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第百五十一話 知将

『【ヤバい】自滅帝とかいう正体不明のアマ強豪www【十段おめでとう】Part49』


 名無しの267

 :自滅帝最近見ないな


 名無しの268

 :忙しいんでしょ、全国控えてるんだし


 名無しの269

 :将棋戦争に顔見せないってことは将棋してないんとちゃう?


 名無しの270

 :ライカと同じ学校通ってるみたいだし、部活かなんかで指してるんじゃね?


 名無しの271

 :あー同じ学校か。周りに強い奴いるの羨ましいな……


 名無しの272

 :てか『WTDT』練習試合みた?日本陣営負けたって


 名無しの273

 :>>272 なにそれ?サッカー?


 名無しの274

 :>>272 WTDTってなんぞ?


 名無しの275

 :>>272 凱旋のヤツか、話題になってたな


 名無しの276

 :『ワールド・ザ・ドリーム・タッグ』ね。世界vs日本で3対3のタッグ戦行う将棋大会


 名無しの277

 :>>276 そんなのあるのか


 名無しの278

 :>>276 世界大会ってことぉ!?


 名無しの279

 :>>278 世界大会って言うほどデカくはない


 名無しの280

 :戦うのはプロ棋士じゃなくてアマチュアだしな、お祭りみたいなもん


 名無しの281

 :まぁ凱旋が負けて日本初敗北になったのは予想外だったな、海外にそんな強い将棋指し居たのか


 名無しの283

 :自滅帝のいる西ヶ崎とバチバチに戦った凱旋道場が"練習試合"とはいえ敗北したのは痛手


 名無しの284

 :大丈夫? 日本舐められない?


 名無しの285

 :>>284 戦ってるのは所詮アマチュアだし……w


 名無しの286

 :でも最近はアマチュアのレベル上がってきてるやろ


 名無しの287

 :最近というか青薔薇とか自滅帝とか来崎とかアマチュア越えてる奴は何人もいる


 名無しの288

 :そもそもプロになるにはアマチュアの枠を越えなきゃいけないわけだしな、アマチュアの中にアマチュア以上の実力者がいるのは至極当たり前の環境


 名無しの289

 :アマチュア最強と呼ばれてた香坂賢人の登場あたりから敷居が上がった気がする


 名無しの290

 :香坂とか懐かしいな、もうプロになったんけ?


 名無しの291

 :>>290 全然情報入ってきてない、大会にも出てない


 名無しの292

 :>>290 将棋やめたんじゃないかって言われてる、社会人だしね


 名無しの293

 :あ、自滅帝将棋戦争やってる


 名無しの294

 :マジ?


 名無しの295

 :お


 名無しの296

 :ホンマや、久々に見たな


 名無しの297

 :自滅帝生きてたやん、1週間ぶりくらいか?


 名無しの298

 :いやつっよ


 名無しの299

 :あ、もう倒したw


 名無しの300

 :なんだこの強さ……


 名無しの301

 :はっやw


 名無しの302

 :つよすぎ!?


