よく考えれば変な話だ。
外は暑い。ここに来るだけでも汗をかいてしまうほどに。元々運動が好きで、とか太陽光を浴びないと落ち着かないとかならともかく。ひなちゃんがそういうタイプじゃないのは、玄関の扉を開けた時に汗だくで息も絶え絶えになっている姿を見れば分かる。
ひなちゃんの家が特別貧乏で私の家じゃないと涼しくないから、ということもないだろう。少なくともそんな家庭環境な子がSmitchの衝動買いなんてできない。
私としてはひなちゃんが来てくれると嬉しいし、一人でゲームをしているよりもずっと楽しくなれる。けど、じゃあひなちゃんは私の家にそこまでして来るのにいったいどんな理由が……
「そ、それは絶対ダメです! いや、その……外出できない夜の時間に、とかならいいんですけど。私はか、薫さんのお部屋でゲームがしたいです!!」
「ふふっ、それは毎回フラフラになりながら自転車を漕いででも、なの?」
「も、勿論です! だって私は……」
「だって?」
みるみるうちに、ひなちゃんの顔が赤く染まっていく。
そして細々と声で、恥ずかしそうに身体をもじもじさせながら。言った。
「薫さんについていけるよう、ゲームを買ったんですもん。しょ、初心者な私が相手じゃ退屈、だと思うので。それでお家で練習を……」
「〜〜〜っ!?」
見誤っていた。
ひなちゃんがSmitchをわざわざ買った理由。私の予想していたいくつかのパターンは全て外れていたのだと、気付かされる。
「つ、通信でなんて、嫌です。薫さんに抱きしめてもらったり、頭なでなでしてもらったり。通信じゃそういうの、してもらえないじゃないですか」
ひなちゃんは″私と″ゲームがしたくて、数万円もするそれに手を出したのだ。
ドクンッ、と胸が熱くなる。なんだこれ。不覚ながら死ぬほど可愛過ぎて抱きしめてあげたい気持ちが止まらない。これが、母性……?
「わ、わわっ!? 薫しゃん!?」
「そっか、ごめんな。変なこと言って。大丈夫だぞ、ひなちゃんのお願いならなんだって答えてやる。ん〜、好き!!」
「すっ────!? ひゃわぁ!!」
思わず私は、ひなちゃんを真正面から強く抱きしめていた。
なんて健気でいい子なんだ。周りの女子には私レベルにゲームを好きな子はいなかったし、進めてもあまりハマってくれなかったのに。ひなちゃんはハマるどころか、私とプレイするのが楽しいからなんて。寄り添ってくれてる。
ああ、こういう子だったら好きになれたのかもなぁ。クラスの男子なんかよりよっぽどひなちゃんの方が魅力的だ。はっ、さては私甘えてくる子がタイプなのか!?
そうか、それで由那ちゃんにも真っ先に声をかけたんだ。見るからに甘えんぼそうで死ぬほど可愛かったあの子に。
もしかしたら私の中にはめちゃくちゃ強い母性本能が眠っているのかもしれないな。凄いことに気付かされたものだ。
「す、好きって……へへ、へへへっ♡ か、薫しゃんが、私のことぉ……♡ わ、私も、ですっ♡ ああ、幸せぇっ♡♡」
「よしひなちゃん、もう一戦やるか! せっかくひなちゃんが私とゲームしたいって言ってくれてんだ。今日はとことんやるぞぉ!!」
「じゅる……ひゃ、ひゃひ! よろこんで!!」
休憩として腰掛けていたベッドからすかさず立ち上がり、ゲーミングチェアへ。ひなちゃんも定位置である私の太ももの上に乗ると、二人でコントローラーを構える。
その後、連戦は何十試合にも及んで。結果的に三時間以上もそこから一歩も動かず、ゲーム画面と睨めっこを繰り返したのだった。