「ん〜! このお味噌汁めっちゃくちゃ美味しい!え、由那ちゃんもう私より料理上手くない!?」
「えっへへ、そうかなぁ。喜んでもらえてよかった〜!」
ずずずず、とほかほかの湯気を立てている味噌汁を啜る。
「ゆーしも、どう? 美味し?」
「……最高」
「やったぁ♡」
髪がボサボサな母さんと、軽く寝癖のついた俺。そして元気満タンな様子の由那さん。三人で食卓を囲み、和風な朝ごはんを摘む。
具沢山で健康的なお味噌汁も、少し甘めに味付けされたふわとろ卵焼きも。どれもこれも、本当に美味しくて。起きてきてよかったと思わせてくれる。
「ふふっ……目、覚めたみたいでよかったぁ。ね、これからはあの起こし方、毎日してもい〜い?」
「や、やめてくれ。朝からは流石に心臓に悪すぎる……」
「じゃあこれからはちゃんと肩トントンだけで起きてねっ♪」
「……はい」
寝ぼけていた俺の目を覚ますためのイチャイチャは、それはもう凄まじかった。
多く語りはしないが、まあ逃げられなくされてから色々と……な。キスもハグも匂いクンクンも。もう密着して行うイチャイチャのフルコースで、甘い匂いと共に無理やり頭を覚醒させられた。……男として別の部分も危なかったのは内緒だ。
「はむっ、ふぐふぐっ。ん? ね、勇士。アンタ首元に絆創膏なんて貼ってたっけ? 蚊に刺されて掻きむしりでもした?」
「ぅえっ!? い、いやこれは……ああ、そ、そうなんだよ! 刺されたところ掻いちゃって血が、な」
「ふぅん。気をつけなさいよ? 昔からただでさえ蚊に刺されやすい体質なんだから。そろそろ季節も季節だし、あちらさんも本気出してくるわよ」
「お、おう。気をつける」
まあ当然、蚊にやられた傷などではないのだが。
これはちゃんと起きなかった罰として刻まれてしまったものだ。────隣の彼女さんから。
「ふふっ、虫刺されかぁ。大変だねっ♡」
「おま……」
なんて白々しい奴。自分で付けておいてよくもまあそんな他人事のように言えるものだ。
と、そんなことを考えていると。もっもっと朝ごはんを平らげて母さんが空のお皿をキッチンに持っていったその時。隣に座っていた由那が俺の耳元に口を近づけ、囁く。
「起きられなかった時はそれ、毎日一個ずつ増やしていっちゃうから♡ 私からのキスマーク……これ以上増えたらおばさんにバレちゃうかもねっ」
「〜〜〜っ!!」
俺がその気なら、考えがある。そう言った由那の激しいイチャイチャ責めでの目覚ましは、俺からすればご褒美。幸せホルモンで意識を覚醒させてもらえるなんて最高────と思っていたのも束の間。しっかりとお寝坊への罰は用意されていたのである。
それがこのキスマーク。俺がいつまでもダラダラして起きる素振りを見せなければ、これを増やしていくんだそうな。不意に首元に吸い付かれた時は本当に変な声が出そうになったものだ。
正直由那が俺は自分のものだとマーキングしてくるみたいなこの行為自体に、嫌悪感は無い。むしろそれだけ愛してくれているのだと分かるし、何より肌に唇が触れて触れるというのはどこか官能的な背徳感もあって。
ただ、罰ゲームと言うだけあって完全に見えてしまう場所にしてくるものだから。こうやって絆創膏を貼り隠す羽目になってしまった。いくらなんでもキスマークが残っているところをこの母親に見られるわけにはいかないしな。まあこれに関しては母さんに限らず、外に出る時も同様だが。
「えへへっ、ゆーしも私にマーキング……してくれてもいいんだよ?」
「す、するかバカ! ちょっ、胸元捲るなって……!!」
チラリと覗くのは真っ白で絹のような肌と鎖骨。そんなところにキスして吸い付くなんて……絶対感情が暴走するに決まってる。それだけじゃ済まず、とんでもないところに手を出してしまいそうで本当に怖い。
「もぉ、恥ずかしがり屋さんなんだから〜。でもそんなところも好きっ! ぎゅ〜!!」
「ふふっ、相変わらず仲良しバカップルねぇ。見てて微笑ましいわ」
本当、コイツは。新しい甘え方を見つけやがって。
キスマークによるマーキング。変な扉が開きそうなのでできればご利用は控えめにして欲しいものだ。