「有美、今日は本当に素直だよね」
「い、いつもが素直じゃないって言いたいの?」
「まあ……そうだね。二人きりになると別だけど」
そんなこと言ったって。私は由那ちゃんのようにはできない。
どこでも好きな人に引っ付いて、いっぱい甘えて。素直を体現したようなあの子のようには、絶対。
「でもいいよ、有美はそのままで。俺といる時に素直になってくれるなら、充分すぎるから」
「えっ……?」
トクンッ。小さく心臓が跳ねる。
「俺は有美の一番可愛いところ、他の人に見られたくないよ。独占したい。だからそのままでいて」
「〜〜〜っ!!」
ああもう、本当コイツは。なんでこんなことを堂々と目を見て言えるのか。
……でも、嬉しい。
寛司はいつも私を全肯定する。ありのままの私を好きでいてくれる。この人が初恋の相手で良かったと。そう、思わせてくれる。
初めて私のことを好きだと言ってくれた。由那ちゃんのように可愛いわけでもなく、薫のように自分に自信があるわけでもない。そんな私に、何度も何度も。心の底からの好きをぶつけてくれた。
私は寛司以外を知らないし、誰かと比較して〇〇君より寛司の方がいい、なんて考え方はできないけれど。
「……ほんと、そういうところ」
「えっ────ん゛っ!?」
キスをした。不意にかんじの視界を手で奪ってから、唇に。
抵抗のない口から舌を侵入させると、ようやくそこで自分がキスされていることに気づいたのか。驚いたように小さな声を上げてくる。
でも、突き飛ばすようなことはして来なくて。むしろキスをしてきているのが私であることを意識した瞬間から、舌はより絡みあい、たった数秒の間に大人のキスが完成した。
「……ぷぁっ」
ああ、好きだと。唇から想いを伝えて、手をそっと退ける。
目が合うと、私の中の好きはさらに膨れ上がった。またいつものように顔を見られるのが恥ずかしくて、こんなキスをしてしまったけれど。見つめ合いながら、お互いの存在を確かめ合うように。もっともっと深いキスをしたら、今よりも気持ちいいのだろうか。
こんなに……こんなに幸福感に満ち満ちている、今よりも。
「び、びっくりした。いきなりだね」
「ふふっ、今日は素直だから。あ、見て。頂上ついた。夕焼け、綺麗」
「本当だ……。夕焼け空、つい眺めちゃうね。景色は、夜に見た方が綺麗なのかな。って言っても、ここは夕方には閉まっちゃうけど」
「……じゃあ夜景の見れる観覧車、また乗ろうよ。二人で」
「えっ!?」
じぃ、と寛司の横顔を見つめて膝の上の手をそっと重ねながら、言う。
今度は顔を隠しながらじゃない。ちゃんと、目を見て。キスをした後にこういう事を言うのは少し恥ずかしかったけれど。
「寛司となら、観覧車も怖くないよ」
夕焼けに照らされただじっと茜色の空を見つめるのもいいけれど、次は街一面を見下ろしてロマンチックな夜景も見てみたい。
……いや、多分寛司となら、景色なんて付属品なんだろうな。本当は一緒に乗れるなら……いられるなら、どこでもいいんだ。
────だって、好きな人となら。何をしても、何を見ても。きっと楽しいに決まっているのだから。