【『WTDT』ワールド・ザ・ドリーム・タッグ生配信板part18】
名無しの543
:ha?
名無しの545
:!?
名無しの546
:へっ?
名無しの547
:!?
名無しの548
:ちょ、え、王手? 今王手したの!?
名無しの549
:王手!?
名無しの550
:アリスター王手したんだが?!?!
名無しの551
:うわああああああああああああああ反則うううううううううう!?!?
名無しの552
:アリスターが反則したああああああああああああ!?!?
名無しの553
:王手見逃しの王手ぇ!??!
名無しの554
:ふぁあああああああああ!?
名無しの555
:棋譜画面動いてないから生配信の方見に行ったらアリスターが反則してる!?
名無しの556
:えええええええええええええええええええええ!!!??
名無しの557
:なんで!? アリスター反則!?
名無しの558
:おいまて、アリスターが自滅帝に王手掛けたんだが!?
現状はアリスターに王手が掛かってる状態だから、王手見逃しの反則になるんだが!?
名無しの559
:アリスターが反則手指したあああああああああああああああああああああああ!!?
名無しの560
:一体全体どういうこと……?
アリスターの放った一手に、それを見ていた全世界の者が驚愕した。
王手見逃しの反則──アリスターは反則手を指したのである。
アリスターの王様は現状王手が掛かっている状態であり、そこからアリスターが指すべき手は二択。王様を動かし逃げる一手か、もしくは王手を掛けている真才の駒を自軍の駒で取る手に限定されている。
それが王手という仕組みであり、将棋における絶対的な法則である。
だがアリスターが指したのは、そんな自分の王手を無視して真才に王手を掛けるというものだった。
その手は文字通りの反則手。しかし『
そう、厳密には詰んでいない。今この瞬間真才に掛けられている王手は、反則という面を除いても詰んでいるわけではないのだ。
だが、それを逃れる手は1パターンしか存在しない。
しかもその唯一の手は、王様を前に進めて戦場に突貫させるという一手である。
実戦ならまず指せない、感想戦で語られるような分岐図。その手が候補手に上がることすら普通はない。
だが、その手は辿った十数手先で『連続王手の千日手』になる。これは通常の千日手とは違い、王手を掛けられた側は意図的に打開できないため、王手を掛けた側が強制的に負けになるというものである。
つまり、一見詰んでいるように見えて千日手が混じり詰まないという、大局観がある者ほど引っかかる王手だった。
(──解けよ、
【『WTDT』ワールド・ザ・ドリーム・タッグ生配信板part18】
名無しの561
:そもそもアリスターの手の意味は何? なんで誰もAIの手貼ってくれないの!?
名無しの562
:反則ってことは日本優勝じゃん!?
名無しの563
:まだ対局途中だろタコ!
名無しの564
:反則は指摘しないと反則にならないぞ!
名無しの565
:指摘は誰がしてもいいの?
名無しの566
:残り40秒!
名無しの567
:なんじゃこりゃあああああああ!?
名無しの568
:プロの試合では第三者が指摘しても適用されるはずや!
でもアマチュアでは明言されていないしWTDT杯のルールにも載ってないぞ!
名無しの569
:本人が指摘したら決着するだろうが、周りは指摘できる雰囲気じゃない……
名無しの570
:残り30秒!
名無しの571
:え!? どうなんのこれ!? 周りのスタッフは!? どうして自滅帝は指摘せずに黙ってんの!?
名無しの572
:自滅帝もしかして反則に気付いてないんか……?
名無しの573
:極限状態だろうし気付いてない可能性も?
名無しの574
:いやいやこんなあからさまな反則に気付かないわけ無いだろ! 王手やぞ?
名無しの575
:残り20秒!
名無しの576
:そもそも指摘できる雰囲気じゃないだろこれ!w
名無しの577
:会場騒然としてて草
名無しの578
:アリスター最後の最後で爆弾ぶっこんできやがったwwwwww
名無しの579
:>>561 こんな1分の間に貼れるわけないだろ反則手なんだから! 盤面編集する必要があるわ!
名無しの580
:アリスター反則!?!??w どういうこと!?w
名無しの581
:残り10秒!
