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第14話ー婚礼の儀と小さな波紋ー

歩けなくなったジルを抱き上げて屋敷に帰る。ベッドにジルを横たえる。ドレスを脱がせ自身も服を脱いでベッドに入る。ジルを抱き寄せて眠る。



翌日からは婚礼の儀の準備に追われた。招待客リスト、招待状の送付、王城から一番近い教会での打ち合わせ、教会から王城へ戻る道でのパレードの警備や警護の打ち合わせ、ジルはドレスの採寸やらデザインの打ち合わせ…目の回るような忙しさだった。それでも毎日、ジルは俺の部屋に来て、俺に甘えて一緒に眠った。



王城はテオ殿下とジルの婚礼の儀の準備で慌ただしかった。俺は苦々しく思っていた。俺は王太子だというのに、参加を禁止されていた。テオ殿下に気圧されてからというもの、テオ殿下にももちろんジルにも接触していない。マリエラは王妃教育を受けてはいるものの、たかが三日で根を上げ始めている。


「ねぇエドワード様、マリエラこんな事やりたくない…」


メソメソして言うマリエラを見ていてイライラする。


「うるさい、お前がそれを出来なかったら、俺はパートナーを替えるからな。」


マリエラはビックリした顔をして俺を見る。


「酷い…」


泣いてないで少しでも王妃教育を頭に入れてくれよと思う。何とかして婚礼の儀に潜り込めないか、考える。きっとその日は俺への監視も緩むだろう。ジルなら俺に会えばきっとまたその表情を曇らせる事が出来る。5年も婚約していたんだ、俺への情もまだ残っている筈だ。そうだ、きっとテオ殿下と父上が話を強引に進めているに違いない。ヴァロアを敵に回す訳に行かなくて、出した苦肉の策なんだ。



「ダメです、絶対に。」


ギリアムに止められる。でも見たい。


「少しだけだから。」


ギリアムは俺の前に立ちはだかり、首を振る。


「婚礼前に花嫁に会ってはなりません。」


溜息をついて椅子に座る。ウェディングドレスのデザインについても、誰も口を割らない。


「俺は王弟だぞ!」


言ってもギリアムは首を振る。


「なりません!」


毎日俺の部屋に来ていたジルがここ2日、来なくなった。婚礼前の準備だと言う。もう2日もジルに会っていなくて心が枯れそうだった。



引きずられるように教会へ行く。教会に入り、祭壇の前に立たされる。


「しっかりなさってください、ジル様がいらっしゃいますよ。」


しおれている俺にマドラスがそう囁くように声をかける。ジルの名を聞いて目が覚める。教会のドアが開く。太陽の光を纏ったジルが現れる。真っ赤なヴァージンロードを父上のロバートと歩いて来る。あぁ何て美しいんだ。真っ白なウェディングドレス、長いヴェール、ジルの曲線美が惜しげも無く発揮されている。ロバートが手を離してジルが目の前まで来る。ジルの手を取る。感動して鼻の奥がツンとする。ジルは微笑んでいるけれどその瞳には涙が浮かんでいる。神父が言う。


「新郎テオドール・ド・ファンターネ

あなたはジゼル・ヴァロアを妻とし

健やかなる時も 病める時も

喜びの時も 悲しみの時も

富める時も 貧しい時も

これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い

その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」


ジルを見つめて言う。


「誓います。」


神父が言う。


「新婦ジゼル・ヴァロア

あなたはテオドール・ド・ファンターネを夫とし

健やかなる時も 病める時も

喜びの時も 悲しみの時も

富める時も 貧しい時も

これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い

その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

ジルが俺を見上げて言う。


「誓います。」


神父が言う。


「指輪の交換を。」


脇に控えていたマドラスが指輪を持って来る。指輪を手に取りジルの薬指に収める。次はジルが指輪を手に取って俺の左手薬指に指輪を収める。マドラスが涙しながら下がる。


「それでは誓いのキスを。」


ジルのヴェールを上げる。あぁ、俺の愛しい人。ホンの少しジルを引き寄せてジルの腰に手を回して口付ける。祝福の鐘が鳴る。唇を離してジルを見る。ジルは微笑んで俺の顔に手を添える。


「何故、泣いているのですか?」


そう言われて俺は初めて自分が涙を流している事に気付く。ジルの手を取り口付ける。


「幸せなんだ。」


言うとジルは微笑む。微笑んだ拍子にジルの瞳からも涙が零れる。手を取り歩き出し、教会を出る。教会の外には国民が祝福の為に集まっていた。王城までの馬車に乗る。マドラスが泣きながら警備についている。


