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第10話ー恋焦がれる程に…

バスケットに差し入れを入れて騎士団の詰所へ行く。華美な服は避けた。それでもすれ違う人たちは全て私へ礼儀正しく挨拶してくれる。



各所の砦の警備やら、国勢やらを話していた。何やら入口が騒がしくなる。


「殿下!」


騎士の一人が走って来る。


「何だ。」


聞くと騎士が言う。


「婚約者様がいらっしゃいました。」


驚いて俺は入口に走る。そこにはバスケットを持ったジルが居た。


「ジル!」


駆け寄って抱き寄せる。


「どうした?」


聞くとジルは頬を染めて言う。


「あの、逢いたくて、逢いに来てしまいました…」


あぁ何て可愛いんだ。


「先程、走っていらっしゃるテオ様を見て…お仕事中なのに…」


俺は笑ってそんなジルの手を取り口付ける。


「いつでも逢いに来たら良い。俺が居なくとも騎士団はちゃんと機能する。」


そんなに俺に逢いたかったのかと思うと飛び上がりたい程、嬉しかった。



お昼の休憩になった。テオ殿下は暖かい日差しの下、婚約者のジル様をお膝に乗せて差し入れを食べている。こんなに幸せそうな殿下を見るのは初めてだった。見つめ合い微笑み合うお二人はとてもお似合いだった。見ているこっちも幸せな気持ちになる。ついこの間まで思い詰めたような深刻なお顔で俺に辺境地への移住について話していたとは思えない程に。また胸が熱くなる。本当に良かった。我が主君のこんな幸せな姿を見る事が出来るとは。殿下は本当にジル様を愛していらっしゃるのだと分かる。



「ジル、こっちへ。」


ジルを誘い、木陰に座り、そこにバスケットを置かせる。整えられている芝生に座り、ジルを自分の膝の上に座らせる。


「良いのですか?」


ジルは恥ずかしそうに聞く。


「ジルを地べたに座らせる訳にはいかないからな。」


ジルの腰を抱く。


「それに俺がジルに触れていたいから。」


そう言ってジルの頬に軽く口付ける。ジルは頬を染めている。


「食べようか。」


ジルの脇に置いてあるバスケットに視線をやる。ジルは頷いてバスケットから小さなサンドイッチを取り出す。俺はジルを見つめて聞く。


「食べさせてくれるかい?」


ジルは頷いてそのサンドイッチを俺の口元へ持って来る。俺は口を開けてサンドイッチを口に入れる。サンドイッチが小さいせいでジルの指も一緒に口に入る。舌先でその指を一瞬だけ舐める。ジルは小さくビクンと体を震わせる。ジルの体を支える為に触れている手がジルの体温が上がるのを感じる。ジルは恥ずかしそうに視線を外してバスケットの中の小さなサンドイッチを手に取ると自分も食べる。俺なら一口のそのサンドイッチをジルはハムハムと啄むように食べる。


「小鳥のようだな。」


笑いながら言うと、ジルが微笑む。


「テオ様のお口が大きいのです。」


俺は片手を離してジルの手を包んで持っている食べかけのサンドイッチを俺の口へと運ぶ。


「それは、私の食べかけ…」


ジルがそう言った時には俺の口の中にまたジルの指ごとサンドイッチが入る。さっきよりもずっと長くジルの指を意識して舐める。チュパといやらしい音がしてジルの指が俺の口から出る。ジルは小さく体を震わせている。


「美味しいな。」


ジルは頬を染めて俯く。俺の太ももがジルの熱を感じ取る。体の中が熱くなっているのだと悟る。ムクムクと欲望が湧き上がる。あぁ、ダメだ、これ以上、刺激してはいけない。そこからはお行儀良く食事をした。あっという間にバスケットの中が空になった。その頃には俺の欲望も少し治まる。団員たちは俺たちから離れた場所で食事している。低木のお陰か俺たちは木々に阻まれて誰からも見えない場所にいる。水筒の水を飲む。ホンの少し水が零れて俺の口から滴る。ジルがハンカチで零れた水を拭く。零れた水は俺の肌蹴た胸元へ落ちている。ジルがそれを拭く。不意にジルはハンカチを落とすとその手で俺のシャツの中に手を入れて肌に直接触れる。


