目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第百七十四話 世界が震撼するまで(前編)

【戦犯自滅帝】【『WTDT』ワールド・ザ・ドリーム・タッグ生配信板part12】


 名無しの56

 :速報【まさかの頓死】アマチュア世界最強決定戦『WTDT杯』。次鋒を務めたネット将棋トップランカーの自滅帝(渡辺真才)が中盤でまさかの頓死!?


  記事になってて草


 名無しの57

 :>>56 終わりだよこの国


 名無しの58

 :>>56 エグwww


 名無しの59

 :>>56 あーあ


 名無しの60

 :>>56 所詮ネット最強でしかないのに日本代表なんてやるからw


 名無しの61

 :>>56 自滅帝が悪手指したの?


 名無しの63

 :>>61 そうだよ、しかも中盤でバカみたいな頓死


 名無しの64

 :意気揚々と自滅流決めた結果がこれって……w


 名無しの65

 :今まで格下とばかり当たってきたのがバレちゃったな


 名無しの66

 :自滅帝さぁ……


 名無しの67

 :仲間の足引っ張るどころか頓死ってww もう勝負終わったやんww


 名無しの68

 :自滅帝知らんかったけどザコすぎだろ、ワイでも勝てそう


 名無しの69

 :マジか……


 名無しの70

 :天竜がカワイソス


 名無しの71

 :ほんと天竜がかわいそう、どうすんだよこれ


 名無しの72

 :>>71 どうもできねぇよカス、戦犯の自滅帝を一生晒し上げろ


 名無しの73

 :自滅帝が仲間の足引っ張るとか考えられねぇ

  体調悪かったんか?


 名無しの74

 :調子の良し悪し以前にあのやらかしはない

  終盤で頓死するならまだしも中盤って


 名無しの75

 :天竜、ついに順番回ってきたと思ったら負け確の局面から指さなきゃいけないとか悲しすぎるだろ


 名無しの76

 :天竜ちゃん、投了してもワイらは怒らんで


 名無しの77

 :怒るもなにも天竜は何ひとつ悪くない


 名無しの78

 :ホンマにそう、全部自滅帝の責任


 名無しの79

 :元々出る予定なかったはずの天竜がせっかくチームのために頑張ろうとしたのに頓死の局面渡されるとかヤバすぎる


 名無しの80

 :デジタルタトゥー乙


 名無しの81

 :天竜もかわいそうだが、仮に粘ったら粘ったで青薔薇に死に際の局面移るのもまた……


 名無しの82

 :>>81 マジでかわいそう、涙出てきた


 名無しの83

 :>>81 あんな小さい子に投了させるのか、鬼かよ自滅帝


 名無しの84

 :詰みまで30手だから、ちょうど天竜と青薔薇の間で投了になるんだよなこれ


 名無しの85

 :>>84 うわぁ、唯一やらかした自滅帝だけのんきにふんぞり返れるのかよ


 名無しの86

 :>>84 これほんと醜悪。所詮ネットプレイヤーだよ、性格終わってる


 名無しの87

 :なぁ、お前ら自滅帝スレ一度見て来いよ……


 名無しの88

 :自滅帝嫌いになったわ


 名無しの89

 :最近大きな大会で結果残してなくてブランクがある天竜一輝がやらかさないか心配で見てたけど、思わぬ伏兵がいたな


 名無しの90

 :中盤で頓死するとか初心者かよ


 名無しの91

 :だから言ったじゃん、自滅流とかリスク高すぎる戦法だって


 名無しの92

 :まぁ中段玉なんか自分から指しにいったらそりゃ事故って頓死するのは当たり前だわ


 名無しの93

 :逆に今までこういう事故が起こってなかったのが不思議なくらいか


 名無しの94

 :自滅帝の中身の渡辺真才って陰キャなんでしょ?

