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第231話 圧倒的痴話喧嘩2

 どれ、普段散々ドキドキさせられている仕返しだ。由那がこんなに弱っているのは新鮮だし、たまには俺が優位に立ってもバチは当たらな────


「ねぇ……本当に、ダメ?」


「ダメだ。いくら水着着るとはいえ狭いお風呂で二人きりなんて」


「で、でも!」


「でも、なんだ?」


 おお? なんか珍しく塩らしいというか。いつもの勢いが無くなって頬を紅潮させても、小さい声で反論してくるな。


 でもやっぱりダメなものはダメだ。当然一緒に入りたくないって意味じゃない。ただ今入ってしまうと何か過ちを犯しかねない気がするし。何より、俺の心の準備がまだできてない。


「……しょ、将来的には、一緒に入るんだよ? お嫁さんになったら……お、お風呂以外にも一緒にしたい事、いっぱいあるし……」


「お、お嫁さっ!?」


「うん……」


 コ、ココココイツなんてことを言うんだ。


 お嫁さんになったら、なんて。いや確かに俺は由那以外とそういう関係になる予定は無いし、なんなら一生一緒にいたいと思っているけども……。


 というかどうしよう。そんなこと言われたら死ぬほど断りづらくなってきた。なんかここで一緒に入らない=今後も入る気がないみたいに捉えられてしまいそうで。


 しかも表情が表情だ。いつものように満面の笑みを浮かべ、楽しそうにそう言ってくるならまだしも。今の由那は意地でも俺とお風呂に入りたくて、恥ずかしいことを言っているという自覚がありながらも搾り出すようにその言葉を告げ、お願いしてきている。


(断って、いいのか? 俺の理性が持たないからなんて、そんな理由で……)


 そんな理由。心の中でそう言ってはいても、俺の中で理性が持たないという理由は″そんな″という言葉で片付けていい小さなものではない。


 ただ────


「せっかくお泊まりできるようになったんだもん。お風呂、一緒に入れたら凄く気持ちいいよ? 私は可能な限りずっとゆーしから離れたくないなぁ……」


「う゛っ。ず、ズルいぞお前、そういうの」


「ズルくても……いいもん」


 もう、だめか。


 服の袖を摘みながらお願いを繰り返してくる由那の表情には、正直かなりクるものがあった。


 俺の心が言ってる。由那と一緒にお風呂に入りたい。これからお泊まりする楽しみを増やしたい。恋人としてできることを増やしたい……と。


 結局いつものように言いくるめられたような形にはなってしまうけれど。もうそれでもいいと思えるほど、とにかく由那が可愛くて。


「ああもう、分かったよ」


「いい、の?」


「いい。いいけど、ちゃんと水着は付けてな。あと……」


「あと?」


「……暴走しちゃったらごめん。先に謝っとく」


 温泉に行った時、なでなでしてあげたい欲が限界突破して後ろからハグし、しばらく離せなかったのは記憶に新しい。そのうえ俺専用水着を着られ周りからの視線が全部無くなってしまったりなんかしたら。どうなってしまうのか、ちょっと自分でも怖いけれど。


「ふふっ、なにそれ。でもオオカミさんなゆーしもかっこいいし……。えへへ、ぎゅっしてもらえるならちょっと乱暴でもいいかも……」


「はぁ……ったく」


 どうやら調子が戻ったらしい由那は何やら俺との妄想を捗らせると、照れ照れと両頬に手を当てながら横目に俺を見る。


 さっきまでの大人しさはどこはやら。これではまるで俺が嵌められたみたいだ……というか、実際に嵌められたのかもしれないが。


 まあ何はともあれ。一緒にお風呂となると気合いを入れないとな。





────普通のイチャイチャで済むように。

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