「んん…」


ジルに触られるだけで背筋がゾクゾクする。ジルは俺に寄り掛かり小さな声で言う。


「愛してます、テオ…」


あぁもう限界だ。そう思ってジルの顔を上げさせ口付ける。触れて良いと言ったのは俺だ。いつでも好きな時に好きなだけ、と。ジルに触れられただけで体が熱くなる。こんなに煽られるとは。もっと余裕を持ちたいのに。唇を離すとジルは軽く息を切らして俺をうっとりと見つめる。ジルの頬に触れて聞く。


「体は大丈夫なのかい?」


ジルはうっとりしたまま言う。


「痛みはありません、でも、」


そう言って俺の手を取ると自分の臍の下あたりに当てる。


「ここが苦しいのです、キュウッとして…私はどこかおかしいのでしょうか…」


俺はジルのそこを撫でて言う。


「おかしくなんか無いさ。それは俺を欲しがってるって事だよ。」


ジルの瞳が潤んでいる。このまま掻っ攫ってしまおう。そう思い、ジルの頭を撫でて言う。


「部屋に行こうか。」


ジルは俺に寄り掛かりながら言う。


「でもお仕事なのでは…?」


俺は少し笑って言う。


「さっきも言ったが騎士団は俺が居なくとも機能する。そうするようにちゃんと指揮して来た。」


ジルを立ち上がらせ俺も立ち上がる。不意にジルがフラっと崩れ落ちそうになる。俺は咄嗟にジルを受け止める。腰が砕けているのだと分かる。ジルを抱き上げる。


「マドラス!」


声を出すと少し離れた場所に居たマドラスが走って来る。


「殿下、お呼びですか。」


マドラスは頭を少し下げたまま言う。


「俺は下がる。後は任せて良いな?」


マドラスは下を向いたまま言う。


「はい、お任せ下さい。」



ジル様を大事そうに抱きかかえ、殿下が歩いていく。何をどうしたらああなるのか、殿下も隅に置けないなと思う。ジル様を抱いたまま歩いていくその後ろ姿を見送り振り返ると団員一同がその様子を見守っていた。


「殿下は下がられた。我々に後の事をお任せになったのだ。期待を裏切るなよ!」


語気を強めて言うと団員一同が表情を引き締める。


「休憩終わり!位置に付け!」


それぞれが殿下の事を思い、バタバタとそれぞれの位置に付く。



部屋に戻る。出ている間に部屋の掃除は済んだようだった。ジルをベッドに置いて言う。


「汗をかいているから風呂に入るよ。」


そう言ってベルを鳴らす。すぐにギリアムが部屋に入って来る。


「お呼びでしょうか。」


俺はギリアムに言う。


「風呂に入る、準備を。」


ギリアムは下を向いて言う。


「かしこまりました。」


何人かの侍従が風呂の準備をする。俺はジルの傍らに座りその頬を撫でる。


「今朝はどっちの風呂を使ったんだい?」


ジルはうっとりしたまま言う。


「私の部屋のものを。」


俺はジルをこんなふうにしてしまう程だったのか、と何だか嬉しくなる。


「ジルの部屋の風呂と俺の部屋の風呂は造りが違うんだよ。」


言うとジルは俺の手に触れて言う。


「そうなのですね。」


俺はジルを見下ろして聞く。


「一緒に入るかい?」


ジルは頬を染めて言う。


「でも私、こんな状態ですし…」


俺は笑って言う。


「それなら問題は無いさ。俺が入れてやる。」


頬を撫でていた手の指を伸ばしてジルの唇を撫でる。


「お支度が整いました。」


背後でギリアムが言う。


「ん、下がって良い。」


言うとギリアムを始めとする侍従たちが会釈して出て行く。


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