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第百話 覇の一撃

『【ヤバい】自滅帝とかいう正体不明のアマ強豪www【十段おめでとう】Part41』


 名無しの310

 :自滅帝王手飛車くらうってマジかぁ……


 名無しの311

 :うーん……残念……


 名無しの312

 :手痛い凡ミスだったね……疲労も重なってたし、しゃーない


 名無しの313

 :いや、本当に凡ミスかこれ……?


 名無しの314

 :なーんか王手飛車くらったにしては分かりやすすぎるよな


 名無しの315

 :これは本当にただの願望なんだけど、自滅帝ならなんか狙ってそうな気がする


 名無しの316

 :いやぁ、さすがに王手飛車くらってまで実行したい狙いがあるとは思えんけど……


 名無しの317

 :黄龍戦スレ大荒れしとるぞ!!!w


 名無しの318

 :自滅帝の評価値下がってないっぽいwwww


 名無しの319

 :>>318 え……!?


 名無しの320

 :>> 318どゆこと!?



「──ここにきて、ようやく人間らしいミスをしたな。渡辺真才」


 苦しそうな息遣いの混ざった声で、赤利は小さくそう呟く。


 青薔薇赤利にとっての唯一の負け筋、自身の王様が詰むか詰まないかの瀬戸際にあった玉形。


 ──俺は、ここにきてとんでもないミスを犯してしまった。


 喰らったのは王手飛車おうてびしゃ。──王手と飛車の両取り、死ぬか瀕死になるかの二択を強制的に突きつけられる痛恨の一手。


 俺はなんとか赤利の王様を攻めようと、渡った手番を活かして持ち駒の飛車を赤利の王様の近くに打ち込んだ。この飛車打ちが無ければ赤利の王様はスルスルと上部に逃げ出してしまうため、どうしても攻勢に出なければいけない必然の飛車打ちだった。


 だが、その飛車打ちは俺の王様と見事にラインを結んでしまい、赤利による角の打ち筋に入ってしまっていた。


 ──致命的な、大悪手だ。


 会場は騒然とするどころか真空にでもなったかのように静寂としており、皆時間の流れが止まった空間で息を呑むように俺の死の瞬間を噛み締めている。


「正直、オマエは赤利が戦ったアマチュアの中で一番強かったぞ。……だが、これで終いだ──」


 そう言って赤利は躊躇うことなく俺の飛車を角で奪い取る。それと同時に裏返った角は、金銀3枚分の守りを生み出す強靭な馬となって赤利の王様の守りを完全なものとする。


 ──青薔薇赤利の、唯一の負け筋が消えた。


 飛車の丸損。大駒の奪取。誰もが考えていた構想の崩壊。


 青薔薇が俺の王様を詰ますか、俺が青薔薇の攻めを受け切って反撃に出るか。これはそういう互角の勝負だった。


 それが今、瓦解してしまった。


「……」


 ──ふと、笑みが零れる。


 ああ、そうだ。俺はもう、赤利の王様を詰ますことはできない。


 唯一の攻め駒だった俺の飛車は、赤利による王手飛車で素抜かれ、俺の攻め筋は完全に消え去った。


 ここからどれだけの駒を使ったとしても、守りの堅くなった赤利の王様を捕まえることはできないだろう。


 持ち駒は大量の金駒と零れ落ちるほどの歩兵のみ。唯一の飛び道具である桂馬は盤上に置かれていて、もう二度と手元に戻ることは無い。


 ──絶体絶命。いや、勝機を失った絶望とでも言うのだろうか。


 俺はもう、赤利の王様は詰ませない。これ以上の攻めはない。


「……さすがにもう、万策尽きただろう?」


 赤利の問いに、俺は素直に返した。


「あぁ、そうだな。もう策はない。今の俺にできることがあるとすれば、せいぜい捕まらないように逃げるくらいか」


 そう言って、俺は自身の王様を一歩、また一歩と繰り上げる。


 なんて酷い悪あがきだろうか。ここからどれだけ逃げたとしても、もう赤利の王様を詰ますことはできない。


 将棋は、相手の王様を詰ました方が勝ちになる。これは誰もが知っているルールだ。


 ──じゃあ、仮に両方の王様が捕まらなかったら、勝負はどう決着がつけられるのだろうか?


