「あっ、渡辺君、有美ちゃん! お待たせ〜!」
「おかえり、江口さん。その様子だとそっちも観覧車は楽しめたみたいだね」
「えへへ、そりゃもう楽しんだよ〜。ゆーしとたっぷりイチャイチャしちゃったもんね! 二人に負けないくらい!!」
「まあ俺もめちゃくちゃ楽しかったな。てか寛司、そっちの様子こっちから丸見えだったぞ。所構わず砂糖ばら撒きやがって」
「えっ? あー、やっぱり見えちゃってたか……。まあでも有美の甘えんぼが暴走しちゃったから。仕方ないよね」
というか、寛司よ。隣の彼女さんの甘えんぼ、まだ暴走が鎮まってないみたいだが?
学校では手を繋ぐことすら恥ずかしがってしない中田さんが、今は寛司の腕にぴっとりと引っ付いている。
ぽーっとした顔はほんのりと赤くて。その瞳はただ一点、寛司の横顔をじっと見つめていた。どうやら観覧車一周分のイチャイチャでは甘えたい欲を発散しきれなかったようだ。
「有美ちゃん? お〜い、大丈夫〜?」
「……へっ!? ゆ、由那ちゃ……だ、大丈夫! これはその、えっと!!」
「あっはは、私たちが戻ってきたことにすら気づいてなかったんだにゃ〜♪ もぉ、恋する乙女さんは盲目すぎるよ〜」
「お、乙女なんかじゃない……もん」
由那と寛司にクスクスと笑われ、かあぁっ、と耳まで真っ赤にする中田さんを背に。閉園時間が迫っていることを告げるアナウンスが流れる。
最後の乗り物は観覧車と決めていたし、仮にもう一回乗ろうとしてもまだ列ができているから多分間に合わないだろう。
本当にあっという間だった。名残惜しいが、遊園地デートはそろそろ終わりのようだ。
「ふふっ、じゃあそろそろ行こっか。今日はまだ晩御飯も食べて帰るんでしょ?」
「そういえばそんなこと言ってたな。店はもう決めてあるのか?」
「あっ……一応私、場所調べてあるよ」
「さっすが有美ちゃん! でもちょっと待って! ここを出る前に、さ。私したいことあるんだ〜!!」
「したいこと……?」
まだ何かやり残したことがあるのだろうか。由那の発言に三人で首を傾げる。
お土産は店が混む前に買ってコインロッカーに入れているから問題ない。乗り物にももう乗らないだろうし。何かまだ食べて帰りたい、とかか?
「写真! 最後に四人で写真撮りたい!! スタッフさんか誰かに撮ってもらお!!」
「おっ、写真か。いいね。そういえば四人でちゃんとした写真、まだ撮ってなかった」
「でしょ〜。あ、もちろん耳カチューシャは付けたままね! じゃあ私スタッフさん呼んでくるからちょっと待ってて!!」
てててっ、と走って行った由那は、すぐに食べ物を売っていたスタッフさんの中で手が空いていそうな人に声をかけて、スマホを手渡す。
背景は近くの噴水にした。今なら空の夕焼けも相まって綺麗な写真が撮れそうだな。
由那と中田さんを真ん中にし、サイドに俺と寛司。そんな並び順で並んで、陽気なスタッフさんの掛け声でポーズを取る。
「はい、チーズ!!」
パシャっ、と乾いたシャッター音が響くと共に。俺たちの遊園地ダブルデートは静かに幕を閉じていったのだった。