「違う! これはその……マジで違うから!!」
「違うって何がよぉ。全くもう、朝からお盛んだこと」
くそ、言い訳しづらすぎる。
なんせ状況が状況だ。一つのベットで男女が二人密着しているわけだし。そう認識されてもおかしくないどころか、もはや人によってはそうとしか見えないだろう。
だがそれでも否定しなければならない。なんせ俺と由那は本当に″そういうこと″をしていたわけではないのだから。ただ二人で二度寝をしていただけ。それをなんとか分かってもらわないと。
「母さ────」
「あれ、もしかしておばさん!? 由那です! 江口由那ですっ!!」
「おほぉ〜。もしかしなくても由那ちゃんかあ! おっきくなったね〜!! うん、色々と!!」
「おぉい!? おま、息子の彼女に何言ってんだ!?」
じい、と一点に視線をやりながらそんなことを言うもんだから。俺は思わず叫ぶようにしてツッコんでしまった。
「由那ちゃん由那ちゃん、ゆーしと何してたの? ほら、おばさんに言ってご覧なさいな」
「えへへぇ〜、ゆーしとはぎゅっ、しながら一緒に寝てたの! 朝からぽかぽかお布団で二度寝、気持ちいいんだよ〜?」
「……寝るっていうのはそういう意味の隠語?」
「ほえ? よく分かんないけど普通に寝てただけだよ?」
「ほ、ほら! 由那もそう言ってるだろ!!」
「むむむむ。確かに服の乱れも無ければそういう匂いもしない。……本当にただ朝っぱらから二度寝決め込んでただけってわけか」
とりあえず、と言わんばかりに由那をもふもふしながら。母さんは少し残念そうにそう呟くと、なんとかそれが誤解だったことに気づいてくれたようで。サングラスを外すと、改めてじっと由那のことを見つめる。
「本当、可愛くなったとは聞いてたけど。びっくりするくらい美少女ねえ。奈央さんの娘って感じだわ」
「おばさんも全然見た目変わってないよ! 五年も会ってないのにむしろ前より若返ったみたい!!」
「あっはは、お世辞が上手いな由那ちゃんは! よしよしよし、なでなで〜!!」
キャッキャっ、といつの間にか女子同士で盛り上がっている。
というか母さん、そんなに変わってないか? 俺はどれだけ会わなくても数ヶ月だからあまりめまぐるしい変化は感じないが、由那の場合ブランクは五年だ。順当に老いを感じていてもおかしくないと思うのだが。
……いやでも、あの由那だしな。お世辞というよりは多分本当にそう思っているんだろう。母さんからすれば気を遣ってくれての発言にしか聞こえないだろうけどな。
「それにしても本当だったんだ、由那ちゃんと勇士が付き合ってるって。あの勇士に彼女が……うぅ、泣けてきちゃうなぁ。あんなに友達もいなかった勇士に……」
「は、はぁっ!? いたぞ友達くらい!!」
「えぇ? じゃあ何人よ」
「……それはその、ほら。ふ、二人や三人くらい」
「それを世間ではぼっちと言うのよ? よく覚えておきなさい息子よ」
「ぐ、ぐぬぬ……」
帰ってきて早々、なんてことを言うんだこの母親は。しかも由那の前で堂々と言いやがって。
そりゃ確かに友達と呼べる友達はいなかったけども。教室でたまに喋るくらいの関係な奴しかいなかったけども……。
「ゆーし、安心して! 私がずっと隣にいるよ〜!!」
「おぉ? 大きく出たな由那ちゃん! 私の前でそれを言うなんて肝っ玉も百点だ!! もう今すぐ嫁に来てくれ〜!!」
「にゃへへ、お、お嫁さんだなんて。おばさん気が早いよぉ。そういうのはちゃんと段階を踏んでから……ね?」
「そ、そこで俺を見ないでくれ。なんかもう全体的にリアクションが取りづらいんだよ……」
突然の母親襲来。謎に一瞬で馴染んだ由那に置いていかれ、俺の心はもう色んな感情で大渋滞である。