名無しの582
:おいおいおいおいおい!?
名無しの583
:自滅帝!? なに盤面見つめとるんや!? お前まさか……
名無しの584
:勢い速すぎてコメントのスピードについていけんわ!
※
衝撃に包まれる60秒。それを見ていた者達は全員フリーズを起こしていた。
「は、え……?」
WTDT杯の観戦会場で聞き手役をしていた女流は、あまりの出来事に言葉を失う。
「は、反則、反則です!?」
勝機に戻った聞き手役の女流がマイクをもってそう告げるが、会場はざわめきを発するばかりで三岳にその声は届かない。
反則であるため棋譜には反映できず、指揮役の沢谷由香里と青薔薇翠は当然何が起こったか分からない。
同じく棋譜の盤面のみを閲覧していたSNSの一部の者達は、時間切れの表示だけがされており、何が起こったのかと真相を見て目を飛び出させる。
「み、三岳六段!? これは一体どういうことでしょうか!? ……三岳六段?」
聞き手役からそう耳打ちされるも、三岳はマイクを持ったまま固まってただスクリーンに映し出されている対局場の映像を凝視している。
この異常極まりない一手を受けて、自滅帝がどう行動するのか。ただその一点にのみ注目していた。
※
「……」
会場から騒然としたざわめきが聞こえてくる。
右側に置いてある対局時計はその数を減らしていき、残り40秒を切ったあたりで忘れていた我を思い出した。
(……最高)
心の中でそう呟き、アリスターが指した手に対抗するための手を考え始める。
──指摘はしない。
これはアリスターがプライドを捨ててまで指した一手だ。あれだけ傲慢を凶器として振るっていた男が、その首を差し出してまで指した一手だ。
ここで俺が反則を指摘したら、それこそ対局に勝って勝負に負けたようなものになる。
何より、今の俺はこの手を無視できるほど大人じゃない。
……視線を上げる。そこには死を覚悟した狂犬の笑みがある。それに釣られて笑ってしまう自分が恥ずかしい。
でも、それは将棋を楽しんでいる証左なのかもしれない。
今一度全身に力を入れ、残された体力のすべてを使って思考を動かす。
「──ッ」
……最後、これで最後だ。これが俺とアリスターの最後のやり取りになる。
残り25秒。余計な情報を全てクリアにしてから一気に読みを加速させる。
掛けられているのは自玉に対する王手。こちらが指す手は全部で8種類。その中の2種類は掛けられている王手の駒を自軍の駒で取る手だが、これを指せばアリスターに掛かっている必至が消えて逆転するため意味がない。
残り6種類は王様を逃がす手だが、そのどれもが一見詰み筋に入っているように見える。
だが、その全部が詰んでしまうのであれば、アリスターはわざわざ反則を犯してまで指していない。
これは答えがあるという"前提"のもと考えるべき手だ。
だから考えろ、残りは6つ。時間は悠長に待ってはくれない。
5秒消費して、1つ目の逃げ方は17手詰めであることが分かった。
5秒消費して、2つ目と3つ目の逃げ方は9手詰めであることが分かった。
5秒消費して、4つ目の逃げ方は13手詰めであることが分かった。
5秒消費して、5つ目の逃げ方は途中でアリスターに掛かっている王手の駒を素抜かれることが分かった。
そして6つ目。最後の手順を読んで、俺はどこか懐かしさのようなものを感じる。
かつては不安を覚えていた。"そういう手"を指すことに、ずっと恐怖を覚えていた。
戦術は簡単に作れない。負けたくないという、人が持つ感性の一部を欠落させてまで指す手が本当に勝利を呼び寄せるものとは限らない。
誰だって怖い。負けるかもしれないと感じるのは。リスクに怯え、こんな自滅するような手を自ら指すことに恐怖を覚えるのは、至極普通のことだ。
だから、大変だった。慣れていくまでに数えきれないほど負け続けた。
……いや、たまたまだよ。アリスター。こればかりは本当にたまたま、偶然だったんだ。だから恨まないでほしい。
──俺は自滅帝、
「……」
悟った顔色で目を瞑るアリスターに、俺は容赦なく盤上に手を伸ばす。
──正直、怖いという気持ちが脳裏をよぎった。
反則を受けて指摘もせずに指し返す。それは将棋を指すものとして正しい行為なのだろうか? スポーツマンシップに対して乖離した行動ではないだろうか?
