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第229話 堕落の先で

「ふにゃにゃにゃ……ぐりぐりぐりぃ♡」


「あの、由那さん? 今日ずっとこうしてるけど。飽きないのか?」


「えぇ? じゃあゆーしは私とイチャイチャ、飽きるの?」


「……いや。それはない、な」


「でしょ〜? 私も一緒だよ〜」


 結局俺たちは丸一日、惰眠を謳歌していた。


 午前中はずっとベッドの中。二人で丸まりながら一台のスマホで動画を見たり、他愛無い話をしたり。あとたまに、顔を見合わせていると我慢できなくなってハグにキスに、と。中々に甘々で濃密な時間を過ごした。


 お昼になるとようやくちゃんと起きた母さんと三人で昼ごはん。由那はあくまで朝ごはん係なのでそこは頼りきりになることはなく、あくまで由那はお手伝いという立ち位置で一緒にナポリタンを作っていた。


 それを食べてからはすぐに歯を磨きまた俺の部屋へ。一瞬夏休みの宿題でもするか、なんて流れにもなったけれど、なんやかんやで流れて。気づけば次はお布団の上からベッドに寝転がり、なんとな〜くダラダラ。午前と変わったことなんて俺たちが布団の中でぬくぬくしているか布団の上でのんびりしているかくらいのものだろう。


 そして現在時刻、午後五時。本当に何もしないまま、夕方を迎えたのである。


「夏休みさいこぉ。ゆーしと一日中ごろごろイチャイチャして蕩けてられるなんて。しかもこれが合法だよぉ?」


「うーむ、堕落してる。堕落してるぞ……。でもなんでだ、もはや悪い気がしなくなってきているのは」


「それはゆーしも気づいちゃったからだにゃ。私とず〜っとベッドの上でこうやってイチャイチャ〜が一番気持ちいいって♡ ね、一緒にダメ人間になっちゃお? 堕落、しよ?」


 な、なんて提案をしてきやがるんだコイツは。


 由那と一緒に堕落? 毎日ごろごろイチャイチャするだけの毎日? ……なんだよそれ、最高じゃないか。


 って、ダメだ。気を抜くと簡単に篭絡させられるぞ、これ。将来的にはその……俺は頑張って就職して、二人でいられるようお金を稼がなきゃいけない時が来るのに。今からこんな堕落癖を付けられたらそれどころじゃなくなってしまう。相変わらずコイツは男を堕落させる素質がありすぎるぞ。


「俺はしない。しないぞ、堕落なんて。あ〜、ダメだ。一回さっぱりしてくる」


「さっぱり?」


「風呂だよ。外には一歩も出てないけど入らなきゃだろ」


 よし、こういう時は風呂に入って気持ちをリフレッシュさせるのが一番だ。いやまあ……結局身体がポカポカに温まったらそれはそれで眠くなり、由那の包容力によってベッドに誘われる未来が見えているんだけども。


 うん、無理だ。逆らえるわけがなかった。まあでもどの道風呂は入らなきゃだし、動けなくなってしまう前に────


「……」


「……一緒には入らないぞ?」


「水着、あるよ?」


「そういう問題じゃない」


「背中……誰よりも丁寧に流してあげられるよ?」


「いやだから、そういう問題じゃ……」


「ゆーし専用水着、だよ?」


「………………」




 えっ?

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