「え、えっと……お待たせ」
「ゔるるるるる……」
「ね、ねぇなんで僕呼ばれたの? なんか雰囲気が怖いんだけど」
「ふふっ、座って由那。待ってたわ」
憂太も言っているけれど、怖い。本当に怖い。
お風呂から上がり髪を乾かしてリビングへと戻ると、いつも家族でみんなでご飯を食べるテーブルに三人がスタンバイしていた。
一番奥はお父さん、その横に憂太。お父さんの向かいにはお母さんが座っていて、その隣に用意された椅子に私は腰掛ける。
まるでこれでは家族会議だ。私がゆーしの家にお泊まりすることを報告するだけの会がまさかここまで大きくなるなんて。
「えー、じゃあ早速始めましょうか。今回集まってもらったのは他でもない、由那のことについて。じゃあまず報告してもらっていい?」
「う、うん。分かった」
なんだか本当に会議のような始まり方に戸惑いつつ、私はお母さんから伝えるように言われていたことを話す。
ゆーしのお家の合鍵を貰ったこと、お泊まりする許可を得たこと。その代わりにゆーしの目覚まし係と朝ごはん係を任命されたこと。
お父さんも憂太も、目を見開いて私の話を聞いていた。いや、もはや聞くだけに飽き足らずお父さんはというと
「お、お父さんは許さないぞそんなの!! ゆ、ゆゆ由那はまだ高校生だ! そんなクソガキの家にお泊まりなんて絶対に許さな────」
「弘蔵さん? まずは話を聞きましょうねぇ。先に進まないでしょ?」
「で、でもっ!!」
「お返事は?」
「っ……んんぅ」
立ち上がって今すぐにでもゆーしを襲撃しにいかんとせんばかりの激昂を見せ、お母さんに宥められていた。
こうなるんだろうなぁ、とは思っていたけれど。やっぱりお父さんの私への愛は少し重い。
ただ少し意外だったのは、憂太も立ち上がりまではしないものの驚いた様子で私を見ていたこと。お姉ちゃんとしては可愛い弟が私が家にいる時間が少なくなることを寂しがってくれるのは正直……ちょっと嬉しかったりする。もう憂太も連れて行こうかな。お父さんは絶対ダメだけど。
「と、いうわけで。由那はこれから勇士君の家にお泊まりをします。どう? 弘蔵さん、憂太」
「ど、どうって! やっぱり俺は反対だぞ! そんな、いくらなんでもまだ早すぎる!! ほら、色々と学校生活の弊害だって出てくるかもしれないだろ!!」
「弊害? 例えば?」
「んぬ……そうだ、成績! 遊んでばかりいると成績が落ちるかもしれない!!」
「ふふ〜ん、お父さん? そんなことないよ〜。見て、この前の期末テストで私、めちゃくちゃ点数上がったんだ〜!! これもゆーしと毎日勉強してたおかげ!!」
「ふんぬぅ!? ば、バカな……」
私は元々お父さんに見せようと思っていた成績表を見せつけて、ふんすっ、と鼻息荒く胸を張って見せる。
あれ、お父さんの反対を押し切るの、案外私でもいけるかも。そうだ、私はゆーしと一緒にいることで幸せホルモンも上がって早起きもできるし、料理も上手くなって勉強だって点数という形に残るもので実績を見せつけられる。
ぐふふふ、お父さんさえ黙らせてしまえば誰も私とゆーしのお泊まりイチャイチャに反対してこないはず。これで毎日お泊まりして実質的な同棲を────
「うん。由那と勇士君がずっと一緒にいることで良い影響こそあれ、悪い影響は今のところ無いもの。勉強だってちゃんとテストで結果を残してて偉いわぁ」
「えっへへ、でしょ〜? じゃあこれでお話は終わりだよね! 私明日も早いから寝る準備しなきゃ!」
「あっ、ちょっと待って由那。実はまだ話は終わってないの」
「え〜、何ぃ?」
「ふふふ、ごめんね。実は私由那と勇士君のお泊まり……まだ完全には認めてないの」
「……へ?」
あれ、嘘。えっ? なんか空気が変わっちゃった?
完全にお母さんは私の味方で、敵がお父さんだけならなんとでもなると思ってたのに。
お母さんもそっち側なの!?!?