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第201話 ママ友電話

 プルルルル、プルルルルルル。電話の音が鳴り響く。


「もしもし?」


『もしもぉし。久しぶり優奈さん。元気にしてるー?』


「ええ、おかげさまで。奈央さんもお仕事はどう? 最近またあまり帰って来れてないって聞いたけど」


『いやはや、なんせ海外への交渉係ですからぁ。ま、でも今は日本に帰る手筈が整ったところ。明後日の飛行機で帰るつもりだよ』


 優奈のスマホにLIME電話をかけてきたのは神沢奈央。勇士の実の母であり、現在は海外に飛んで仕事のための重要交渉人として仕事を進めている。


 そして今、それが無事に終わり。ホテルの一室から由那の母である優奈に電話をかけながらベッドの上を転がっていたのであった。


『それで、さ。電話したのは勇士と由那ちゃんの事なんだけど』


「二人がどうかしたの?」


『……結局マジで付き合ってんの?』


「ええ、大マジよ? そりゃあもう嫉妬しちゃうほどイチャイチャしてるわぁ。こっちの家にも奈央さんの家にも何度も行ったり来たり」


『そうか、そうかぁ……。うちのバカが迷惑かけてない?』


「ええ。由那も家ではずっと勇士君のことばかり話してて。幸せそうな娘の顔が見られるから私としてはとても喜ばしいわ」


『うぬぬ。それにしてもやっぱり実感湧かないなぁ。いや、由那ちゃんがうちのをってのは聞かされてたけどさ。まさか本当に付き合っちゃうなんて。帰ったらのお楽しみにしたいから写真貰わないようにしてたけど、やっぱり相当な美少女に成長してるんでしょうねぇ……』


「ふふふ、それは自分の目で確かめてみて。それよりも由那と勇士君のことで、どうしたの?」


『あー、ごめん。脱線しちゃった。いやぁ、実はね……』


 突然の電話の理由。奈央の真意。その全てが、軽やかな口調で語られる。


「えっ!? そ、それは流石に……早すぎない?」


『まあ普通の男女なら、ねぇ。けど昔から仲のいい幼なじみで、しかも今はカップルでしょ? 今後のことも考えて私は一度経験してても損は無いと思うんだよ〜』


「そうかもしれないけど、二人はまだ高校生よ? うちのパパだってなんて言うか分からないし、そっちのパパさんも何も言って来ないの?」


『ああ、こっちは大丈夫だよ〜。あの人私のこと好きすぎて全然反論して来ないから。ま、とりあえず考えるだけ考えておいてよ。私も一度会ってちゃんと話をしてからにするつもりだし』


「う、うぅん……分かったわ……」


 その後、別れの挨拶と共に電話が切れると、優奈はため息と共にソファーへ腰を下ろす。


 どうしたものか。奈央の突拍子もない提案に、心がザワつく。どの道避けては通れない道だし、勇士の、ことも信用している。きっと悪い事にはならないだろうけれども。


 それを母親として簡単に許していいものか。何か条件をつけるべきなんじゃないか。いくらなんでも迷惑なんじゃないか。


 様々な不安と疑念が頭をよぎっては消え、また生まれる。


「はぁ。困ったわぁ……」


 結局は二人の決める事。あまり口出ししすぎるのも良くないかもとは思いつつも、やっぱり母親としては心配である。


 させてあげたいという気持ちと、まだ早いからダメだと言いたい気持ち。それらは半々なようにも思えるし、どちらかに傾いているような気もする。結局反対意見を出したいのだって由那のことを考えているというよりも、ただ自分が寂しいだけなんじゃないか……とか。


「まあ、ひとまずは奈央さん次第だものね。しばらくは何もできない、か」





 重い腰を深く下ろして、優奈は一人。真っ白なリビングの天井を見つめながらそう、呟くのだった。

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