色々な想いが駆け巡る。……今の俺は、もしかしたら間違った道に足を進めているのかもしれない。
それを自制するための60秒はあまりに短くて、受けた熱を冷ますにはあまりに刹那的で、自分の出した答えが絶対に正しいと胸を張って言えるわけでもない。
……ただ、俺は創りたかった。目の前の男が何かを賭してまで考え抜いた一手を、その手の応酬の先にある一つの結果を。
父と創り上げていたあの日々のように、善悪の手に固執しない個々の判断から生まれ出た手の重なりの果てのように。
──俺はただ、指したかった。
大きな駒音が盤上に響く。それは"指す"というよりも"打つ"に近かった。
アリスターの王様を取るわけでも、反則を指摘するわけでもなく、俺は自分の王様を掴み、最も危険な前線へと叩きつけた。
それを見ていたスタッフは驚き言葉を失う。
指摘して対局を中断させようとしていたその右腕は宙に浮いたまま固定され、口はあんぐりと空いたまま時すら止まっているような硬直に苛まれている。
傍からどのように見えているのか、俺は知らない。
ただ、この時の俺は──きっとアリスターと同じ表情を浮かべていたことだろう。
「……フッ」
何秒ほどの沈黙か、アリスターが小さく笑みを零した辺りで緊迫の糸が切れた感じがした。
……アリスターは深々と頭を下げた。
そして、言い慣れていない様子でその言葉を告げた。
「──投了だ。負けました」
「ありがとうございました」
【『WTDT』ワールド・ザ・ドリーム・タッグ生配信板part18】
名無しの757
:自滅帝指したああああああああああああああああああ!!!
名無しの758
:うわあああああああああああああああガチで指したああああああああ!?
名無しの759
:反則手に対して指し返しやがったwwwwww
名無しの760
:自滅帝なら指すだろうなと思った!
名無しの761
:指摘しないからもしやと思ったら本当に指しやがった……
名無しの762
:男の中の男やお前……
名無しの763
:反則を指摘して終わらせるなんて普通のことしないのさすが自滅帝過ぎる!
名無しの764
:いやWTDT杯の歴史に残る名局だろこれ……
名無しの765
:最後の最後でとんでもない決着の仕方して目ん玉飛び出た
名無しの766
:最後えぐすぎて何も書き込めんかった
名無しの767
:最後の詰み逃れ解けたやついる!?
名無しの768
:えっ、最後本当はどうなってたの? 自滅帝の返しが正解だったの?
名無しの769
:最後のアリスターの詰み筋AIにかけて見てほしい
名無しの770
:最後のアリスターの手ヤバくね? これ解けたヤツいるの?
名無しの771
:最後アリスターが指した王手、普通に全部詰んでると思う
名無しの772
:いや、最後のアリスターの王手、自滅帝が指した手だけが正解っぽいぞ
解析結果が水原記者のとこに載ってる
名無しの773
:>>772 うせやろ?
名無しの774
:>>772 これマジ?
名無しの775
:>>772 実戦の秒読み1分で正解できるわけないやろ……
名無しの776
:しかも正解は1パターンだけらしい
名無しの777
:>>776 えぇ……
名無しの778
:>>776 怖すぎンゴ
名無しの779
:>>776 最後の最後にそんな激ヤバ問題を作り出せるアリスターも凄いし解いた自滅帝は何者なんだよ
名無しの780
:>>776 コイツ失敗すること知らないんか?
名無しの781
:>>776 自滅帝ってこんな将棋強かったの?
