「おいで。」
声が聞こえる。扉を開ける。テオはガウンを着てベッドに腰掛けてお酒を飲んでいた。部屋は薄暗い。
「おいで。」
言われてテオの方へ歩く。恥ずかしい。テオの前に立つとテオは微笑んで言う。
「綺麗だな。」
テオが手を伸ばして私の胸に触れる。
その日から一週間、俺はずっとジルにプレゼントを贈り続けた。花やドレス、宝飾品や靴、そして最終日。
「どこへ行くの?」
ジルの手を引いて歩く。
「まだ内緒だよ。」
俺がジルを連れて来たのは厩舎だ。
「支度は出来てるか。」
俺が聞くと厩者が頷く。
「はい、殿下。」
厩者が連れて来たのは真っ白な芦毛の馬。
「この子は大人しくて優しいんだ。この子ならジルでも乗れるよ。」
その子の鼻を撫でてやる。ジルが驚く。
「私が乗るんですか?」
俺は笑う。
「あぁそうさ。俺からのプレゼントだ。」
最初は俺が乗り、ジルを相乗りさせた。体高が高く、見晴らしが良い。ジルはとても喜んでくれた。
「この子の名前は何です?」
聞かれて俺は言う。
「ジルが決めるんだよ。」
ジルは驚いて、それでも嬉しそうに考える。
「そうね…ブランエールなんてどうかしら。」
ジルらしい柔らかい名だ。
「良い響きだな。意味とかあるのかい?」
聞くとジルは馬体を撫でて言う。
「白い翼よ。」
馬から降りて、降りて来るジルを受け止める。ジルを立たせるとブランエールはジルの肩に鼻を寄せる。
「撫でて欲しいみたいだな。」
ジルがブランエールの鼻を撫でると、ブランエールは気持ち良さそうに目を閉じる。
「この子、本当に優しいのね。」
ジルが言う。
「奥様にだけですよ。」
厩者が言う。
「私にだけ?」
ジルが驚いて聞くと厩者が笑う。
「ソイツは自分が気に入った相手じゃなきゃ、乗せません。私だって乗った事無いんです。」
ジルが俺を見上げる。
「でもあなたは乗せたわね。」
すると厩者がまた笑う。
「殿下は特別です。殿下に歯向かう馬なんて居ません。馬は頭が良いんです。だからすぐに相手を見抜く。」
そしてブランエールに近付いて言う。
「良かったなぁ、ブランエールなんて良い名前貰えて。」
ブランエールはブルルルルとまるで返事をするように唸る。