「はい、そこまで。全員ペン置いて。一番後ろの人、その列の答案用紙集めて前まで持ってきてね。名前の確認だけするから、全員まだあまり騒がないように」
チャイムの音が鳴ると先生がそう言い全てが終わる。
テスト最終日、最終科目。この現代文のテストをもって、今回の定期テストは終了したのだった。
「ゆーし、どうだった?」
「んー、まあ得意教科だしな。かなり自信はある」
「私も〜! これでようやくテスト終わりだね!」
今回のテストは日程的に、ヤバい教科が最初の二日に固まっていた。全三日のうち最終日、即ち三日目となる今日は、文系科目ばかりが集まっていたので俺も由那も得意分野だ。
そのおかげで最後の最後でこける……なんこともなく、気持ちよく終えることができた。結果は当然まだ分からないが、問題の最初の二日は意外と手応えがある。由那も同じような反応をしていたので、恐らく大丈夫だろう。
ちなみに俺たち以外のメンバーはというと。寛司と中田さんはまあ心配いらないだろう。問題の在原さんもどうやら今回は蘭原さんに面倒を見てもらっていたらしく、この三日間死ぬほど充血している真っ赤な目で来た時には何事かと思ったが、猛勉強も行を奏したのか。やり切ったと言わんばかりに幸せそうな顔で頭を机に落とし、眠っていた。
「これであとは明日にテスト返しと終業式か。本当、テスト期間もあっという間だったな」
「だねぇ。テスト勉強、ゆーしと一緒だったから全然辛くなかったよ? 次のテストでもまたお願いしたいな〜、先生っ♪」
「俺も、由那と一緒だったからこうやって乗り越えられたんだと思ってるよ。って……まだ結果が出てないんだから乗り越えられたかなんて分からないけど」
「もぉ、ネガティブなこと言わない! どの道明後日からは夏休みなんだよ? 二人でずっと一緒にいられる夏休み! 授業にも行かずイチャイチャ三昧できる最っ高の休みが始まるもんね!」
まあ、そうだな。気にしていても仕方ない。
仮に。仮にだ。赤点を取って補修地獄になったとしても、普段の授業を受けに行くよりは拘束時間も長くはないはず。それに夏休みが来るということに変わりはない。
ただひたすらに、楽しみだ。
◇◆◇◆
「げへっ、げはははっ!! くひょぉぉぉ!!!」
「や、やった。学年順位、二十位も上がっちゃった……」
「見て見てゆーし! 赤点無かった!! しかも四十点代も一つだけ!!」
クラスが湧く。
テスト返しを経て、各々結果に喜ぶ者、悲しむ者がいる中。それでもこのクラスで絶望的な顔をしている者は一人もいなかった。
何故なら────
「いやぁ〜、よかったよかった。これで私もどやされずに済むな」
赤点を一教科でもとった者は、このクラスに一人もいなかったからである。
取らせないように全体的に少しテストそのものの難易度が下がった、なんて話もあるが、それでも。クラス一人も、一教科ですら四十点を下回る結果を出した奴がいなかったというのは、純粋に誇らしいことだ。
夏休みには由那とずっといるのは当然として。中田さんや在原さんたちといつもの仲良しグループでの遊びも予定されていたから、誰一人欠ける結果にならなくて本当によかった。
「っし、じゃあそろそろ締めるかな。夏休みの宿題も配り終えたし、私からの伝達も特に無い。お前ら、高校初めての夏休みでハメ外しすぎないようにな。じゃあ、解散!!」
そして、全員が笑顔のまま。一学期は終了する。
思い返せばこの一学期……というか高校に来てから、本当に色々なことがあった気がする。
そしてその内のほぼ全てが、由那に関することだ。
由那と再会し、再び関係を持って。少しずつ惹かれていき、今では彼女さんとして。もうずっと隣にいてくれないといけない存在になっている。
寛司、中田さん、在原さんに蘭原さんと。友達も増えた。中学からの友達というのがいない俺だったが、みんなのおかげで楽しい日々を送れている。まあ……他の男子連中が未だに怖いのは置いておくとして。
「じゃあ、私は一足先に! 言っとくけどバカップルども、私のこともたまには誘えよ!? イチャつくのはいいが、忘れちゃ嫌だからな!!」
「わ、私もお先に。わ、わわっ、引っ張らないでくださいよぉ、薫さん〜〜っ!!」
「由那ちゃん、神沢君、夏休みまたみんなで集まろうね。まだ日にちも決まってないけど、行きたいところのリクエストあったらグループで送って。みんなで最高の思い出、作ろ!」
「そうだよ。あまり二人きりで殻に閉じこもりすぎないようにね」
「うるせえっ。寛司、お前も大概だろ?」
「あはは、まあね。じゃ有美、行こっか。今日はどっちの家にする?」
「ばっ────!! そういうの、人目が無くなってから言ってよ!!」
「ふふっ、二人とも相変わらずだね。……ね、私たちもそろそろ、帰ろっか」
「はぁ……そうだな。とりあえず寝不足だから今日は俺の家でいいか?」
「いいよ〜。二人でイチャイチャおねんねしちゃおっか♡」
テストが終わり、一人、二人とクラスから人が消えていく。
その波に乗るように、俺と由那も続いて。机の中を殻にしてズッシリと重くなってしまった鞄を背負いながら。手を繋いだ。
……この時は、まさか夏休みにあんな事が待ち受けているなんて。思いもしなかったんだ。
俺にも由那にも予想のできなかった、波乱の幕開けが。知らないところで、この時既に始まっていたのだった。