名無しの782
:>>776 ヤバすぎでしょ
名無しの783
:最後カッコよすぎて痺れたわ……
名無しの784
:こんな決着あるのかよ……
名無しの785
:反則を指摘しなかった自滅帝マジでかっこいい
名無しの786
:全員が結果を悟って興奮が冷めていく中で反則でもいいから抗ったアリスター……
名無しの787
:アリスター最後に魅せたな
名無しの788
:対局後にやれって思うかもしれんが、今この瞬間、緊迫したこの1分の中で解けるかを提示したという意味では本当に世界大会に相応しい名手だったと思う
名無しの789
:なんで反則手に興奮してんだ俺……
名無しの790
:自滅帝がアリスターの想いに応えて指し返したのクソ熱い
名無しの791
:反則なんて指摘して終わればいいのに、自滅帝が何も言わずに応えるのが将棋に生きる男って感じがして惚れた
名無しの792
:自滅帝お前ホンマ……
名無しの793
:ごめん、普通にテンションぶち上がった
名無しの794
:最後反則して決着するとか予想出来た奴いる?
名無しの795
:プロ棋士同士の対局でも反則はたくさん見てきたが、こんな熱い反則は初めてだろ……
名無しの796
:なんだろう、反則とかマナーとかそういう枠を超えたものを見せられた気がする
名無しの797
:これが本当の勝負手ってやつか、勝敗が決まってるのに勝負手だと思えるのすげぇわ
名無しの798
:アリスターの最後の意地だったんだろうな
それに応える自滅帝もかっこよすぎるよ……
名無しの799
:これは日本人じゃないアリスターだからこそ指せた一手だと思うし、それを受けて指摘なんて無粋なことをせずに指し返してちゃんと投了させた自滅帝は称賛ものだと思う
名無しの800
:海外陣営のアリスターにとってはプロへの道が掛かった一局だっただろうから、どんな手を使ってでも勝ちたい、爪痕を残したいって意地があったんだろうな……
名無しの801
:本当に凄かった
名無しの802
:どういうレベルの戦いやねん……なんでコイツらアマチュアやねん……
名無しの803
:最後だけは「将棋」じゃなく「対局」をしてたように感じた
名無しの804
:普通に詰んでハイ日本勝利おめでとうって終わると思ってたから、アリスターの急な反則からの自滅帝の指し返しに思わず鼻水垂れたわ
名無しの805
:最後の2手で対局内容全部吹っ飛ぶくらいの衝撃受けた
名無しの806
:詰み筋に入ってから気持ちが引いていく中で最後の展開はえぐすぎる
名無しの807
:うおおおおおおおおおおおおおおお!!
日本勝ったああああああああああああああああああ!!
名無しの808
:恐らく歴代でも海外支部最強と思われるミリオスを防衛したのやばすぎるでしょ
名無しの809
:自滅帝がひたすらに怖かったぜ
名無しの810
:自滅帝がここまで活躍するとは想像もしてなかった
名無しの811
:ただのネット将棋指しだと思ってたワイ、反省
名無しの812
:まさか自滅帝がこんなに強いとは思わんやん?
普通にアリスターが圧勝して終わると思ってたわ……
名無しの813
:これまでもずっと凱旋道場の面々で防衛してたから事前の練習試合でボロ負けしたと聞いた時は終わったと思ったよなぁw
名無しの814
:天竜一輝と自滅帝入れたのは本当に大正解
夢のチームだったと思う
名無しの815
:【速報】WTDT杯・日本チーム(Team:無敗)勝利
名無しの816
:>>815 おめでとう!
名無しの817
:>>815 うおおおおおおおおおおおおおお!!!
名無しの818
:>>815 防衛きちゃあああああああああああああああ
名無しの819
:>>815 おめでとう!
名無しの820
:>>815 おめ!
名無しの821
:>>815 日本勝利だああああああああああああああああああああああ!!!!
名無しの822
:>>815 日本勝利おめでとう!
名無しの823
:>>815 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
名無しの824
:>>815 アマチュアの試合とは思えない展開で本当にすごかった!
ありがとう!
名無しの825
:>>815 おめでとう! 選手のみんなはお疲れさまやで
名無しの826
:>>815 えっ、日本負けたと思って風呂入ってたんだけど勝ったってマジ?
名無しの827
:>>826 勝ったぞ
名無しの828
:>>826 圧勝だよ
名無しの829
:>>826 この激熱展開見てなかったのマジ?