  世界大会っていう大舞台で緊張したんじゃないかな


 名無しの95

 :>>94 だとしたら大人しく引っ込んでろよ


 名無しの96

 :>>94 凱旋チームを崩してまで頼み込んだらしいけど、本当いい迷惑だわ


 名無しの97

 :>>94 それならせめて自滅流なんてリスク高い戦法は指さないで、大人しく相掛かりか角換わりでも指しとけばよかったじゃん


 名無しの98

 :まぁ当然の結果というか、これまで変に持ち上げられてたからな


 名無しの99

 :今まで怪しいと思ってたんだよなぁ


 名無しの100

 :自滅帝の最終戦歴って黄龍戦団体戦の県大会優勝でしょ? まだ日本一位にすらなってないのに世界大会とか無理じゃん。実力不足だったんじゃないの?


 名無しの101

 :青薔薇にも天竜にも勝った実績があるから、本人は二人より強いって思いこんでるのかもな

  将棋なんてプロ棋士でもアマチュアに負けることよくあるのに


 名無しの102

 :本当にがっかりした



 ※



 今、これを観戦している者がどういう心理を抱いているのか想像に難くない。


 事実、彼が悪手を指したとき、私の中で久しく静寂を保っていた心臓が飛び跳ねた気がした。


 立ち眩みにも似たような衝撃を受け、何をやっているんだという呆れが脳裏を過ぎる。


 でもそれはほんの一瞬で、私がなぜこの場に立たされているのかを今一度思い出して納得した。


 あぁ、納得なんて生易しいものじゃない。


 これは──悪魔の所業だ。


「滑稽ね由香里。まさか自分の仲間に後ろから刺されるなんて、同情するわ。いや、それともアタシのアリスターが強すぎたのかしら?」


 横で鼻歌を歌いながら勝利を確信している翠。


 さっきはあれだけ焦っていたというのに、アリスターを前に出した瞬間にこの余裕だ。


「虎の威を借りているだけでしょ」

「アンタだって赤利の威を借りてるだけの小物じゃない」


 彼女の言い返す言葉には余裕があった。


 終わった勝負にもはや煽りすら必要ないと思っているのか、翠は本心から言葉を紡いでいる。


 確かに私は赤利の威を借りている。


 いや、赤利だけじゃない。沢山の子たちの威を借りてこの地位に立っている。所詮は使い捨ての指導者、ただそこに立っているだけで仮初の威厳を見せつけるだけの置物だ。


 私は元から将棋が弱かったから、教える側に回るしかなかった。


 初めは簡単に勝てていたのに、いつしか周りの男の子たちに抜かされて行って、気付けば底辺を彷徨うだけの惨めな将棋指しになっていた。


 才能に恵まれていなかった。努力も足りていなかった。きっと覚悟なんてなくて、惰性が心のどこかにあったのだろう。


 指導者として花咲いた時に、ようやく自分自身に気づけた。


 私には指導者としての才があっただけで、将棋の才なんて欠片も無かったのだと。


 適材適所、よくある構図だ。だから私は、私の中で出来ることを精一杯やろう。


 ──そう思っていた。


 ※


「何言ってるんですか、沢谷師範も指すんですよ」


 WTDT杯の直前、彼は私にそんな言葉をかけてきた。


 彼とは水面下だけの決して長くはない付き合いだが、その行動は真意を突いたものが多い。それは結果だけで判断した安い価値基準だが、少なくとも私の眼にはそう見えていた。


 だから、その言葉があまりにも冗談に聞こえて。


「あのねぇ、真才君。私は今回、貴方たちの交代を指示するだけの見守り人よ? 局面を見ることはあっても、私自身が指すことはないわ」


 なんて、自分らしくない自虐の言葉が口から出る。


「それは分かってます。でも、あなたが将棋を指せないと俺達の戦況は分析できないじゃないですか」


 戦況の分析。そんなものは雰囲気だ。


 それまで順調に最善手を指していた者が突然悪手を指し始めたら不調を疑い、悪手を指さずにきちんとした対応が取れているのなら好調を確信する。


 テレビの前で、必死に頑張っている選手達を見下ろしながら監督気分になっているのと同じ、私も所詮は一視聴者にすぎない。


 ──棋力なんて、関係ない。


「私に将棋が指せると思う?」

「分かりません、俺は沢谷師範のことを詳しくは知りませんから。ですが、人に将棋を教える者としての実力は信用しています。かつてその道場を頂点までのし上げ、世間に『凱旋』という絶対の名を冠することを許されたその手腕は、将棋が強くなければ決して成し得ない」


