「〜〜♪ 〜〜〜♪」
私は、お母さんの作ってくれるごはんの暖かい味が大好きだった。
お店で食べるものとはなんというかこう……美味しさの種類が違う、そんな味。きっとあれはお母さんにしか出すことができない、江口家だけの家庭の味だ。
私に全く同じものを作ることはできない。────でも、同じように″愛情″をたっぷり込めることはできる。
まずは炊飯器でご飯を炊いておき、すかさず包丁とまな板、食材としてじゃがいも、お揚げさん、にんじんを取り出して必要分を切り落とす。
コロコロと少し丸っこい形で、それでいて食べやすいサイズ感を意識しながら。次はコンロの上にお鍋を乗せ、中にリットル数を測りながら水を入れて、野菜が切り終わると同時に沸騰するよう火加減を調整。
全ての食材が切り終わるとそれらに加えお味噌などの味付け料をお鍋へと入れ、あとはおたまで軽く混ぜながら完成まで持っていく。
「やっぱり暖かい家庭の味を意識した朝ごはんと言えば、これだよね〜」
朝ごはん係に任命された初日。記念すべき第一回目に作る献立は、白ごはん、お味噌汁、卵焼きとサラダの盛り合わせ。
シンプルだけど、だからこそ私の料理スキルが試される。おばさんにも私がゆーしのお嫁さんになる資格があると認めてもらうために、頑張らないと。
玉ねぎの皮などのまな板に残った生ごみを一度捨ててから、次はボウルに卵を割って菜箸でかき混ぜる。
本当は同じ卵料理ならスクランブルエッグのほうが作りやすいし、なんなら初めてゆーしにおいしいと言ってもらえた料理で思い出も深い。だからそっちでも良かったんだけど、最近やっとふわとろな卵焼きを作れるようになってきたから。自慢がてら、どうしても作ってあげたくなっちゃった。
「くんくん、くんくんくん……なんかいい匂いするぅ……」
「あっ、おばさん! おはよ〜!!」
ぽりぽりとお腹を掻きながら相変わらず無防備な薄着で降りてきたおばさんは、薄目で私の背後に寄ってくるとグツグツ沸騰したお鍋を見つめる。
「ふあぁ。おはよう由那ちゃん。朝早いんだねぇ。ね、ちょっと味見してもい〜い?」
「ふふっ、だめ〜。まだ味付け終わってないもんっ。おばさんまだおねむでしょ? ちゃんとゆーし起こすのと一緒に起こしてあげるからまだ寝てていいよ〜?」
「っへぇ。じゃあお言葉に甘えよっかなぁ。おやすみぃ……」
「は〜い♪ あ、ちゃんとお布団かぶって寝てね〜?」
「うぃっすぅ」
おばさんはつい最近まで海外での仕事続きで疲れている身。昨日だってやっぱりお酒で簡単にダウンしてしまったのは疲れが溜まっていたからだと思うし。案の定、いつもなら「そんな釣れないこと言うなよ〜、一口だけだからぁ!」なんて言ってなんとしてもお味噌汁を啜って帰りそうな気がするけど。
まるで子供のように従順になってしまっていたおばさんは、そのままふらついた足取りで一度トイレに。そこから出てくるとこちらに戻ってくることはなく、階段を登って自室へと戻った。
「ふふっ、寝起きが可愛いのはやっぱり遺伝なのかな?」
ゆーしも、一緒にお昼寝した後の目覚めはかなり悪い。ぽわぽわとした雰囲気を纏い甘えんぼになったり、私を抱き枕と勘違いしてしばらく離してくれなかったり。寝ぼけている時のあの感じは、母子でそっくりだと思った。
「っと、そろそろお味噌汁いい感じかな……どれどれ」
醤油皿にお玉一杯分のお味噌汁を移し、啜る。
「ん……完璧っ♡」
それから、全てのおかずを作り終えて。ご飯が炊き上がり諸々の工程を全て終えると、時刻は六時過ぎ。
もう少し遅く来たほうがよかったかな、なんて思いつつも。とりあえず完成さえしてしまえば温め直すだけでいつでも出来立てが食べられるし、卵焼きに関しては熱々である必要はない。むしろ私はちょっと冷めているほうが好きだったりする。
だから、ここからはフリータイム。ゆーしとおばさんを早めに起こしてしまうも良し、一人でのんびりリビングで過ごすも良し。
大好きな人の部屋で過ごすのもまた────
「よし、ゆーしのお部屋行こ〜っと」
これは、朝からお世話をする彼女としての特権。
私はエプロンを外すと、それを畳んで真っ先に階段を駆け上ったのだった。