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第200話記念話16 モブ男たちは1

「なあお前ら……彼女、できたか?」


「は? できてると思うかよ。ブチ◯すぞ」


「##@##〜〜!! 〇〇〇〇#/#/!!(自主規制)」


「だよな。そうだよな。お前らとクラスメイトで本当に良かったよ……」


 一年三組、とある男子生徒の発言。それにより一人は口が悪くなり、一人は放送禁止ワードを発しすぎて取り押さえられる。


 そんな、いつものありふれた光景。もはや男子陣はこれらの会話に和みすら感じてしまうほどだ。


「やっぱり普通はそうなんだよ。俺らまだ高校一年生の一学期だぞ? 普通彼女なんかそんなにすぐできるはずがないんだ」


「そうだな。できるはずがねえよ。……なあ?」


 そう言って数名が見つめた先には、一組のカップル。


「ごろごろごろ……にゃ〜お♡」


「お前なあ、いつまですりすりしてくるんだ。そろそろ授業始まるぞ」


「もうちょっと、もうちょっとだけぇ。今日はゆーしの匂いをいっぱい摂取したい気分なのぉ……」


 神沢勇士、江口由那。このクラスきっての甘々カップルである。


 元々幼なじみだった二人だが、事情がありしばらく離れ離れ。しかし勇士がこちらに戻ってきたことで再開し、今に至る。


 クラスの男子連中が知っている情報はここまでだった。まるでラブコマの定番のようなテンプレ展開。せっかく由那のような美少女と同じクラスになれても意中の相手がいては意味がない。目の保養になりはするものの、与えられる絶望感はかなりのもの。


 そして、何より────


「とうとう付き合い始めたらしいな、あの二人。末長く爆発してくんねえかな」


 最後の一線。幼なじみとして距離の近かっただけの(ただし由那からの好意はダダ漏れだったが)関係だった二人が、ついに恋人同士になってしまった。


 この情報は男子の間で瞬く間に広がり、殺意がより増す結果をもたらした。中にはその日のうちに勇士の家へ焼き討ちに行きたいと申し出た者もいたくらいである。


 しかし……どれだけ殺意が高かろうとも、勇士に手を出し切れない一つの理由があった。


「殺したい。殺してえよ……けど」


「ああ、分かってる。そんなことしたら江口さんが……俺たちの天使が泣いちまうんだ。クソッ、この怒りはどこにぶつけりゃいいんだよ!!」


 天使。そう呼称される男子達にとって癒しの象徴である彼女の涙を、見たくないのである。


 ある意味人間の心ともとれるその最後の砦が、ギリギリのところで勇士への殺意に歯止めをかけていた。


 クラスの美少女枠を一人奪った勇士のことは許せない。しかし、勇士を手にかけてしまうと肝心の天使さんが心に傷を負ってしまう。


 ジレンマだ。このせいで男子達は悶々とした日々を送っている。


 ただの嫉妬だということは分かっているのだ。この気持ちを収める一番簡単な解決方法も知っている。


 それは彼女を作ること。自分にも同じように意中の相手ができればきっとこんな醜い嫉妬をせずに済む。分かっている。分かっているが……それができれば苦労はしていない。


「な、なあ。そろそろ俺たちもいい加減一人くらい、何か縁があってもいいんじゃないか!? こんな仕打ちを受けてるんだ、一人くらいさぁ!!」


「一人くらい、か。仮にこのクラスでそれを目指すとして、それがどれだけハードルの高いことか。本当に分かってるのか?」


 彼女を作る。それ即ち、可愛い女の子との接点を持つことが大切だ。


 そしてその上で。このクラスには″三代美女″と呼ばれる女の子たちがいる。





 ガチャで言うところのSSR。しかしそれゆえにあまりに入手難易度が高い────いや、もはや入手不可能な人達だ。

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