「お、来たかひなちゃん。入って入って」
「お邪魔、しますっ……」
薫さんが住んでいたのは、マンションの一室。
七階建ての五階で、外観から見ても分かる通りに中はとても広そうだ。
ガチャリと玄関の扉が閉まり靴を脱いでいるとふわりと香る、甘い匂い。思わず嗅いでしまうこれは、いつも薫さんから漂っている匂いと同じものだ。
(つ、つつつつまり、この家にいる間はずっと薫さんの匂いを嗅ぎ放題……ってこと!?)
「? ひなちゃん、どうかした?」
「ひぇっ!? い、いえ! その、綺麗なお家だなぁ……と」
「そうかぁ? まあママは確かに綺麗好きだし、いっつも掃除はちゃんとしてるもんなぁ。安心しな、私の部屋は汚いから☆」
あっ、薫さんお母さんのことママって呼ぶんだ。……可愛い♡
「じゃ、じゃあお片付け手伝いますよ!」
「え〜、いいのかぁ? じゃあお言葉に甘えようかなぁ。って、友達を家にあげるならその前に片付けとけよって話なんだけどな。まあ、あれだ。朝からゲームしてたらもうひなちゃんが来る時間になっててな。すまん」
「いえ、そんな。私のことは雑用だと思ってくれて構いませんから! す、すす好きなようにこき使ってくださひ!!」
ああ、薫さんの役に立てる。少しの汚れをついつい気にしてしまう性格だから、家では暇な時間によく自分の部屋を掃除しているし。家事の中でも、掃除はかなりの得意分野だ。
えへ、へへっ。それに薫さんのお部屋を掃除できるなんて。使用人さんみたいにこき使ってもらえるだけでも嬉しいのに……。
(薫しゃんのお部屋、隅々まで探索し放題だぁ……)
「……じゅるっ」
「オイひなちゃん、ヨダレ出てるぞ。お腹空いてるのか?」
「い、いえ! これはその……なんでも!」
これで薫さんのことをもっと知れる。昔のアルバムとか、最近のでも薫さんの写ってる写真とか、ないかな。あとは、え、えっちな本、とか。
薫さんのことならなんでも知りたい。どんなに些細なことでも。ああ、心臓トクントクン言ってるよぉ。早く、早くお掃除してあげたいなあ。
「ま、いいや。お菓子は後で取ってくるとして。いざ、私の部屋にご案内だ!」
廊下をしばらく行き、三番目の部屋。その前で立ち止まると、薫さんはドアノブを捻り扉を開く。
「こ、ここが……!」
生活感のある部屋だった。
まず目に止まったのは大きなゲーミングチェア。その前に置いてある机と、モニターにSmitch、ヘッドフォン。
まるでプロのゲーマーさんみたいな、気合の入った設備。コントローラーも置いてあって、ゴツゴツとしたフォルムに黒のシルエットは男の子が喜びそう。
だけど、少し右に視界をやると、すぐ隣にゲーム類がごちゃついているとは思えないピンク色と黄色のかわいいお布団が畳んで乗せてあるベッド。枕も猫ちゃんのキャラ物で、とても可愛い。
その他には本棚に少年漫画と少女漫画、ゲームキャラ? か何かの萌え萌え系なフィギュアに、ドラゴンのようなモンスターのやたら大きなプラモデル。
この多方面にあべこべ感が出ているお部屋。……ああ、薫さんの部屋だ、と。変に納得してしまう。
「あっはは、マジでごめんね。漫画とか床に散らかってら。来てもらっていきなりで悪いんだけど、掃除から始めるかぁ……」
「えへへ、私は全っ然大丈夫ですよ! むしろどんと来いです!」
「お、言ったな〜? 頼もしいぜ〜」
意気揚々と力を込めて服の裾を捲る。
ところどころ、少し埃を被ってしまっているところもある。散乱している物も多いし、片付け甲斐がありそう。
「よっし、ちゃっちゃと片付けますかぁ!」
「じゅるひっ!!」
ここでしか得られないお宝。
絶対、手に入れてみせる!!