「お、この間あげた自己紹介動画も順調だ!」
しおりお姉ちゃんへのお礼としてお菓子作りをする中、自分があげた自己紹介動画の伸びをチェックしていた。しおりお姉ちゃんの編集のおかげもあってか、視聴者からの反応がかなりいい。
【可愛すぎる! 一層けーちゃんのこと好きになった!】
【途中のパロ面白すぎて好き】
【草しか生えない】
コメント欄がいい感じに盛り上がっている。この前の歌ってみた動画に負けず劣らずの盛り上がり具合に、改めてしおりお姉ちゃんのすごさを思い知った。きっと、このままのペースで伸びていくなら登録者数一万人も夢じゃないだろう。
私はクッキーが焦げないよう見張りながらそんな期待に胸を馳せる。しおりお姉ちゃんは私のために動画編集をしてくれている。だから、私はしおりお姉ちゃんに恩返しがしたい。
そのためにも早くクッキーを完成させないと! 私は焼き終わったクッキーを冷ましつつ次々とクッキーの生地を型抜きして、オーブンで焼き始めた。そして、焼き上がったものを冷ましている間に生クリームとチョコチップを用意する。
生クリームとチョコチップを混ぜ合わせて、一口大の大きさの丸を作る。そして、その丸にチョコペンで顔を書いていく。
「できた! しおりお姉ちゃんの好きな猫ちゃん!」
私は完成したクッキーを見て思わず声を上げる。しおりお姉ちゃんの好きな猫ちゃんをイメージして作った、猫の顔をしたクッキー。我ながらいい出来だ。
「しおりお姉ちゃん、喜んでくれるかな?」
私はしおりお姉ちゃんの喜ぶ顔を思い浮かべながら、そう呟いた。そして、完成したクッキーを綺麗に包装してリボンを結ぶ。これで完成!
「よし! あとはこれをしおりお姉ちゃんの家に持っていくだけだ!」
私は出来上がった猫ちゃん型のクッキーが入った袋を鞄の中に入れて準備万端にする。しおりお姉ちゃんは私が作ったクッキーを喜んでくれるだろうか? お菓子作りなんて久々でつい不安になる。
でも、しおりお姉ちゃんのために一生懸命作ったんだ。しおりお姉ちゃんに喜んでほしい! 私はそんな思いを胸に抱きながら、しおりお姉ちゃんの家へと向かった。
「こんにちはー! また来たよ!」
「いらっしゃい。今日はどうしたの?」
「実はね、しおりお姉ちゃんのためにクッキーを焼いたの」
「え? クッキー?」
しおりお姉ちゃんは目を丸くしながら私の手元にあるクッキー入りの袋を見つめてくる。私はそんなしおりお姉ちゃんの視線に何だか緊張してしまう。
美味しいと言ってもらえるだろうか?
私はそんなことを思いながらも、手に持っている猫ちゃん型のクッキーが入ってる袋をしおりお姉ちゃんに渡す。そして、しおりお姉ちゃんの反応を窺うように見つめる。すると、しおりお姉ちゃんは猫ちゃん型のクッキーが入った袋をまじまじと見つめながら微笑んだ。
「これってもしかして、かなちゃんが作ってくれたの?」
「うん、そうだよ。しおりお姉ちゃんのために作ったの。食べてみて?」
「へぇ……楽しみ」
しおりお姉ちゃんは私からクッキーが入った袋を受け取り、袋の封を開けると中から猫ちゃん型のクッキーを取り出して口の中に放り込んだ。そして、味を確かめるように咀嚼する。
私は緊張しながらそんなしおりお姉ちゃんをじっと見つめた。すると、しおりお姉ちゃんはニコッと笑った。
「やっぱり美味しい……ありがとね、かなちゃん」
「本当!? よかったぁ」
しおりお姉ちゃんは笑顔でそう言ってくれた。私はその笑顔を見てホッと胸を撫で下ろす。
「かなちゃん昔からお菓子作りうまいよね。いや、料理もか」
「いやいや、こんなの普通だって」
「そんな謙遜しないでよ。ボクは料理できないからまた何か作って欲しいな」
「うん! もちろんだよ!」
しおりお姉ちゃんに褒められて私は嬉しくなった。やっぱり、誰かに美味しいって言ってもらえるのは嬉しい。
「あ、そうだ。かなちゃんに見てもらいたいものがあったんだ」
しおりお姉ちゃんはそう言うと、スマホを差し出してとある画面を見せてくる。なにかと思って覗き込むと、私のこの前の雑談配信の切り抜きらしき動画があがっていた。見どころを見極めて私の魅力が最大限伝わるような愛のある編集がされている。
「これ、リスナーさんがかなちゃんの配信を切り抜いてくれたみたいでさ、偶然見つけたの」
「え! すごい! こんなことあるんだ!」
「かなちゃん、すごい人気だよね。登録者数も伸びてきたし」
「そうかな? えへへ」
しおりお姉ちゃんにそう言われて、私は嬉しくなった。私の配信が誰かに見てもらうことができている。それはつまり、私の魅力が伝わってるということに他ならない。それが何より嬉しかったのだ。
最近嬉しいことしか起きていなくて、反動で近いうちに死んでしまうんじゃないかと思うほどだ。……いやまあ、一回死んでるんだけど。
「かなちゃん、この調子で頑張ろうね」
「うん! しおりお姉ちゃんにも協力してもらってるしね!」
私は元気よく返事をする。この活動に付き合ってくれているしおりお姉ちゃんのためにももっと頑張らないと!
私はしおりお姉ちゃんに負けないように頑張って配信を頑張って、しおりお姉ちゃんと一緒に色んな人に笑顔を届けていきたい。そんなことを思いながら、私はしおりお姉ちゃんの顔をまじまじと見つめる。
「……な、なに?」
「いやぁ、なんかいいなって思って」
「え? なんで?」
「いや、こうやってしおりお姉ちゃんと一緒に活動できてさ。まるで姉妹みたいだよね!」
「……っ! そうだね……」
しおりお姉ちゃんは照れくさそうにそう言った。そんなしおりお姉ちゃんの反応が可愛くて、私は思わず笑ってしまう。やっぱり、一緒に活動を続けていくのはしおりお姉ちゃんしかいない。
クッキーを美味しいと言ってもらえたし、またなにか作ってこよう。お菓子もサッと食べれていいだろうけど、しおりお姉ちゃんのことだからご飯を外食やコンビニ弁当で済ませている可能性がある。だから時間がある時は私が料理をしてしおりお姉ちゃんのことを支えられないだろうか。
私はそんなことを考える。きっと、しおりお姉ちゃんは私の作った料理を喜んでくれるだろう。そう思うと、俄然やる気が出てきた。
よし! 今度からご飯も作ってくるぞ! 私は心の中でそう誓ったのであった。