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第204話 母親、襲来

「んみゃ、ぅ……」


「ふあぁ。ねっむ……」


 ポカポカに包まれた中、ゆっくりと目を開ける。


 目の前にはまだ由那がいて。抱き枕かのように俺を全力で抱きしめながら、幸せそうな顔をして眠っていた。


 どうやら俺だけ先に起きてしまったようだ。スマホで時間を確認すると十一時。あれから四時間経っている。


「お腹、空いたな」


 由那の作るご飯を食べたい。けどそのためだけにこの幸せそうな寝顔を起こしてしまっていいものか。放っておいたらまだまだ起きそうにないし。空腹は多少辛いが、いっそこのまま俺も三度寝を決めてしまってもいいかもしれない。


「ゆーしぃ……えへへぇ……♡」


「ったく、どんな夢見てるんだか」


 そっと小さな頭を撫でてやると、猫撫で声が返ってくる。


 やっぱりまだ起きないか。毎朝早起きしてお弁当を作ってくれたり、イチャイチャしに来てくれたり。もしかしなくても俺よりいつも早起きして色々なことをしているから、やっぱり睡眠時間は短いんだろう。たまにはこうやって昼までぐっすりと眠る日も大事だ。


「やっぱり寝るか」


 俺も大人しく寝ていよう。どのみち由那に抱きつかれているうちはここから動けないわけだし。


 諦めて目を閉じる。布団と由那の体温に当てられた身体はやっぱり火照り続けていて、あまりの心地よさに少し暗闇に落ちただけでまた眠気が強まっていく。


 今日はもう完全な寝休日になりそうだ。そんな予感と共に意識が夢の世界に────消えていく、はずだった。


 カチャッ。カチャカチャカチャッ。


「……ん?」


 微かに。ほんのわずかに、音が聞こえる。


 金属音というか。これは……ああ、あれだ。鍵を回す時の音。────鍵を回す時の音!?


 カッ、と目が見開くと、意識が覚醒する。


 なんで今、鍵の音がした。もしかして空き巣か?


 そんな考えが浮かんだのも束の間。玄関の扉が開く音と共に、誰かの足音がした。


 間違いない。この家に誰かが入ってきた。それも鍵を開けて正面玄関から堂々と。


 漫画や小説の読みすぎかもしれないが、俺はもしもの場合を考えた。空き巣、猟奇殺人犯、等々。


 とにかく、ここで息を潜めるべきなのか。それとも撃退するために武器を手にするべきなのか。考えもまとまらない間に足音は近づいて。いや、加速して。一直線に階段を駆け上がり、ドタバタと忙しなくこの部屋へと向かってくる。


「ちょ、はっ!? ええっ!?」


 とりあえず由那を守らないと、と。布団から俺だけ顔を出して、中に彼女を引っ込ませる。


 これで俺以外は見えないはずだ。見つかっても、由那だけは。


 そしてここを通り過ぎて行ってくれないかなんて淡い希望も打ち砕かれて、部屋の扉が勢いよく開く。


「っ────!!」


「よぉ、息子ォォ!! 元気にしてたかァァァァァ!!!」


「……へっ?」


 黒い髪、趣味の悪いサングラス。左耳にはいつも付けていたピアスが。


 紛れもない。この人は……


「か、母さん? もう、ビックリさせないでくれ……」


「ふっふっふ、サプラ〜イズ! いきなり帰ってきた方が面白いだろうよい!!」


「うっざ。何歳だアンタ」


「母さんは永遠の二十歳!!」


「にゃぁ? うにゅぅ……」


 ああホラ、騒ぐから。せっかく気持ちよさそうにしていた由那が起きたじゃないか。


 もぞもぞ、と布団の中に閉じ込められて少しあつそうにするものだから。めくって顔を出させてやると、薄ら目を開けて下から這い上がってくる。


「……だれぇ?」


「っわ!? あ゛っ……あ゛ぁっ!?」


 って、ちょっと待てマズい。安心感で軽率に由那の顔を出してしまったが、今は母さんの前だ。これ、隠し通した方がよかったんじゃ────


「あーっ! 息子が交尾してるーっっ!!」




 ほらもう!!

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