「さ、寂しい……?」
「そうよ、当たり前じゃない。可愛い可愛い娘がまだ嫁入りもしてないのに他所のお家に行っちゃうなんて。寂しいに決まってるでしょ」
「そうだぞ由那あ゛あ゛あ゛ァァ!! お父さんは寂しいぞ!? ただでさえ最近仕事終わりのお帰りなさいを言ってもらえてないのに!!!」
寂しい、なんて。予想外だった理由に動揺してしまう。
もっとこう、行き過ぎるとゆーしに迷惑がかかっちゃうからとかお金がかかっちゃうからとか。そういう理由だと思っていたのに。
(寂しいって、思ってくれるんだ……)
確かに私だってここにいる三人の誰かとずっと会えないなんてことになったらとても寂しい。そうなることを止められるなら全力で止めると思う。
「憂太も、ね。お姉ちゃんがいなくなっちゃったら寂しいでしょ?」
「…………それは、うん」
三人が私がいなくなってしまうことを寂しいと思う人達なら、きっと毎日ゆーしのお家にお泊まりすることができた。毎日できるというそのこと自体は嬉しいし、私にとって最高の日々が続く。
……でも。それを妨げる提案をされているのに、私は嬉しくなってしまっていた。お父さんはまあ……置いておいて。お母さんも憂太も、私がいないと寂しいと言ってくれた。それだけで胸が熱くなってしまう。
「え、えへへ……そっか」
ゆーしが私に向けて愛情を注いでくれると嬉しくなるように。恋愛的なものとは違う″家族への愛情″も、それと同等に幸せホルモンを増幅させて胸をキュンと刺激してくる。
「分かったよ。みんな、私がいないと寂しいんだもんね。だったらずっとゆーしに付きっきりでいるわけにはいかないなぁ、もぉ……」
きっといつか私はこの家を手を出てしまうと思うけれど。少なくとも今はまだ、その時じゃない。
ゆーしには私のこの先の時間を全部あげられる。あげたい、受け取って欲しい。でも、私はまだ高校生で。
「じゃあお泊まりは週に三回まで。一週間のうち最低でも三日はここに帰ってくること。いい?」
「はぁい。憂太もごめんね? お姉ちゃん、そんなに寂しがってるなんて気づかなかったや」
「ぼ、僕は別に……でも、うん。それくらい帰ってきてくれると嬉しい、かも……」
「み、三日? たったの三日だけ、なのか? 優奈さん、ちょっと甘いと思うぞ!! せめてお泊まりは一回まで! それ以上を望むならやっぱりあのクソガキを────」
「ぶぅ。いじわる言うお父さんは嫌い! 私だってゆーしとのお泊まりこれ以上減らされちゃったら嫌だもん!」
「き、嫌!? ひっ、ぐぅ……優奈さん! 由那が俺のこと、嫌いってぇ……」
「あらあら、もう。ほんと口だけでメンタルの弱い人なんだから。よしよし」
私がつい言ってしまった″嫌い″という言葉にやられてしまったらしいお父さんは、ぽろぽろと涙を流しながらお母さんに縋り付く。
こうしてなんやかんやありながらも、江口家の家族会議は終了したのだった。
はちゃめちゃで、でもあったかくて。ゆーしといる時間と同じくらい、家族で過ごす時間も大切で幸せなものだと。
そう、改めて気付かされた。