それは、とある日の夕方。
「えへへ、なんかこうしてると、本当にゆーしのお嫁さんになったみたい」
「や、やめろ。そんなこと言われたら変に意識しちゃうだろ……」
由那が俺に夕食を振舞ってくれるとのことで、近くの商店街にあるスーパーへとその食材の買い出しに来ていた。
制服姿で二人。ただの買い物をしているように見えるかもしれないが、何故かカゴの中に入っているのは野菜やお肉など、分かりやすく料理のための具材ばかり。
同棲しているのか、なんて思われても仕方のない構図で買い物を続けている。制服姿でさえなければお嫁さんという姿もしっくりきてしまいそうだ。
「もっと意識していいんだよ? むしろ、して? 私のこと、いっぱいいっぱい想ってくれると嬉しいにゃあ♡」
「なに、言ってんだ。もう一日中お前のことしか考えられなくなってるっての。これ以上は生活に支障を来たすレベルだぞ」
「ふえっ!? そ、そっか……えへへ」
全く、と。小さくため息を吐きながら、最後の具材である玉ねぎを手に取り、ある程度傷んでいないかなどを確認してカゴに入れてから、レジへと向かう。
由那は半分出すと言ってくれたが、こっちとしては作ってもらう側だ。断って全額負担することにした。
それに具材自体少し多めに買ってある。余りはうちの冷蔵庫に入るわけだし。何よりそこまで高いものは買っていないので、金銭的にも問題はない。まあ元々お金なんて由那とどこかに行く時や由那と何かを買う時、由那に何かをしてあげる時など、出費の九割以上が由那で構成されており、逆に言えば俺用に使うのなんて漫画を買う時くらいだ。有り余っているというわけでもないが、無駄遣いしていない分切迫した貯金額でもない。
そしてレジで千円台の買い物を終え、レジ袋にそれらを詰め込む。
「ね、半分持つよ?」
「いや、別にいいぞ。そんなに重くないし」
「ぶぅ……。持ちたいの! ほら、取っ手片方貸して?」
「そ、そうなのか? って、ああ……そういうことか」
「気づくの遅いよぉ。手を繋ぐのもいいけど、こういうのもお嫁さんっぽくて好き!」
半分持つと言われると袋を二つにしてそれらに半分ずつ荷物を詰め込む図を想像してしまっていたが、由那が言っていたのはそうじゃない。
右の取っ手は俺、左の取っ手は由那、と。一つの袋を二人の真ん中に挟むようにして、一緒に持つ。彼女が求めていたのはこれであった。
「じゃ、帰ろっか。今日は腕によりをかけてとっておきのシチュー作っちゃうから!」
「そうだな。てかクッソ楽しみなんだが。俺の好物を由那が作って不味くなるはずがないしな」
商店街を二人で歩きながら、そんな他愛のない話をして笑い合う。
いつも通りながら、良い帰り道だ。なんて、そんなことを考えていると。
チャリンチャリンチャリーン!
「おめでとうございまーす! 二等賞、超高級すき焼きセットです!!」
「わぁ、なんだろ? 凄いの貰ってる〜」
「ガラガラ抽選会……って書いてあるな。あ、そういえば俺も抽選券さっき貰ったっけ」
「え、そうなの!? 引いていこうよ! なんかいいの当たるかも!!」
「あー、まあせっかくだし、な。ああいうの大体ティッシュしか当たったことないけど」
近くまで行くとより鮮明に分かるハズレの多さ。ティッシュやラップ、洗剤など。一等賞、二等賞、三等賞と上位賞が三つある中で、それ以外の賞の在庫が尋常じゃないくらいの数用意されている。
目視できるだけでも数十個。五十、六十くらいだろうか。いや、上位賞の豪華さと抽選券の入手難易度の低さを考えればこれでも少ない方か。もしかしたら裏にもまだ用意しているのかもしれない。
抽選券は一枚しかないし、期待するだけ無駄か、と思いつつ。それを担当のおじさんに渡すと、券の確認とともに一回ガラガラを引いてくださいと指示。
「は〜い、私やりたい! ね、やってもいい!?」
「ああ、いいぞ。俺はあんまり運良くないからなぁ。由那に任せるよ」
「へっへ〜ん、私昔から運には自信あるんだ〜! よぉし、一等賞狙っちゃうぞ〜!!」
由那なら本当に何か当ててくれるんじゃないか。そんな、軽い期待を胸に抱きながら。
ガラガラガラ、と。由那が取っ手を握り回したことで始まった抽選を、ぼーっと眺めるのだった。