「………………は…………?」


 誰も口を開かない静寂の空間で、赤利の掠れた声だけが会場に響いた。


 気づかない者は息を呑み、気づいた者は口元を手で押さえながら絶句する。それ以上の言葉が漏れることを、この静寂は許さない。


 ──ところで、覚えているだろうか。


 今回の黄龍戦では、相入玉になった際は『27点法』が採用される。これは両方の王様が相入玉等により詰まなくなった場合、片方の宣言によって適用される将棋のルールのひとつだ。


 この27点法が適用されるのは、以下の4つを満たした場合のみである。


 ひとつ、宣言側の王様が敵陣三段目以内に入っていること。


 ひとつ、宣言側の王様以外の駒が敵陣三段目以内に10枚以上存在すること。


 ひとつ、宣言側に王手がかかっていないこと。


 ひとつ、宣言側の持ち駒と敵陣三段目以内にいる駒の点数大駒5点、小駒1点、玉0点の合計が、27先手は28点以上であること。


 この条件を全て満たした場合にのみ、宣言が認められて勝利、または条件を満たせず敗北となる。


 ──俺はもう、青薔薇赤利の王様を詰ますことはできない。


 だが逆に、赤利は俺の王様を詰ますことができるだろうか?


「まさか、オマエ──ッ!?」


 さっきの王手飛車による強制回避、その後の早逃げ。俺は既に"2回"も王様の早逃げに時間を割いている。


 俺の王様は、もうすぐ安全圏内だ。


「あっ──!?」


 同時に青薔薇赤利の持ち時間が無くなり、1手40秒の秒読みに突入する。


 赤利は冷静さを失った目で俺の持ち駒と盤上の駒を計算し始め、その点数が余裕で"30点以上"持っていることを知ると絶望の色を浮かべた。


「そんな、この赤利が……頭脳戦で誘導されたのか……!?」


 そう、俺は初めから狙っていた。


 ずっと、ずっとだ。赤利に止められた時からずっと、どこかで取り戻すチャンスがないかと狙っていた。


 これはプライドなんかじゃない。


 ただそれは、自然と俺の手元にあってしかるべきで、誰かの手によって止められるべきものじゃないんだ。


 煌びやかに輝く楼閣。決して崩れない天空城。俺はその壁際に隣接しながらそっと王様を繰り上がらせる。


 ──ずっと、ずっとこの時を待っていたんだ。


「さ、させるかぁ──ッ!!」


 何かに気づいた青薔薇が狂ったように猛攻を仕掛けてくる。


 だが、止められない。止められることを許さない。


 ──『自滅流これ』は、俺のものだ。



『【ヤバい】自滅帝とかいう正体不明のアマ強豪www【十段おめでとう】Part41』


 名無しの328

 :きたあああああああああああああああああ!!!


 名無しの329

 :きちゃああああああああああああああああ!!!


 名無しの330

 :うおおおおおおおおおおおおおおお!!!


 名無しの331

 :きたああああああああああああああああああああ!!!


 名無しの332

 :きたああああああああああああああああああwwww


 名無しの333

 :きたあああああああああああああああああああ


 名無しの334

 :自滅流、復活!!www


 名無しの335

 :自滅流きたあああああああああああああああ!!!


 名無しの336

 :これが正真正銘本当の自滅流じゃあああああああああああ!!!!


 名無しの337

 :生で自滅流見れる日が来るとは思わなかったwww


 名無しの338

 :きたぜえええええええええええええええ!!


 名無しの339

 :自滅流・耀龍楼閣!!!!!


 名無しの340

 :耀龍楼閣だあああああああああああああああ!!!


 名無しの341

 :あらゆる駒を輝かせ、龍の舞いを披露し勝利へ導く!!


 名無しの342

 :うわああああああこれを狙ってたのかああああああああああ!!


 名無しの343

 :やばいwwwガチで全ての駒が輝いてみえるwww病院いくわwwww


 名無しの344

 :だから狙って指せるもんじゃないだろこれwwww


 名無しの345

 :もう青薔薇に攻めのターン渡さねええええwwww


 名無しの346

 :『評価値』先手+9999 渡辺真才・必勝


 名無しの347

 :>>346 カンストでたあああああああああああwwwwww


 名無しの348

 :>>346 きちゃあああああああああああああああwwww


 名無しの349

 :>>346 ついに評価値振り切ったああああああああああああ


 名無しの350

 :>>346 これが自滅帝の本気


 名無しの351

 :>>346 バケモンすぎるってwwww


 名無しの348

 :>>346 これが全ての答えですw



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