「マドラス、頼むぞ。」


言うとマドラスは涙を拭いて言う。


「この命に代えても。」



王城に戻って来る。王城は花に満ちている。着替えの為にまた離れる。


「一緒じゃダメなのか?」


聞くとジルがクスクス笑って言う。


「我儘も程々にしませんと。」


そして俺にだけ聞こえるように言う。


「どこへも行きません、もっとずっと綺麗なドレスを着て参ります。だからテオももっと素敵な正装を見せてください。この為に二人でデザインしたんですから。」


そうだった。王宮での婚礼パーティーで着る服は二人でデザインしたものだ。


「分かった。」



シルバーとサファイアブルーの正装に身を包む。いつの間にか定着した俺のイメージカラーだそうだ。


「とても凛々しくていらっしゃる。」


ギリアムが珍しく褒める。


「珍しいな。」


言うとギリアムは微笑んで言う。


「ジル様がこだわっただけはありますな。」


アメジスト色の差し色が映える。



会場に入る前にジルと合流する。俺と対になっているドレス。ジルの瞳と同じ色の差し色。亜麻色の髪が映える。


「行こう。」


ジルの手を取って歩き出す。



ありとあらゆる貴族が会場に居る。国王の元へ行き、無事に婚礼を済ませた事を報告する。国王である兄上も嬉しそうに言う。


「おめでとう、心から祝福する。」


深くお辞儀する。ジルは完璧な所作で難なく挨拶を終える。ジルの手を取ってお披露目のダンスをする。ダンスのレッスンなど必要無かった。俺もジルもその辺りの事に関してはもう達人レベルだからだ。


「テオが踊れるなんて知りませんでした。」


踊りながらジルが言う。


「俺も一応王族だからな。今まで誰とも踊った事は無かったし、これからもジル以外と踊る気は無いよ。」



それからは貴族の連中のつまらない挨拶が続く。俺は片時もジルを手放さずにいた。ジルが耳打ちする。


「お花を摘みに行っても?」


そう言われては離さざるを得ない。


「近くまで一緒に行くよ。」


ジルは笑って言う。


「過保護なのでは?」


俺はジルを見下ろして言う。


「過保護だろうと、俺がジルと一緒に居たいんだから、それで良いんだ。」


ジルは楽しそうにクスクス笑う。



お化粧室から出る。不意に腕を掴まれて口を塞がれる。耳元で誰かが言う。


「大声出すなよ。」


そのまま引き摺られるように休憩室に連れ込まれる。腕を振り解く。私を拘束しようとしていたのは王太子殿下だった。


「これはどういう事ですか、王太子殿下。」


王太子殿下の事はテオから聞いていた。部屋での謹慎を言い渡されている、と。今、ここに居るのだからきっと忍び込んだのだろう。王太子殿下は私の腕を掴んで言う。


「無理矢理、結婚させられたんだろう?俺が婚約を破棄したから自暴自棄になって、テオ殿下と結婚したんだろう?」


掴まれている腕が痛い。


「離してください、痛いです…」


王太子殿下が私の腕を引っ張る。


「5年も婚約していたじゃないか。俺の事、好きだったんだろう?だから王妃教育も頑張ってこなして来たんだろう?その気持ちに答えてやるよ!今すぐに!」


王太子殿下の力に勝てず、引っ張られてそのまま押し倒される。次の瞬間、ドアがバーンと開く。音に驚いた時にはもう王太子殿下の首に剣が突き付けられていた。


「王太子、これはどういう事だ?」


テオが冷たく言う。王太子殿下の首に剣が触れる。王太子殿下は腰を抜かして私から離れる。剣を納めてテオが私を抱き寄せる。


「ジル、大丈夫か?」


泣き出しそうなのを堪える。テオは私を抱き締めて言う。


「すまん、もっと早くに気付いてやれていれば…!」


テオが私を抱き寄せて立ち上がる。腰を抜かしている王太子殿下に向かって言う。


「この事は兄に報告させて貰う。俺は警告した筈だ。」


侍従の者たちが三人ほど入って来る。


「拘束しろ。」


テオがそう言うと侍従たちは王太子殿下を拘束する。


「俺は王太子だぞ!離せ!こんな事、許される訳が無いんだ!」


テオはまた剣を抜いて王太子殿下に突きつける。


「そうか、俺は王弟だ。そしてこの国の騎士団の団長でもある。王弟の妻に乱暴をした相手は切って捨てる事も出来るんだ。それが誰であっても。たとえお前であってもな。」


王太子殿下はその場で崩れる。


「この程度で崩れ落ちる男など俺の相手では無い。戦場に出た事も無い青二才が!」


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