「由那ちゃん、もふもふぅ……でへっ、でへへっ……」
「おい、どんな夢見てるんだ。ったく」
由那を家まで送り、戻ってくると。まだ気持ちよさそうに目を閉じソファーの上で何やらごにょごにょ言っている母さんがいた。
まあ日本に戻ったら一番に会いに行くと言っていたくらいだ。多分由那に会えて相当嬉しかったんだろうな。俺からのみならず、優奈さんからもどれだけ可愛く成長したのかを聞かされていたみたいだし。
「変わってないな、ほんと」
母さんは昔からずっとこんな感じだ。一言で表すなら台風の目のような人。騒がしくていつも場を荒らしてくる。が、意外と嫌われるどころか好かれている場合がほとんど。事実由那も懐いているし、優奈さんとも関係は良好。地域の人とも仕事のせいで滅多に会うことはないものの、ふと帰ってきた時に一緒に買い物に行ったりなんかすると色んな人から話しかけられる。
何度仕事でしばらく会えない期間が続いても、この人のそういう根っこの部分はずっと変わっていない。それが良いことなのやら悪いことなのやら。俺には判断しかねるが。
「ほら、起きろって母さん。疲れてるならベッドで寝ろー」
「ん、んうぅ? 勇士……? あれ、由那ちゃんは?」
「もうとっくに帰ったっての。母さん酔い潰れて寝ちゃったから俺たち二人でソファーに運んで寝かせてたんだよ」
「うへぇ、むぁじか。ん゛ん〜〜! いやぁ、でもちょっと身体軽くなった気がする。いっぱい触れ合えて体力回復したのかな」
「はいはい。由那にべったりだったもんな」
「あ〜、もしかして嫉妬してる?」
「は? してないけど」
「またまたぁ。母さんがずっと由那ちゃんに付きっきりなもんだから寂しかったんでしょぉ。も〜、そういう素直じゃないところ、お父さんそっくり」
「えぇ……」
寝ぼけてるのか? ニヤニヤしながら謎な発言をしてくる母さんに、思わず小さなため息を吐く。
嫉妬て。別に母さんが由那とどれどけ話していようが俺はなんとも思わない。そりゃあいきなり他所の家に行って息子を放っておいて……とかなら話は別だと思うけども。これからお泊まりを許されたことによって更に母さんと一緒に過ごす機会が増えるであろう由那と仲良くなってくれていることに対して、嫉妬などするはずもない。
「母さんが触れ合えて元気になれるのは由那ちゃんだけじゃないよ。勇士、アンタが結局一番なんだから」
「オイオイ、本当どうした? もしかしてまだ酒が抜けてないのか?」
「ふふっ、そうかもね。シラフじゃこんな恥ずかしいこと言えないか」
全く、これだから酔っ払いは。不覚にも一瞬ドキッとしてしまったじゃないか。
「でもやっぱり勇士に……息子に触れ合えて、仕事の疲れも吹っ飛んじゃった。まだしばらくいると思うけどウザがらないでね?」
「そんなことしないって。一応俺もまあ……久しぶりに会えて嬉しいし。合鍵の件とかもろもろ、やっぱり感謝はしてるし、な」
「あ〜、息子がデレたぁ! ふぇっふぇっふぇ! ほぉら、頭ヨシヨシしてやろぉ。おいで息子よ!!」
「それだけ元気なら部屋まで付き添わなくても大丈夫そうだな。俺は風呂入るから。おやすみ」
「あぁ〜ん! もぉ、やっぱり恥ずかしがり屋だなぁ!!」
それにしてもこれからは、もう一人の夜を過ごすことはほとんど無いのだろうな。
由那がいて母さんがいる。一人の夜にはもう慣れていたから、今更寂しいなんて思う日はほとんどなかったけど。
家の中に俺とは別の誰かがいる。それだけで少し安心感があるのは事実だ。
(母さんに関しては、やっぱりちょっと騒がしすぎる気もするけどな……)
この先、どうなっていくことやら。
まあ……なんとかなるか。