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第百七十八話 単純明快な最強へ

『【ヤバい】自滅帝とかいう正体不明のアマ強豪www【十段おめでとう】Part56』


 名無しの791

 :いや、気付きってほどでもないんだけど

  そう言えば自滅帝、今回の試合で自滅流指してないなと


 名無しの792

 :>>791 指したよ?


 名無しの793

 :>>791 指したと思うけど……


 名無しの794

 :>>791 確かに指してないわ


 名無しの795

 :>>791 よく気づいたな


 名無しの796

 :>>791 指してね?


 名無しの797

 :指したって言ってる人は多分1周目の手順のことを言ってるんだろうけど、あれはカインのミスを誘って狙って指した頓死だから自滅流には含まれないはず


 名無しの798

 :>>797 あ、そっか。勘違いしてたわw


 名無しの799

 :そもそも自滅流は頓死なんかしねぇ!(過激派)


 名無しの800

 :そういや青薔薇まではほぼ完璧に自滅流を形成していたけど、その自滅流を自滅帝自身が壊して頓死したもんな


 名無しの801

 :>>800 確かにそうだわ。頓死からの逆転に目が行き過ぎて全く気付いてなかったけど、自滅帝自分から自滅流崩してんじゃんw


 名無しの802

 :これ仮に頓死しなくてもさ、自滅帝の実力ならあのまま自滅流指しててもそれはそれでミリオスと戦えてたくね? なんでわざわざ頓死なんて危険な手順選択したんだ?


 名無しの803

 :>>802 ほんこれ。作戦とはいえ、よりもよってなんで頓死なんて負ける危険性のあるハイリスクな行為をしたんだろう?

  別に自滅帝の実力疑ってるわけじゃないけど、頓死からの逆転を狙うくらいなら普通に実力で押し切るとか、軽い劣勢を天秤にしてカインに間違えさせるとか、そんな感じで自滅流を主軸として色々やりようがあったと思う

  わざわざ自滅流を捨ててまで得られる優勢ってほど価値はない気がするんだけど


 名無しの804

 :もう分かんねぇなこれ……


 名無しの805

 :お前ら急にIQ上がるなよ、ついていけねぇ!


 名無しの806

 :俺らが自滅帝の思考を読むなんておこがましいことだぞ


 名無しの807

 :多分だけど、自滅帝が重きを置いているのは『黄龍戦全国大会』で、時期的にこっちをメインに考えているはず

  じゃあなぜ突然WTDT杯に出たのか。細かい理由までは分からないが、単純に経験を積んだり、さっきの頓死逆転みたいな大技を今後使うための実験台として出場した可能性が高い

  WTDT杯は世界大会として注目は大きいものの、趣旨は祭りとして界隈を盛り上げるのが目的で、勝っても負けても得られるものがない。だから自滅帝からすればリスクのない対局ということになる


  つまり、自滅帝が自滅流を使わなかったのは、次の黄龍戦で勝つために無駄な情報を渡したくなかったから&逆に無駄な情報を掴ませるため……?


 名無しの808

 :>>807 うせやろ?


 名無しの809

 :>>807 こわい


 名無しの810

 :>>807 ふざけるなww


 名無しの811

 :>>807 これはやってる


 名無しの812

 :>>807 なんて???


 名無しの813

 :>>807 人生は将棋じゃありません、地球を盤上に見立てて先読みするのはやめてください


 名無しの814

 :>>807 世界大会を何だと思ってるんだ


 名無しの815

 :>>807 えぇ……(ドン引き)


 名無しの816

 :>>807 なんで世界大会の場で全国大会の布石打ってるんですか……


 名無しの817

 :>>807 この考察当たってたら吐く自信ある


 名無しの818

 :>>807 これをWTDT杯参加する前から考えてたってことでしょ?

  いくらなんでも怖すぎる


 名無しの819

 :>>807 人間の考えることじゃない定期


 名無しの820

 :>>807 やっぱ自滅帝はネット将棋界隈に閉じ込めておくべきだった、こいつリアルでもやべぇよ!


 名無しの821

 :お前らWTDT杯代表一覧に載ってる自滅帝の顔見てみろよ!

  https://wtdt.hp/participants/profile/koreha.usono.saitodayo17269220


 名無しの822

 :>>821 すごく……凡人です……


 名無しの823

 :>>821 陰キャっぽい


 名無しの824

 :>>821 学校でいじめられてそう


 名無しの825

 :>>821 もうちょい髪切れ


 名無しの826

 :>>821 10年前のワイとそっくり


 名無しの827

 :>>821 学力は平均より上だけどパッとしなくてクラスではいてもいなくてもいい扱いされている子って感じがする


 名無しの828

 :よーし目に焼き付けたな、じゃあ今対局してる自滅帝の棋譜を見てみろ!

  https://wtdt.hp/Livebroadcast/01/koreha.usono.saitodayo17269220


 名無しの829

 :>>828 すごく……鬼才です……


 名無しの830

 :>>828 バカ強い


 名無しの831

 :>>828 学校でいじめてそう


 名無しの832

 :>>828 もうちょい手加減しろ


 名無しの834

 :>>828 ジャックの自滅流崩壊してて草も生えない


 名無しの835

 :>>828 読みの深さがキモすぎる


 名無しの836

 :>>828 戦いたくない


 名無しの837

 :>>828 なんでこんな強いんだよ


 名無しの838

 :>>828 バケモノ


 名無しの839

 :>>828 学力は全国模試上位でクラスの主権を握るカーストトップの子って感じがする


 名無しの840

 :>>828 同一人物か?これが?


