「ねえねえ、最初は何乗る? ジェットコースター? それともコーヒーカップ!?」
「落ち着け落ち着け。そんなぴょんぴょん飛び跳ねるなって」
「早く乗り物乗りたいぴょん!!!」
ああもう、可愛いなこの野郎。
結局由那と俺は、兎耳のカチューシャをつけることとなった。由那が白色で、俺が黒色。色違いのお揃いだ。
由那が兎……かなりしっくり来ていると思った。嘘か本当か分からないけれど、兎には寂しいと死んでしまうみたいな特徴があるのだと聞いたことがある。甘えんぼで、寂しがりや。由那に動物のモチーフを付けるなら兎はピッタリだと思った。
他にも特に猫はぽい気がする。頭を撫でてやるとごろごろと喉を鳴らしたり、頬すりして甘えてきたり。たまに甘えてくる時喋っている言葉の語尾が「にゃ〜」になることもあるから。
ただ、今日の猫さん枠は既に埋まっていた。
「……なに見てんのよ」
「え? あーいや、可愛いなって。やっぱり買ってよかったよ、その猫耳カチューシャ」
「つっう!? こ、小っ恥ずかしい台詞言わないでよ」
「でも、可愛いのは可愛いから。いいと思うよ、猫。有美の性格によく合ってると思う」
「私のどこが猫っぽいの!?」
気分屋だが、甘えてくる時はとことん甘えてくる。そんな猫の特徴は多分中田さんにピッタリだ。
寛司と二人きりになった時どこまで甘えているのかは知る由もないが、アイツから話を聞く限りでは普段俺が見ている中田さんとは相当別人になるらしい。なんでも″甘えることに少し恥ずかしさを覚えた由那″だと思ってくれればいい、とか。
要するに普段は少しツンツンしているけれど、二人きりになったら甘えんぼが爆発するということだろう。というかさっきから終始そういうオーラは漏れ出してるし。なんか納得だ。
「繋いでる俺の手を定期的ににぎにぎして、存在を確かめてくるところとか……かな。もっと強く握ってって無言で訴えてくるの、すっごく可愛い」
「はぁ!? はあぁっ!? そ、そそそんなこと、してないし!! 変な勘違いしないでよバカ!!」
「じゃあ手、繋がなくてもいいの? 恥ずかしがってる有美もいいけど、今は素直ところが見たいな」
「……ダメ。絶対、ダメ」
「どうして欲しいの?」
「……………………もっと、ちゃんと。力強く握ってよ」
ほらもう、こういうところ。欲望に逆らえないどころか簡単に寛司に誘導されて本音を言う羽目になってしまっているところを見ると、きっと二人きりの時もああいう砂糖ドパドパなことばかりしているんだろうな。
「な、なんだろ。有美ちゃんの顔見てたらドキドキしてきた……少女漫画読んでるみたい」
「キュンキュンすな。いや、まあ気持ちはちょっと分かるけども」
「ふふっ、これはイチャイチャ勝負、俺たちが一歩リードかな?」
「にゃっ!? まずい、ゆーし!! 今すぐイチャイチャカウンターを仕掛けないと!!!」
「イチャイチャは物理技だったのか……」
あの謎勝負のこと、まだ忘れてなかったんだな。
まあ少なくとも中田さんはもうそんなこと関係なしに甘えてた気がするけど。ここは逆に勝負に勝つためだったのだと。そう解釈しておこう。うん。
「ね、私たちも甘々な手繋ぎ、しよ? 絡めてる指……もっと強めて?」
「っ!? お、お前な……」
「ゆーしの手の温もり……もっと感じたいな」
「ああもう分かったよ! 喜んで!!」
可愛くおねだりされたもんで、つい。
ぎゅっ、と強めに絡めていた指先に力を入れて更に手のひら同士をはげしく密着させると、由那は満足げにむふんっ、と息を吐きながら。ぴったり腕に引っ付いて離れなくなってしまった。肩を頬すりされている感覚が心地いい。
「彼氏さん、しゅきぃ♡ 寂しいと死んじゃううさぎ由那ちゃん、もっともっと甘やかしてほしいぴょん……」
「〜〜〜ッッ!!!」
「ゆ、由那ちゃん、凄い。……いいなぁ」
「安心しなよ有美。有美のことは俺がちゃんと甘やかすから。してほしいことあったらなんでも言って?」
「ち、違っ!? 今のいいなぁはその、んと……ああ、もうっ!!」
ぴとっ。耳まで真っ赤にした中田さんの頬が、寛司の腕にひっつく。
俺は横目にそれを見ながら由那の頭をよしよししていると、不意に寛司と目があって。思わず二人で苦笑いしてしまった。
お互い、彼女が極度の甘えんぼさんで大変だな、と。