その後は、本当に何事もなく。
まず俺は上半身の泡は充分なのでそのまま下半身へ。由那に見られるのは恥ずかしいのでそっぽを向いてもらっていた。
そしてゴシゴシのお礼として俺も背中を擦ってあげた後、二人で全身あわあわになってシャワーのお湯を浴びる。普通は頭を先に洗って次が身体だと思うのだが、まあ由那はもう既に全身泡まみれだったし。順番を反転させて行うこととなった。ちなみにもちろん、俺も由那が前や下を洗うときは見ないようにしていた。
由那が頭などを洗い始めてから俺は冷えた身体を温めるため湯船に浸かり、彼女も後を追って侵入してくる。
ザパァ、と音を立てて親がお溢れていくのを眺めながら。俺は脚を広げながら伸ばし、由那はその上に座るという。ギリギリ収まるサイズ感ながらもそれっぽい形が完成したのである。
「ふぃ〜。気持ちいいねぇ……」
「そうだなぁ。ぽっかぽかだ〜」
目の前には由那のうなじ。ふわっふわで艶々な白い髪の毛がカーテンのようにかかりながらも、絹のような肌が覗いている。
相変わらず、綺麗な身体だ。シミの一つも無くて、とにかくもちもちすべすべ。赤ちゃんかよ。
「えっへへ、ゆーしにぎゅっされながらお風呂、最高だにゃあ♡ ね、もっと強く……シて?」
「はいはい、言われなくても」
ふわりと香ってくる甘い匂い。入浴剤を入れていなくともさっきまでのボディーソープ、シャンプーなんかの匂いもそこら中からしている中で。彼女の細い身体を引き寄せて首元にそっと顔を近づけると、それとは明らかに別な″由那の匂い″が鼻腔をくすぐる。
結局これは石鹸とか香水みたいな後からつける匂いではなく、彼女自身の匂いだということか。本当、いつまでも嗅いでいたくなる。
「ふふっ、くすぐったいよぉ。ゆーし、今私の匂いくんくんしてるでしょ」
「なっ。なんでバレた」
「息、うなじに当たってるもん。自分じゃ分からないけどやっぱり私にも私の匂い、あるんだ〜」
「そりゃもう、な。めちゃくちゃ甘くていい匂いだぞ。嗅いでるだけで幸せになれる」
由那が俺の匂いを嗅ぐのと同じだ。
俺だって俺の匂いがどういったものなのか分からない。多分それは″自分から発する匂い″=″常に鼻に入り続けている匂い″なわけで、ずっとそれを嗅ぎ続けたことにより鼻が匂いそのものを認識できなくなっているからだろう。
だから由那の匂いも、由那には認識できなくて俺にだけ感じ取ることができる。なんだかそう考えるとちょっと特別感が湧いてくるな。
初めは由那と一緒にお風呂なんて絶対暴走するからダメだ。そう思っていたけれど。いざ一緒に入ってしまうと、あのアクシデント込みでもやっぱりまた入りたいと思ってしまう。それだけ彼女とのイチャイチャ満足度は高いし、幸福度も桁違いだ。
「む、ゆーしだけ幸せになっちゃってズルいよ。私も嗅がせてよ〜」
「ダメだ。今は俺が堪能してるからな。もうちょっと後ろから抱きしめさせてくれ」
「もぉ、仕方ないなぁ。あとで絶対、私もだよ?」
「ん。分かってる……」
本当はさっきのアレの手前、由那を優先するべきなんだけどな。どうやら嗅ぐのも嗅がれるのも、どちらも好きらしい。俺の言葉と共に身体を擦り寄せてくると、その無防備な背中でたっぷり甘えてきた。
そして、首筋を眺めながらふと。朝の出来事を思い出す。
『起きられなかった時はそれ、毎日一個ずつ増やしていっちゃうから♡ 私からのキスマーク……これ以上増えたらおばさんにバレちゃうかもねっ』
『えへへっ、ゆーしも私にマーキング……してくれてもいいんだよ?』