「ほんと、ひなちゃんといると時間が経つのあっという間だな。気づけばこんな時間かぁ」
「うぅ、まだ帰りたくないですぅ」
「んなこと言ったって。門限、六時なんだろ?」
「……ひゃぃ」
季節も季節だ。まだまだ外は明るいし、夏限定でもいいからもう少し門限を伸ばしてあげればいいのに。なんて、会ったこともないひなちゃんのお母さんに対して思いつつも。結局名残惜しそうにしながら帰る支度を始める彼女の背中を見つめる。
私としてはやっぱり、もう少し長く一緒にいれたら嬉しいんだけど。まあ他所の家族事情に口を挟むわけにもいかないし。こればっかりは仕方がない。
「まあひなちゃんさえよければまた明日も来てくれていいから。自主練もほどほどにな?」
「も、もちろん明日も来ます! 自主練は欠かしません、薫さんに退屈させたら悪いですから!!」
「い、いや……な? ひなちゃんもう相当強いんだよ。そろそろこれマジで勝てなくなってきそうだから言ってるんだぞぉ?」
そういえば以前、文化祭の時にゲーム同好会とかいう奴らと知り合ったが。ひなちゃんを連れて行くと私の時みたいに猛烈なスカウトをしそうだな。
正直自主練しているとはいえやっぱり成長の伸び率が高すぎる。もしかしたらひなちゃんには秘められた才能的なアレがあるのかもしれない。集中力、反射神経なんかもかなり高いし。あの同好会長も気に入りそうだ。まあ絶対連れて行かないけど。
とにかくひなちゃんのレベルは今、その程度まで達している。私のために努力してくれるのは嬉しいがこのまま抜き去られる展開だけは勘弁したいものだ。
「えへへ、明日こそは一勝して見せます! あっ、薫さん他にも何かハマってらっしゃるゲームがあるならぜひ教えてくださいね? 一緒にプレイしたいですから!」
「お、おう。まああるにはあるけどさ。言って大丈夫か? 言ったらまた即決で買いに行くんじゃ……」
「? 勿論行きますよ?」
「怖い。純粋過ぎてもはや怖いよひなちゃん。そんなんじゃいずれお金消し飛んじゃうよ? 悪い男に引っ掛けられるよ??」
「え、えへっ、私が一緒にゲームしたいのは、その……薫さん、だけです」
「っっ!! そういうところなんだっ!!」
この子、きょとんとした顔で軽々と言ってくるからヤバい。純粋すぎてもはや私なんかが一緒にいると毒してしまいそうで……いや、もしかしてゲームを勧めちゃった時点でもう毒しちゃってるのか?
「っと、そろそろ帰らないと! じゃあ薫さん、また明────」
「あ、ちょっと待って!」
「へ……?」
私は無意識のうちに、部屋から去ろうとするひなちゃんの手を掴む。
そして一度引き留めてから、瞬時に。クローゼットを開いて一番左の段ボール箱からある物を取り出すと、手渡した。
「こ、これは?」
「えっと、な。私のお古なんだけど一応、ヘッドセット。それ使えば通話とかしながらでもスムーズにゲームしやすくなる」
ああ、馬鹿野郎。毒していると分かっているくせに何故こんなことをするんだ。これじゃまるで、沼に嵌める悪友だ。
けど……
「よかったらその……オンライン通信も、と思って。あ、もちろん私の家でゲームするのは今まで通り続けてくれていいんだ。ただこれがあれば門限で帰っちゃった後も、やりたい時に呼んでさえくれれば一緒にプレイできる」
「っ!? い、いいんですか!? こんな大事なもの、貰っちゃって……」
「ああ、勿論。今使ってるのそれより性能良くて使う機会無くなったんだけど、やっぱり初めて買ったものとなると捨てるのも名残惜しくてな。どうせなら友達に……ひなちゃんに使ってほしい」
「〜〜〜!! 〜〜っ!!!」
心のどこかでまだ、ひなちゃんと遊び足りない私がいる。
ったく、文化祭前まではほとんど話したこともなかったってのにな。いつの間にここまで惹かれるようになったのか。
「だ、大事にします。家宝にします! 抱いて寝ます!!」
「あっはは、抱いて寝るのはやめとけ。ぶっ壊れるぞ?」
「ハッ! じゃあ耳につけて、ですかね!?」
「喜んでくれてるのは死ぬほど伝わってくるけど、まあ適切な使い方してくれ。どうする? 早速今日の夜テストがてらやってみるか?」
「ぜひ! ぜひっ!!」
「ん。じゃあまたあとで、な」
「はいっ!!!」
まあ、可愛いし。……なんでもいいか。