名無しの830
:>>826 リアルタイムでクソ盛り上がってたぞ
名無しの831
:>>826 やっちまったなぁw
名無しの832
:>>826 どこで抜けたんだよw
名無しの834
:自滅帝が頓死したところだけど……
名無しの835
:>>834 草
名無しの836
:>>834 草
名無しの837
:>>834 あーあw
名無しの838
:>>834 まぁそこだよなwww
名無しの839
:>>834 そこからの逆襲がマジで凄かったのにw
名無しの840
:>>834 そこ一番抜けちゃいけないタイミングだったでw
名無しの841
:>>834 そのあとの逆転やべーぞw
名無しの842
:>>834 今からでも間に合うからみてこい!
名無しの843
:自滅帝の指し手がマジで凄かった
名無しの844
:自滅帝がひたすらにやばいってことだけは知れた試合だった
名無しの845
:これで自滅帝の強さが一般層にも知れ渡っちまったな……
※
WTDT杯が決着し、俺とアリスターは対局の席を立つ。
気付けば奥の方からバタバタと足音が聞こえ、取材陣と思われる者達が観戦会場からこの対局場へと向かってきているのを感じる。
恐らくラッセル新聞社の記者たちだろう。もし立花徹が来ているのならあまり顔は会わせたくないんだが……まぁインタビューは天竜と赤利に任せればいいか。
そんなことを考えていると、隣にいたアリスターが話しかけてきた。
「……最後」
「?」
「最後、どうして指摘しなかった? オレなんかが指した手だぞ?」
全て出し切り疲弊した表情でそう尋ねてくるアリスターに、俺はいつもの調子で答える。
「……さぁ、よく覚えていないね」
そう返すと、アリスターが不満気な表情を浮かべた。
いや、嘘はついていない。本当に衝動的なものだ。なんで指したのか自分でもよく分かっていない。なんせ秒読みに追われている状況だったんだ。反射的に何かを指してもおかしはないだろう。
……と、誤魔化してもいいのだが、何とか俺から言葉を引き出そうと思案しているアリスターを見てその気持ちも失せてしまう。
俺は頭をかきながら答えた。
「──投了させたかったんだよ。こんな熱い手を指されて何もせず勝つだなんて恥ずかしくてできなかった。自分の方がもっと読めてるぞって、そんな子供らしい反発をしたかったんだ」
そんな俺の言葉に、アリスターは驚いた顔を浮かべていた。
「オレの手は、そこまで熱かったのか……?」
「今までで一番熱を感じた」
「……反則手だぞ?」
「反則? そんなものどこにもなかったよ。──対局中に指摘が無ければ、投了が優先されるからね」
「真才……」
そんな感嘆するような目を向けないでくれ、俺は別に何もしちゃいない。指されたから指し返した。そんな普通の将棋をやっていただけだ。
それに……。
「はぁ、また強いライバルを一人増やしちゃったな。……そこだけは想定外」
「……何が想定外だ。お前この一局で自分の仲間を成長させただけに飽き足らず、ウチのメンバーまで全員成長させたんだぞ。……いや、おいまて、もしかしてこれ全部お前の狙いか? だとしたらこえーよ何考えてんだよ、オレら成長させて何しようってんだよ?」
急にテンションを変えて迫ってくるアリスターに、俺は足を後退させて否定する。
「べ、別に何も狙ってないって、偶然だよ偶然……」
「これを偶然で済ませるほどオレは鈍感じゃねーぞ! ……ったく、どこまで末恐ろしい男なんだテメェは……」
アリスターは嘆息交じりに背を向け、近場のスタッフから対局棋譜のコピーを受け取る。
「ハァ、ほんと厄日だぜ。こんな醜態を晒すことになんなら今回のWTDTは見送りゃあよかった」
そんな愚痴を零しながらも、顔色には嬉しそうな表情が滲み出ている。
ドタバタと団体がこちらに向かっている足音が聞こえ始めた辺りで、アリスターは最後にこちらへと振り向き、俺の顔を見た。
「次、プロの世界で会った時は
「……一番いいのを見せてあげる」
「楽しみだ」
小さな約束。されどそこには、プロ棋士になるという互いの目標がしっかりと交わされた。
