「ずずず……ふぅ。さて、じゃあそろそろ本題に入ろうかね」
「あ、ちゃんと話す気あったのか。てっきりもうなんやかんやでうやむやになるのかと」
「まっさか。言ったでしょ、大事な話だって」
角砂糖を一つだけ入れたコーヒーを啜りながら、母さんは一息ついて話を始める。
大事な話。こうも改めて言われると中々に怖いものがある。鬼が出るか蛇が出るか。これには思わず隣で由那も生唾を飲み込んでいる。
「おほんっ。えー……まずは二人とも、本当におめでと。由那ちゃんの片想いを知っていた私としてはこうなってくれて本当に嬉しく思ってる。こんなこと言っちゃあれだけど、まさか勇士に告白する勇気があるなんて思っても見なかった」
「う゛っ」
い、痛いところを突いてくるな。
いや確かに、由那にも俺は散々やれ意気地なしだのなんの言われたけども。
ただ、さっきもそうだったけどこれは褒めてくれているのか。由那と付き合い恋人同士になったことについても、母さんは肯定的なように見える。元々由那のお母さんである優奈さんと母さんはかなり意気投合してママ友同士として仲も良かったし、何より由那はそんな人の娘でありながら昔からよく知っている俺の幼なじみ。親としては安心できる相手なのか。
「ひとまず二人の仲は良好みたいで安心したよ。由那ちゃん、優奈さんに勇士との惚気話散々聞かせたでしょ。おかげでこっちにもいっぱい情報が回ってきてるからね?」
「へえぇっ!? お、お母さんそんなに色んなこと話したの!? もぉ、誰にも言わないでねって言ってあったのに!!」
「ふふっ、まあとりあえずそんなわけで、私は二人がいかにイチャつきまくってるバカップルなのかをそれなりに知ってる。で、ここからが本題」
母さんはそう言ってズボンのポケットを漁ると、中から何かを取り出して手の中へ握る。そして机の上に出すと、握っていた手のひらを広げて中身を見せた。
「なっ!? そ、それ!!」
「この家の合鍵。私はこれをいずれ由那ちゃんにあげられたらと思ってるの」
「私に!?!?」
俺も由那も、思わず声を上げた。
それもそうだろう。これは俺たちがむしろお願いしようと思っていた物。それが向こうの方から寄ってきてくれるなんて。
大事な話なんて言うからどんなことを言われるのかと思ったが。思わぬたなぼた展開だ。
「まあ、タダでとは……言わないけどね」
「え? それってどういう……」
「まあまあ。とりあえず話は最後まで聞くもんだよ」
母さんには俺が意地でも合鍵を奪い取ろうとする獣にでも見えたのか。一度静止させるように手を前に出して遮ってから、とりあえずまずは聞け、と。念を押す。
タダでとはいかない、ということは何かしら条件があるのか。確かにさっき、合鍵をあげると言ったのではなく″あげられたらと思ってる″と言っていたな。何か母さんの中でそう簡単にはあげられないという理由があるのか。はたまた、単に自分が得する条件を叩きつけたいだけか。
いずれにせよ聞いてみなければ分からない。話は進まない。
「二人はさ……同棲、したいと思う?」
「「………………うぇっ!?」」