 名無しの303

 :エグい攻め筋で草


 名無しの304

 :当然のように110連勝だね


 名無しの305

 :>>304 当然のように110連勝戦慄


 名無しの306

 :>>304 パワーワード過ぎる



 宗像を排斥したその日の部活動。いつもの将棋部が戻ってきた俺達は、久しぶりに全員がまとまっての部活動を行うことができていた。


 東城美香、葵玲奈、来崎夏、佐久間魁人、佐久間隼人、武林勉、そして新しく顧問についた鈴木哲郎。


 計七名もの将棋部の面々が、俺を取り囲んでまじまじとそのスマホを覗き込んでいた。


「うわぁ……マジでつえぇな……」

「これが自滅帝か……」

「改めてみても人間やめてるっすね……」


 全員が俺のスマホを覗き込む中、俺は少しばかり緊張しながらも将棋戦争で自滅帝の指し回しを披露していた。


 もう全員にバレている以上、下手に隠す必要もない。


 むしろこの実力をこれからどう伸ばしていくかをみんなで考えるのなら、情報の開示は必要手順と言えるだろう。


 一局を終えて窮屈になった俺は、その場から一歩も動かず囲い込んでいる東城たちに問いかけた。


「えーと、こんな感じだけど……どうかな?」

「凄いわ! やっぱり本物の自滅流は圧巻と言わざるを得ないわね!」


 東城はテンション高くそう答えた。


「ふむ、私もこうして直接拝見するのは初めてだが、まさに圧巻だね。定跡を外しながらここまで変幻自在に戦えるのは、並みの将棋指しでは不可能に近い所業だよ」


 鈴木会長までべた褒めだ。そう言ってくれるのは素直に嬉しい。過去の自分の努力が実った感覚に浸れる。


「これは早くも全国大会が楽しみね。真才くんの指し回しに全国のアマチュア達が驚く顔が今にも想像できるわ……!」

「いや、これは──」


 俺がそう言葉を紡ぐ前に、鈴木会長が割って入った。


「その前に東城君、君は今週末に黄龍戦の個人戦があるだろう?」

「あ、そうだったわね……! すっかり忘れてたわ!」

「まずはそっちに集中するべきだね。全国大会は来月なのだから、まだ時間はたっぷりある」

「ここ最近はバタバタしていたからな! 無理もあるまい!」


 ……まぁ、言う必要もないか。


 鈴木会長の言った通り、黄龍戦の全国大会は来月にある。時間としてそれほど猶予があるわけではないが、各々が成長できる時間は確保できるだろう。


 彼らに倣って、俺も成長しなければならない。


 自滅帝だの、絶無指しだの、そんなものは手札を増やすだけの手段だ。本質的な棋力の成長は常に『変化』にこそある。


 ここまでの俺の歩みは順調だった。


 天竜一輝との一戦を除けば、戦略的に猛省するべき点はなく、敗北という観点から何かを見出すこともないだろう。


 ただ勝ち続けた。それは外から見れば美しく、内から見れば何も得られていない。


 勝利は美酒であると同時に毒でもある。酔っている間が長ければ長いほど腕がなまり、棋力も落ちていく。


 だから俺は、これまでの戦いで一度も勝利に酔ったことはない。


 戦型だってそうだ。俺はこれまでの対局でただの一度も戦型を固定していない。自滅流も同じ型に固執せず、色々なバリエーションを交えながら違う戦い方を目指してきた。


 そうして先々を見据えていかなければ、香坂賢人には勝てない約束は果たせないと思っていたから。


 来崎との一戦で、俺は自分の持てる手札の全てを開示した。自分の実力はここが限界なのだと曝け出し、その上で来崎に敗北した。


 実に当然の敗北だ。過去の武器を引っ提げて戦う者が、今まさに成長し変化している彼女に勝てる道理がない。


 そもそもあそこで勝ってしまうようなら、俺は初めから来崎に勝負を挑んだりなどしていない。


 ──だって、俺は酔いたくないのだから。


「では、改めて挨拶をしようか」


 鈴木会長が前に出て振り返る。


「これから君達、西ヶ崎将棋部の顧問になる鈴木哲郎だ。もう既に知っていると思うけど、私は第十六議会と呼ばれる組織に属する人間だ。今回の騒動は我々の抗争の飛び火によるものも大きいだろう。その節は本当に申し訳なかった」


 そう言って、鈴木会長は頭を下げて謝罪した。


「しかし、これからは君達は我ら第十六議会が庇護下に入る。銀譱委員会からの風当たりが強くなるかもしれないけど、今回のようにあからさまな圧力がかかることはないだろう。少なくとも私がそうはさせないと誓うよ。そして、今回のような一件で君達の大切な学生生活が浪費されてしまったことを改めて謝罪しようと思う。これからはその分、精一杯君達の背を押して行くよ」


 そうして鈴木会長は二度目の頭を下げた後、最後に普段の笑顔を見せた。


「こんな私で良ければ、これからよろしく頼むよ」

「よろしくっすー!」


 鈴木会長の挨拶に葵達は拍手を送る。


 正直、心強い味方だ。


 鈴木会長の立ち回りは非常に静かで、それでいて大胆だ。俺とは違って大人らしい冷静な判断のもと下される水面下の駆け引きをしっかり行っている。


 そして何より、カリスマがある。


 俺が最初に葵の仕事を頼み込んだのも、この人の人柄と信頼感に惹かれたからだ。


 それは一種の才能であり、知力や才力に依存しない人生経験から生まれる説得力のようなものだろう。


 いうなれば知将ちしょう稚拙ちせつな思考の俺なんかよりよっぽど優れた人だ。


 だから、敵に回すより味方に付ける方が得だと感じた。


「……して、哲郎どの」


 挨拶を終えてひと段落した頃、武林先輩がやけに真剣な顔で鈴木会長に声を掛けた。


「鈴木会長でいいよ」

「では鈴木会長。貴方はさきほどの紹介にも合った通り第十六議会の人間、利権争いに加担している側の人間です。目下で銀譱委員会と対立しているとはいえ、その行動理念が今後、オレ達西ヶ崎将棋部の部員を利用しないという保証はあるのでしょうか?」


 それは実に真っ当な質問だった。


「……そうだね。私も組織の人間である以上、利権に首を突っ込むのは仕事の範疇だ。上の判断には従わなければならないし、それが君達にとって不利益を生む可能性があるかもしれない」


 仕方がない。という線はもちろんあるだろう。


 味方になった、庇護下に入ったからといって、それで何もかもが都合よく動くわけはない。


 俺達が活躍すれば広告塔に使われたり、勝ち進んでいけば納得のいかない教育方針が出たりする可能性もゼロではない。


 もしかしたら、銀譱委員会に対抗するための駒として扱われることもあるかもしれない。


 武林先輩はそういった疑念を払拭したくて、鈴木会長に問いかけたのだろう。


 しかし、鈴木会長は首を振って否定した。


「……だが、私は銀譱の連中ほど馬鹿ではないのでね。そこにいるこわーい少年の怒りを買って組織が潰されたんじゃ元も子もないし、その辺りはわきまえてるつもりだよ」


 その言葉にほっと胸をなでおろす武林先輩。


 だが、俺は納得がいってなかった。


「あの……何言ってるんです? ただの学生が組織を潰すとか、そんな漫画みたいな展開起こせるわけないでしょう? フィクションの見過ぎですよ」




「「「…………」」」


 静寂が流れた。


 そしてみんな揃って呆れたような視線を俺に向けた。


「お前なぁ……」

「先輩、それはさすがに……」

「渡辺、お前が今まで発した言葉の中で一番説得力無かったぞ」

「教師一人をたった数日でクビにしといて何言ってるんすかねぇこの人」

「…………」


 みんななんでそんな怖い目で見てくるの。




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