 勝手な物言いだ。貴方たちの言うことは、いつだって持たざる者に期待を押し付ける。


「たまたま優秀な人材に恵まれて上手くいっただけよ。私は真才君のように棋力が高いわけじゃない」

「棋力で決まるのは勝敗だけです」


 勝敗が全てと掲げた凱旋道場の師範である私に対してそのセリフは、あまりにも耳が痛い。


「じゃあ、あなたは私に何を求めるのかしら?」

「簡単ですよ。共に指して、共に勝ちに行きましょう」

「随分と軽い言葉ね」

「一時的な共闘ですから。……でも、その一日だけは運命を共にする仲間ライバルです」


 まるでありきたりな関係をありきたなセリフでまとめるかのように、ありきたりなそぶりで振り返る。


 そんな彼は、私の眼を見て僅かに視線を落とした。


「沢谷師範、俺が一番尊敬している人は、棋力なんてまるで皆無で、上に立つ猛者達には全く敵わないほど弱くて、酷く理想家でした。……それでもその人は、たった一度だけ頂点に手を届かせたことがあります。誰よりも弱いと思い思われていた人が、誰もつかめなかった奇跡を掴み取ったんです」


 誰の話だろうか、棋界をよく知っている私ですらその言葉に能うだけの人物を知らない。


 ただ、彼は誰よりもその人物を詳しく知っているようで、その者の面影を見ている目を私に重ねながら──。


「将棋の強さは、何も棋力だけで決まるものじゃない」


 そう、告げた。


「沢谷師範、あなたは俺が見てきた中でも抜きんでて将棋が強い。少なくとも、対局の盤面しか映らない画面を見続けながら的確な指揮を下すのは、将棋が強くなければ絶対に不可能なはずだ。……だからあなたは誰よりも将棋を指し、誰よりもその手を理解する必要がある。例え、俺らみたいなじゃじゃ馬が相手であっても」


 真剣な面持ちでそう告げる真才君に、私は面食らったような表情で数秒硬直し、思わず吹き出してしまった。


 確かに、こんなメンバーをまとめるのを私以外の誰ができるというのか。


 それは決して、指揮が上手いだけの人間には不可能な芸当だ、指導者というだけでは不足する役目だ。


「そうね、確かに将棋が強くなければ貴方たちの指揮者は名乗れない。認めましょう、私も一人のプレイヤーとして戦わなくちゃならないと」

「気負う必要はないと思いますよ。どうせ他の二人がめちゃくちゃに場を荒らすのがオチです」

「そんなこと言って、どうせ貴方が一番最初にやらかすんでしょう?」

「どうでしょうね。……でも仮にそんな事態に陥ったとしても、沢谷師範なら完璧に対応してくれると信じています。──何せ俺達のですから」


 ※


 死が確定した局面で何とか1手も多く逃れようと、最長手数で逃げ切りを図る一輝君にひとつだけヒントを得た。


 ……いや、もしかしたら単なる妄想かもしれない。


 答えとなる欠片はどこにも散らばってなくて、何かを示唆する光すら輝いてなくて、意図すらあるのかどうか分からない状況だ。


 ──だから、世界は誰も気づかない。翠さえ、真才君が凡ミスを犯して頓死したと思い込んでいる。


 当然だ。情報がないんだから。私だって分からないし、確信できる材料なんて妄想として作り出すことくらいしかできない。


 だけど、その一手が、その悪手が、真才君の意図したものでないと否定する材料こそ私は持っていない。


 ──逆算すれば導ける。


 なぜあそこで悪手を指さなければならなかったのか、なぜあの局面だったのか。


 なぜ、あのタイミングだったのか。なぜ、そういうことをすると事前に私達に伝えなかったのか。


 いや、もっと単純に考えればいい。その一手を指すことは、勝利に必要なことだったと。


 そうして私は、ひとつの"結論"に至った。


 アリスターの残りの手数、一輝君と赤利の指し手の特性。


 真才君が意図してその順番を利用したとするのなら、答えはルールの肝にある。


 そう、このルールで一番重要なのは『情報の共有』だ。


 待機室では局面について仲間内で語ることができる。普通なら不可能な対局中の会話が成立する。


 ──真才君は理解したのだろう。あの時、ジャックとの戦線で刃を交えた際に、自分の自滅流が完璧に抑え込まれていた事実を通じて、ジャックにアリスターの知恵が行き渡っていた水面下のやり取りを。


