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第31話ーブランエールー

「おいで。」


声が聞こえる。扉を開ける。テオはガウンを着てベッドに腰掛けてお酒を飲んでいた。部屋は薄暗い。


「おいで。」


言われてテオの方へ歩く。恥ずかしい。テオの前に立つとテオは微笑んで言う。


「綺麗だな。」


テオが手を伸ばして私の胸に触れる。



その日から一週間、俺はずっとジルにプレゼントを贈り続けた。花やドレス、宝飾品や靴、そして最終日。



「どこへ行くの?」


ジルの手を引いて歩く。


「まだ内緒だよ。」


俺がジルを連れて来たのは厩舎だ。


「支度は出来てるか。」


俺が聞くと厩者が頷く。


「はい、殿下。」


厩者が連れて来たのは真っ白な芦毛の馬。


「この子は大人しくて優しいんだ。この子ならジルでも乗れるよ。」


その子の鼻を撫でてやる。ジルが驚く。


「私が乗るんですか?」


俺は笑う。


「あぁそうさ。俺からのプレゼントだ。」



最初は俺が乗り、ジルを相乗りさせた。体高が高く、見晴らしが良い。ジルはとても喜んでくれた。


「この子の名前は何です?」


聞かれて俺は言う。


「ジルが決めるんだよ。」


ジルは驚いて、それでも嬉しそうに考える。


「そうね…ブランエールなんてどうかしら。」


ジルらしい柔らかい名だ。


「良い響きだな。意味とかあるのかい?」


聞くとジルは馬体を撫でて言う。


「白い翼よ。」



馬から降りて、降りて来るジルを受け止める。ジルを立たせるとブランエールはジルの肩に鼻を寄せる。


「撫でて欲しいみたいだな。」


ジルがブランエールの鼻を撫でると、ブランエールは気持ち良さそうに目を閉じる。


「この子、本当に優しいのね。」


ジルが言う。


「奥様にだけですよ。」


厩者が言う。


「私にだけ?」


ジルが驚いて聞くと厩者が笑う。


「ソイツは自分が気に入った相手じゃなきゃ、乗せません。私だって乗った事無いんです。」


ジルが俺を見上げる。


「でもあなたは乗せたわね。」


すると厩者がまた笑う。


「殿下は特別です。殿下に歯向かう馬なんて居ません。馬は頭が良いんです。だからすぐに相手を見抜く。」


そしてブランエールに近付いて言う。


「良かったなぁ、ブランエールなんて良い名前貰えて。」


ブランエールはブルルルルとまるで返事をするように唸る。


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