 名無しの840

 :ジャックがほぼ完璧に対応してるから形勢自体はそんなに動いてないんだよな

  問題なのはそんなほぼ完璧に対応しているジャックに対して自滅帝がずっと+に転じる手を指し続けてるということ


 名無しの840

 :ジャックが強いせいで余計に自滅帝の強さが目立つ


 名無しの840

 :トドメ刺すというよりずっと強攻撃当て続けてる感じ


 名無しの840

 :これ次アリスターに回ったとしてももう無理だろ……


 名無しの840

 :自滅帝が思ってた10倍くらい強かった


 ※


 海外支部の代表として幾多もの大会を優勝し続けたジャックを相手に、まるで無双でもするかのように蹂躙を繰り広げる真才。


 指し手は決して奇抜なものなどではない。しかし、その一手一手に課せられた意味があまりにも重く、他者の何十倍もの役割を果たしている。


 ジャックの粘りは常に最善だ。評価値が暴落するような手は一片たりとも指していない。


 だというのに、二人の対局の狭間で起こる戦場の上塗り合いは真才の手によってのみ色鮮やかに輝き、流れゆく時と共にジャックの評価値がどんどん落ちていくのをアリスターは肌で感じていた。


「……」


 味方が一方的にやられている光景に馳せる思いもなく、それでいてこの場を捨てる臆病さを兼ね備えているわけでもない。


 アリスターはただ、至極冷静な表情をしていた。


 先程まで浮かべていた怒りはもうなく、むしろどこかスッキリしたような穏やかな気持ちである。


 横で俯いていたカインは、アリスターの表情見て諦めたのだろうかと、そんな感情を抱く。


「カイン」


 しかし、そんなカインの心を読んだのか、アリスターは振り返らずにカインを呼ぶ。


 そして、信じられないような言葉がアリスターの口から出た。


「悪かったな、オレが招いた失態をテメェに尻拭いさせた」

「え?」


 突拍子もない謝罪に、カインは呆けた声色で返してしまう。


 あのアリスターが、あの自分を絶対として生き抜いてきたアリスターが、カインの指した悪手に対して自分に非があると謝罪した。


 ──普段のアリスターからは絶対に出ないような、初めての言葉だった。


「後は好きに指せ」


 アリスターはそれだけを言い残すと、落ち着いた足取りで待機室の扉を開ける。


 同時に交代を告げるブザーが鳴り、沈黙したままのカインはアリスターに何も返すことなくその後ろ姿を見送ってしまった。


「アリスター……」


 しかし、その背がかつてないほど闘志に燃え滾っていることを、この時のカインは幻ながらに見えていた。





 ──待機室の扉から対局室までの通路へと出たアリスターは、鏡面のような壁を見つめながらゆっくりと歩みを進める。


 一瞬、壁に見覚えのある人影が写り込んだ気がするが、アリスターはそれが自分の中にあるトラウマによって視えたものだと理解する。


 そして十数秒後、頭を抱えながら帰ってくるジャックの頭にポンと軽く手を置くと、何も言わずに対局室へと入った。


「はっ……?」


 何事かと振り返るジャックの顔は、その顔をみていないアリスターでも分かるほどに意表を突かれた表情をしており、直前の絶望を一瞬でかき消されていた。


 そうして迎えた対局室。スポットライトで照らされた光を一瞥して、アリスターは静かに目を瞑る。


 浮かんでくるのはただひとつ。同じ会場、同じ席、そこで敗退した記憶である。


 局面は劣勢。死んではないが、勝つのは厳しいと言える状況。今のアリスターの実力をもってしてもこの男を相手に逆転を計るのは難しかった。


 ──"今のアリスター"の実力なら、難しい。


 まるで死んでいたかのような刹那の瞑目を終え、アリスターは倒すべき標的を視界に入れた。


 瞳の奥には軌跡を描くかのような白い光が小さく煌めき、それは瞬時のうちに消え去る。


 しかし、そこに立っていた男は──それを見ていた真才を瞠目させるに相応しいだけの『実力』が伴っていた。


 表情一つ変えていなかった真才の眉がピクリと痙攣する。


 ──アリスターが、ゾーンに入った。


「……かかってこい」

「……断る」



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