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第200話記念話1 百合、揺らめいて1

「ふぅーーーーーーーっ」


 何度目か分からない。大きな、大きな深呼吸をする。


 鏡の前で前髪を整えては、深呼吸。スッキリしたくて顔を洗ってからまた、深呼吸。


 少しでも気を抜くと興奮で過呼吸になってしまいそうだった。それほどに今、私の心は高鳴りを見せている。


 それもそのはずだ。だって今日は────


「わ、わわ私……本当に薫さんにお呼ばれ、されちゃったんだよね……?」


 数日前。私は唐突に薫さんからLIMEで誘われ、お家にお呼ばれすることになった。


 いきなりなものではあったけど、私には一緒に遊ぶ友達なんてほとんどいない。だから予定も空いているし、何より……薫さんのためなら、いくらでも予定なんて空けるし。


 というわけで、今。その集合時間まであと十分となり、動悸が治らない状況が続いているのだ。


「か、薫しゃんのお家……えへへ、えへへへっ。二人きりで、なんて。いいのかなぁ……♡」


 おっと、いけない。また頬が緩んで顔が崩れた。


 こんな情けない顔、薫さんに見せるわけにはいかない。


 ゆるふわパーマが可愛くて、いい匂いがして。顔も誰よりも整っていてちょっとおっとりしてるところが可愛いし、でもしっかりと自分の中に信念があってそれを突き通せる、強い人。


 ああ、しゅき。私なんか、近づけるだけでも光栄だ。本当ちょっと前までは遠目から眺めて憧れるだけの関係だったのに。


 まさかほんの少しの間に、ここまで関係が進んでしまうなんて。と、とと友達だって、言ってもらえたし。これはそれ以上になれる日もそう遠くはないのでは? なんて、調子乗りすぎかな……。


「って、もうあと五分しかない! 急いで行かなきゃ!!」


 私の家から薫さんの家までは自転車でおよそ二、三分。あれやこれやとしているうちに、すっかりギリギリの時間になってしまった。


 こんな私があの人を待たせるなんてこと、絶対にあってはいけない。だから本当は三十分くらい前には家の前でじっとしておきたかったんだけど……もし見つかったら気を使わせちゃうかもしれないし。それにそれに、期待しすぎって嫌われちゃうかも……。


 でも、どちらにせよ遅刻だけは許されない。ギリギリに行くという結論を出したとはいえ、結果それで集合時間に一秒でも遅れてしまったらなんて謝ればいいのか。せっかくお呼ばれされて、またとないチャンスなのに。それを棒に振るなんてことは絶対にあってはならない。


 またお呼ばれされるような。そんな友好関係を築かないと。薫さんともっと、もっともっともっと仲良くなるために。そして、いつか……


「前髪、よし。服、よし。カバンよし!」


 それ以上に、なるために。有美さんみたいに、薫さんの特別になれるように。いっぱいいっぱい、いっぱいいっぱいいっぱいいっぱいアピールして、覚えてもらわなきゃ。


「へへっ、ふえっ。えへえへえへっ♡」


 玄関の扉を勢いよく開け、通学用のママチャリに颯爽と鍵を刺して。





 愛しの薫さんに会うため、全速力でペダルを漕いだ。

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