アリスターは間違いなくプロ棋士になるだろう。時間が掛かっても、絶対に頂点まで上り詰める男だ。それはこの一局を通じて痛いほど分かった。……問題は俺がどこまでいけるかだな。
俺とアリスターがそんなやりとりを終えると、待機室から暗い表情でカインとジャックがやってきた。
「……」
「アリスターさん、俺……」
勝者がいれば敗者がいるもの。大舞台で負けた二人は、自分の実力不足を痛感して申し訳なさそうな顔をしていた。
だが、アリスターはそんな二人に活を入れる。
「おい、テメェらなにしょぼくれてんだ? 帰ったらさっそく特訓だからな? 落ち込んでる暇なんかねぇぞ!」
「……アリスター……!」
「……うっす!」
それは、語気の強い言葉とは裏腹に少しだけ毒気の抜けた声色だった。
横から一瞬だけ見えたアリスターの表情に、俺は瞳を閉じて満足する。
……本当に、我ながら余計なことをしている。こんな競争が主軸の世界でライバルを育てるだなんて、あまりにも酔狂だ。昔の自分が知ったら憤慨ものだな。
「真才ーーーーっ!!」
「うあっ!?」
奥から歩いてくる記者たちに紛れて小柄な足音が聞こえたと思ったら、赤利がいきなり背中に抱き着いてきた。
やめてくれ、嬉しいんだけどやめてくれ。今汗が凄いんだ。本当にやめてくれ。
「よくやったのだー! 褒めて遣わすのだー!」
「お、重いって赤利……俺、そんなに体力ないから──あっ、腰がっ……!?」
グキッと嫌な音が響いた。
座っていたとはいえ、考えている間は全く姿勢を動かさないものだから腰が酷いことになっている。
そこに赤利の重りが付随しては大惨事だ。
「いたっ、いたたたたっ!? おもっ!?」
「ちょ、ちょっと待つのだ!? ボクそんな重くないと思うんだけど……!?」
「自滅帝の意外な弱点が明らかになったな……」
振り返ると、天竜が呆れた顔でやってきていた。
「おめでとう、渡辺真才」
「おめでとうはこの3人ででしょ?」
「そうだったな、君が全部持っていったから戦っている気がしなかったよ」
嘘つけ、満足そうに全力出して戦っていたくせに。
「おかげで
「俺は何も知らないよ。自分で勝手に頑張って勝手に乗り越えたんでしょ」
「……鈴木会長だな? 俺のことを知っているのは麗奈と鈴木会長の二人だけだ。分かったぞ、俺のことをチームに加える時に詳しく知ろうとして、前回の地区大会で同じチームを組んでいた鈴木会長に詳細を尋ねたんだろう? そこで俺の状態についても知ったんだ」
はぁ、だから苦手なんだよ……。このまま関わり続けると丸裸にされそうだ。
「俺は何も知らない、無知です」
「言い方変わってるぞ」
「ボクのこともよく知ってそうだよねー? 由香里から色々聞いてそうだなぁ?」
「あー、あー、何も聞こえなーい」
「あ、おい逃げるな!」
背中に飛び乗ってる赤利をそっと降ろして、俺は天竜から距離を取る。
すると、そこへちょうどよく記者の団体が対局場に入ってきた。
「お疲れさまです! 『チーム無敗』の皆さま!」
メモ帳とペンを持った女性記者が食い気味で迫ってくる。
改めて聞いても酷いネーミングだ。勝ったからよかったものの、負けたらとんだネタチームになっていたところだ。
そんなことを考えていると、奥から立花徹が歩いてきたのを視認する。
天竜とは別の意味で絶対余計なことまで聞かれそうだし、顔を合わせたら合わせたで無駄に謝罪してきたりして場を混乱させてきそうだから、正直あまり公の場では会いたくない。
「──じゃ、俺はやることあるから後は頼んだ」
「は!?」
「インタビュー受けないのだ!?」
「表彰式までには戻るから──!」
俺はそう言って、小走りで観戦会場の方へと向かっていった。
元々正式なインタビューは表彰式の時に行われるし、この取材は任意だと事前に水原記者から聞いてたから大丈夫だろう。
残された二人とも、頑張って俺の分まで受け答えしといてくれ……!
「……えー、ではお二人に渡辺真才選手についてお聞きしたいのですが……」
「……むちゃくちゃな奴です」
「右に同じなのだ」