。
「んー、しおりお姉ちゃんって朝はあんまり食べないタイプだよね?」
「うん。だから軽いものお願い」
「分かった!」
私は冷蔵庫からレタス、トマト、きゅうりを取り出す。そして、包丁で野菜を千切りにしていく。するとしおりお姉ちゃんが私の手元を覗き込んでくるので、少し緊張する。
「すごいね。ボク全然できないや」
「そう? でもこれぐらいなら誰でもできるよ」
「いやいや! そんなの絶対無理! だってこわいもん!」
……そういうものなのだろうか。私はあまりそう感じたことはないが。でも、しおりお姉ちゃんは感性が人とは違うから料理がこわいということもあるのかもしれない。
「かなちゃんって器用だよね。包丁さばきが絵になるよ」
「え? それって褒められてるの?」
そんな雑談をしながら調理を進めていき、簡単なサラダが完成した。それをダイニングテーブルに持っていき、二人で手を合わせて食事を始める。しおりお姉ちゃんの口に合うかな……ちょっと心配だ。
しかしそんな私の不安とは裏腹に、しおりお姉ちゃんは美味しそうに食べてくれる。
「めっちゃ美味しい! かなちゃんほんと料理上手だね!」
そう言ってもらえるととても嬉しい。やっぱり、大切な人に喜んでもらえるのが一番嬉しいんだなぁと思う。しおりお姉ちゃんには色々とお世話になっているから尚更だ。
「でも、私なんかまだまだだよ。もっと上手い人もいるだろうし」
「そんなことないって! ボクが保証する!」
「そっか……ありがとう」
しおりお姉ちゃんはお世辞を言うような人ではないから、本当にそう思ってくれているのだろう。そう思うと、より料理の腕に自信がつく。
そうして食事を終え、私は後片付けをしてから配信の準備をする。今日は何について話そうか。話したいこと色々あるし、久しぶりに雑談配信でもしようかな。そんなことを思いながら、私はパソコンを起動した。
「はいどうも! 皆さんこんにちはー!」
【けーちゃんきた!】
【待ってました!】
【今日は何やるの?】
「うーん……特に何も決めてないんですよね……病院苦手って話する?」
そんな会話をしているうちにコメントが加速していく。やっぱりみんなと話すのは楽しい。そう思いながら、私はふとしおりお姉ちゃんの方を見る。すると、彼女は優しい笑顔で私を見ていた。それが嬉しくて私も思わず笑顔になる。
リスナーにも幼なじみにも恵まれて、私は本当に幸せ者だ。