ゆーしにたっぷり甘やかしてもらってから、帰る準備をして。おばさんには挨拶してからのつもりだったけどまだソファーで熟睡しちゃってたからそのまま。いつものように家まで送ってくれるらしいゆーしと二人で家を出る。
昔は家が隣だったから送ってもらうと言ってもほんのわずかな距離だった。基本的にはやっぱり隣に住んでいる方が色々と融通は聞くし、部屋同士で窓を開けて直接話すことだってできたから最高の環境だったけど。
こうやって歩くと十分以上かかってしまう距離になってしまっても、これはこれで嬉しいと思える点はある。
「? どうした由那。早く行くぞ」
「うんっ!」
帰り道を二人で歩く。そんなこの時間は、とても至福だ。
自転車を押しながらゆーしの隣に並び、のんびりと色んな話をしながら遅い歩調で別れを惜しむように。ゆっくり、ゆっくりと門限ギリギリになるよう調節して歩く。
夏も段々と本番になってきたけれど、この時間はまだ少し肌寒い。私が寒がりなのもあってゆーしから上着を借りた。
首元の襟に鼻を近づけると、軽くゆーしの匂いがする。私の大好きな、彼氏さんの匂いが。
「えへへ、この上着ゆーしの匂いするぅ。もしかして最近着たやつ?」
「う゛っ、なんでそんなこと分かるんだ。確かに夜にコンビニ行く時とかよく着てるし、なんなら昨日着たけども」
「コンビニ? ゆーし、夜に一人でコンビニなんて行くんだ?」
「え? あー……最近小腹が空くことが多くてな。ちょっと夜食を買いに行ってる」
「ふ〜〜〜ん?」
「な、なんだよ……」
夜食、か。
私もたまに夜中とかに目が覚めてお腹が鳴っちゃうことがあるけど、外に出ることはない。
夜に一人で外出するのはゆーしからもお父さんお母さんからも、危ないからと固く禁止されているし。けど家にそういう″ちょうどいい食べ物″っていうのが無い時がほとんどだから、結局お水だけで我慢して部屋に戻ることがほとんどなのに。
「ゆーし、ズルい。私には夜に外出るなって言うくせに」
「へっ!? い、いやそれは……」
「夜に出歩いたらゆーしだって危ない目に遭うかもしれないんだよ?」
「お、俺は大丈夫だって────」
「だ〜め! これからはゆーしも一人での夜の外出は禁止だからね!! ゆーしの身に何かあったらとっても悲しいもん……」
「っ……わ、分かったよ」
「ほんと? あ、あと夜食もほどほどにね。私は別にゆーしがぽっちゃりさんになっちゃってもあんまり気にしないけど。健康的な食生活は長生きに大切だから
!」
「厳しい……厳しいぞ……」
「だって、ずっとゆーしと一緒にいたいんだもん。少しでも長く一緒にいるために、ね?」
「……はい」
この先、私はずっとゆーしの隣にいたい。い続けたい。そう伝えると、素直に言う事を聞いてくれた。
本当はゆーしだけ深夜にコンビニご飯なんて美味しそうなものを食べているのがズルいから、ちょっと嫉妬しちゃったんだけど。でもゆーしが何か危険な目に遭っちゃうのは本当に嫌だし、あまり不健康な食生活で身体を壊して欲しくもない。
「その代わり私がとびっきり美味しいごはん、これからも用意するから。楽しみにしてて!」
「ああ、そうか。由那のごはんはいつもいつも本当に美味しいし。小腹が空いた時は由那に何か作ってもらえばいいのか」
「にししっ、二人で深夜ごはん? もぉ、彼氏さんは悪だなぁ。でもすっごく楽しそう!」
「だろ? じゃあこれからお泊まりの時は期待しようかな」
そっか、これからは私が何時でもゆーしのごはんを作ってあげられるんだ。
もちろん毎日とはいかないけど。それでもやっぱり、彼氏さんのために何かをできるというのは本当に嬉しい。その機会もかけられる時間も、これからはもっともっと増えていくんだ。
「って、相変わらず由那と話してるとこの距離あっという間だな。もう着いたか」
「え? あっ……」
と、そんな幸せ時間も束の間。気づけば目の前には私のお家。時刻は七時五十六分と、ほんの少しだけ門限より早い帰宅だった。
「大丈夫、そんな寂しい顔するなって。五十九分まではここにいるから」
「っ!! も、もぉ……ほんと彼氏さんは私を喜ばせるのが上手だにゃぁ。じゃあお別れのイチャイチャハグもしてくれる?」
「勿論。セットでキスも付けるぞ」
「えへへ……じゃあお願いしよ〜っと♡」
別れるその瞬間までも、ゆーしは彼氏さんとして百点満点のことをしてくれる。
玄関先でするぎゅっ、と甘々なキスは一度夜風に当たり冷えてしまった私の身体をまたぽかぽかに火照らせて。一晩寂しくないようにと、世界一ぽかぽかな余韻を刻んでくれる。
(だいしゅき……♡)
やっぱり私にとって、ゆーしといられる時間は何にも変え難い宝物で。もっともっと、ず〜っと引っ付いていたいと。そう、思った。