 私もそれにはすぐに勘付いた。ジャックの指し手がいきなり守備に転じたことで、アリスターが何か入れ知恵をしたというのは盤面からでも想像できる。


 しかし、真才君はそれを理解するどころか、利用することまで考え付いた。


 この戦いの肝は、最も知恵が働く者が、仲間に自らの情報を共有させること。


 そこを逆用して、アリスターが情報を共有できない瞬間を狙って仕掛けたのだとしたら……。


「はぁ……まったく──」


 想像よりもずっと重い責任に、手汗で滲んでいた敗北への震えは未知の何かに書き換わる。


 非凡な構想を思い描く超人に、非才の私は苦笑で返すのが精一杯だ。


 ホント、何が私なら完璧に対応するよ。期待ばかり押し付けて平然と無茶苦茶してくるじゃない。


 本当に──じゃじゃ馬なんだから。


「交代を宣言するわ」

「は?」


 頓死の局面、天竜一輝が必死に逃げ惑う途中で、私は交代を宣言した。


 ※


【戦犯自滅帝】【『WTDT』ワールド・ザ・ドリーム・タッグ生配信板part12】


 名無しの125

 :交代www


 名無しの126

 :頓死の局面で交代きたーーー!(???)


 名無しの127

 :無茶ぶりが過ぎるだろw


 名無しの128

 :これ指示してる奴も初心者か?


 名無しの129

 :赤利ちゃんカワイソス……


 名無しの130

 :死に際を渡された青薔薇の心境や如何に!w


 名無しの131

 :もうこの試合の話題やめようぜ

  来年は日本勝てると思う?


 名無しの132

 :>>131 ミリオス軍が海外初のプロ棋士になるならまぁ来年のWTDT杯は日本が勝つんじゃね?


 名無しの133

 :>>131 アリスターほどでないにしろ、海外には日本のアマ越え棋士が沢山いるから無理だと思う


 名無しの134

 :そもそもこれだけやらかした自滅帝はもう出禁なんやから、来年は今まで通りの凱旋布陣なら防衛できるやろ


 名無しの135

 :荒れてるところ申し訳ないけど、スレタイの【戦犯自滅帝】は消した方がいいと思う……


 名無しの136

 :まだ対局続いてるのに何勝手に終わった判定してんだよ

  AIの評価値に囚われて勝ち負けを判断するなんて初心者だぞ、まずはなんでこのタイミングで青薔薇赤利に交代させたのかを考えるところから始めなきゃダメだろ


 名無しの137

 :>>136 逆にここから勝つってどうすんだよ


 名無しの138

 :>>136 何を言おうが9999点は覆りませんw


 名無しの139

 :>>136 願望垂れ流しやな、自滅信者か?


 名無しの140

 :自滅帝スレ見に行ってクッソ後悔した

  何も分かってなかったんはワイの方やったんや

  誰か自分のレス >>68 消してくれ、頼む……


 名無しの141

 :>>140 何があったん?


 名無しの142

 :>>140 同士よ


 名無しの143

 :>>140 うわ同じ人いた


 名無しの144

 :>>140 一緒にこのスレの崩壊を見守ろうな……


 名無しの145

 :>>140 早い段階で気づけたお前はまだ救いがある


 名無しの146

 :何いってんだこいつら


 名無しの147

 :自滅帝スレでなんかあったん?w


 名無しの148

 :何があったとしてもここから逆転は無理です


 名無しの149

 :自分、自滅帝と何回か戦って全敗して自滅帝アンチになった者なんだけど、だからこそ分かっちゃうんだよな

  ……これ、絶対に凡ミスじゃない


 名無しの150

 :10分後、このスレ爆発しそう


 名無しの151

 :>>150 真実知ったら絶句して脳フリーズするからレス0になるよ


 名無しの152

 :え、何この流れ……?


 名無しの153

 :自滅帝スレ見に行ってないんだけど、なんか嫌な予感してきた

  今からでも入れる保険ってあります?


 名無しの154

 :>>153 ないです



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?