「……て……きて……」
「ん、んぅ?」
ゆさっ、ゆさっ。軽く肩が揺すられて、何やら優しい声と共に薄らと意識が覚醒する。
「起きて、ゆーし。朝だよ〜?」
「由那ぁ?」
「は〜い。あなたの彼女の由那ちゃんですよ〜♪」
ああ、そうだった。確か今日から由那が合鍵を貰ったから、朝起こしに来てくれるんだっけ。
眠い目を擦って普段から一度スマホに手を伸ばすところを、身体を反転させて彼女の姿を確認する。
ベッドの傍に片膝をつき、少し布団に乗るようにして俺のすぐそばに来てから肩を揺すっていたらしい。俺が視線を送るとニマニマとした表情でこちらを見つめていた。
「今、何時だ?」
「七時をちょっと回ったところ!」
「んぬぅ、早いぃ……。なあ、昨日は日中ごろごろしそびれたわけだしさ。二人でこのまま二度寝しないか?」
「ふふんっ。嬉しいお誘いだけど乗れないなぁ。ほかほかできたて朝ごはん、食べたくない?」
「むっ。それは、食べたい」
「じゃあ起きなさ〜い。下に降りて一緒に食べよ? おばさんもそろそろ起こすつもりだから〜」
「……あと五分だけ、ダメか?」
「もぉ、ゆーしだらしないよっ。男の子なんだからシャキッとして!」
そんなお前、うちの母さんよりも母さんっぽいことを言いやがって。
起きなきゃいけないことくらい分かってる。というか由那のお手製ほかほか朝ごはん、冷めないうちに食べに行きたいし。マジで頭は起きようとしてるんだ。
けど身体が重くて動いてくれない。昨日に色々なことが起こり疲れていたのもあるし、まあシンプルに俺自身いつも朝は弱いし。どうしても身体がついて行かないんだよなぁ。
「つーん。じゃあ知らないよ? 早く起きてくれなきゃゆーしは朝ごはん抜きだから。おばさんと二人で美味し〜いごはん食べちゃうもんね〜だ」
「うぅ、それだけはやめてくれえぇ。俺も食べたい、本当に食べたいんだよぉ。けどお布団が離してくれないんだぁ……」
我ながらなんとだらしないことを言っているのだろう。せっかく要望通り由那が優しく起こしに来てくれて、そのうえ朝ごはんまで用意してくれているというのに。
……いや、原因は正直すぐに分かった。多分いつもは早く由那に会いたい、待たせちゃ悪いみたいな感情が働いてなんとか身体を叩き起こしていたんだと思う。
けど今はもうすでに由那に会えていて、そのうえ起こし方も優しいからついつい安心感で身体の力が抜けてしまうのだ。イチャイチャする時に気を張り詰めず脱力するのと一緒。俺は今、恵まれた環境の中最高に堕落してしまっている。
「ね〜ぇ〜、早く起きてよぉ! 私もうお腹すいたぁ!! どうやったら起きてくれるのぉ!?」
「う〜〜〜〜〜む、そうだなぁ。頭回らんくて何も思いつかん……」
「もぉ! 私がいつまでも優しいと思って……いいの? そっちがその気ならこっちにだって考えがあるんだからね!!」
「考えぇ?」
ふっ。俺はつい無意識に鼻で笑ってしまった。
いや、マジで最低だな。あ〜クソ、俺もお腹すいてる。由那のごはん食べたい。でも……
そんな、自宅警備員がしそうなほどにくだらない言い訳を考えようとする頭に。由那は両手の平を当てると、両頬を押さえつけて固定する。
少しむすっとした表情。ああ、やっぱり可愛い。死ぬほど可愛い。朝からこんな可愛い彼女さんに起こしてもらえるなんて、俺は幸せ者だぁ……。
「ゆーしがそう来るなら────目が覚めるほどのイチャイチャ、しちゃうもんね♡」
「……へ?」
あれ、ちょっと待て。
なんか凄く嫌な予感が……