「お、お母さんも反対……なの?」
「え? いや……反対はしてないわよ?」
「でも認めてないって!」
「ええ。完全には、ね」
お母さんの言っている意味が分からなくて、私は思わずきょとんと目を丸くしてしまう。
完全には。つまり半分くらいか、それともほんの一部か。認めてはいるけれど反対している部分もある。そういうこと?
少なくともお母さんは絶対的な味方。そう思っていた前提が崩れてしまい、不安感が溢れてくる。
せっかくおばさんにゆーしとのお泊まりを認めてもらえたのに。合鍵も貰えて、確かお母さんのことは説得してくれたと言っていた。それなのに────
「そ、そそそんな泣きそうな顔しないで!? だからあくまで完全には認めてないだけだってば! お母さんからはお泊まりの″条件″をつけたいだけなの!!」
「条件……?」
そんなに悲しそうな顔をしていたのだろうか。お母さんは慌てふためきながらまるで私をあやすようにそう言うと、一度息を整えて。おっほんと小さな咳払いをしてから言う。
「ねえ、由那。勇士君のお家にお泊まりするのはいいけど、どれくらいの頻度でするかは決めてる?」
「へっ? えっ、と……」
「何も言わなかったら毎日のようにお泊まりする気じゃなかった?」
「う゛っ!?」
お泊まりの頻度。言われてみればそんなこと、しっかりとは考えていなかった。というか、毎日お泊まりする気満々だった。
日中はどこかへデートに行ったり、時にはお家でゲームに映画、テレビに読者でイチャイチャ。夜には同じ布団で寝て、ぽかぽかな朝を迎える。そしてゆーしの寝顔を見つめながらそっと布団を出て朝ごはんを作り、優しくお嫁さんみたいに起こしてあげる。
そんな幸せな日々は、できることなら毎日続いて欲しい。私は絶対そう思うし、それを実行に移すということは即ち毎日ゆーしのお家でお泊まりすることを意味している。
お母さんにはそんな私の考えがバレバレだった。だからこそお灸を据えようとしているのかもしれない。
「はぁ。やっぱり、ね。由那、あなたは勇士君のことになるといつも周りが見えなくなって一直線だもの。恋は盲目なんて言うけれど、それの典型例よ?」
「で、でも……おばさんは何日でも好きにお泊まりしてくれていいって言ってたもん。むしろお寝坊さんなゆーしを起こしてくれるし朝が弱い二人のために朝ごはんも作ってくれるんだったら本当に助かるって……」
「それは本当にそうかもしれないわ。奈央さんはその辺り、嘘はつかずに正直に話す人だもの。けどやっぱり毎日はダメ。ちゃんと週に何日までって決まりを作っておかないとね」
「な、なんでぇ。お勉強だって頑張るし、ゆーしに絶対迷惑かけないよ? 朝ごはんもとっておきのを毎日作るし……」
「ダメな理由? そんなの、決まってるでしょう?」
そう、堂々と私の目を見て言ってくるお母さんは微笑みながら、一度お父さん、そして憂太の顔を見てから。まるで三人の意見を代弁するかのように、その心の内を伝えた。
「勇士君に由那を取られて会えないなんて。寂しいもの」