テスト当日がやってきた。
「アイツ、そろそろ来るかな……」
現在時刻は六時五十五分。
テスト期間二日目から始めた朝早くの集合は、既に日課と化した。
初めは眠気が凄すぎて二人で寝落ちし、遅刻スレスレで登校したなんてこともあったが。まあ今ではこの早朝集合も安定してきており、慣れたものだ。
「えへへ、おはよっ」
「おはよう、由那。今日も相変わらず時間ピッタリだな」
「イチャイチャに遅刻厳禁、だからね!」
インターホンの音で扉を開けると、夏服姿でブイッ、と指を二本立てた由那が笑顔で抱きついてくる。
そのままの勢いで引っ付きながら家の中に招き入れると、一旦ソファーに置いて。あらかじめ温めておいたコーヒーをカップに移し、運ぶ。
俺の分にはミルクと角砂糖を一個ずつ。由那のには三個ずつ。こんな初夏に熱々のコーヒーなんて、と思う人もいるかもしれないが、これが意外と美味い。
昔はコーヒーなんて飲む趣味はなかった。でも、というか今だってブラックは飲めないから、本物のコーヒー飲みからすればまだまだ可愛く映るんだろうな。俺もいつかはああいう渋いコーヒーをブラックで飲める大人になりたいものだ。
「お待たせ、コーヒーここ置いとくぞ」
「ありがとぉ〜。ちゃんと甘々にしてくれた?」
「勿論。いつも通りミルクと砂糖三つずつな。……これ、もはやコーヒーじゃなくてミルクティーな気がするけど」
「だって苦いの苦手なんだもん……。でもあったかいのは好きぃ♡」
ちびちび、とカップに口をつけながら、火傷しないように少しずつ中身を啜る。
由那は重度の猫舌だ。だからあらかじめお湯を少しだけ冷まし、彼女でも飲める温度に調整しておいた。
その甲斐あってか、随分と美味しそうに飲んでくれるその姿は愛おしい。
「ふぅ〜、ポカポカだあ。いよいよ今日だね、テスト!」
「だな。隣で勉強見てる限りではあまり心配はしなくて大丈夫に感じだけど、やっぱり緊張してるか?」
「えへへ、緊張なんてしてないよ〜。むしろ楽しみ! ゆーしと二人で頑張った結果をやっと出せるんだもん!!」
「……そっか」
この調子なら問題は無さそうだな。
いくら由那でも、テスト当日には緊張してカチカチになってしまうんじゃないかと思っていたが。俺の彼女さんは思っていたよりもかなり強いらしい。ここまで言い切ってくれると頼もしい限りだ。
「そんなこと言って、ゆーしはどうなの? にっしし、もしかしたら私の方が点数高かったりして〜?」
「お、言ったな? 一応俺は教えた側だぞ。そうそう簡単に抜けると思うなよぉ」
「ふふ〜ん。油断しないことだにゃぁ」
カップを置き、由那はニヤニヤと自慢げに笑う。
「さて、それはそうと。……そろそろ、ね?」
ソファーに深く腰を下ろした彼女は、まるで胸に飛び込んでこいとでも言わんばかりに。両腕を大きく広げると、最高の笑顔で。
「朝のイチャイチャ……しよっか♡」
そう、言った。
テスト当日でも変わらない。わざわざ帰る必要もない。これは俺たちが一日頑張るための日課で、二人きりの一番大事な時間だ。
「今日は正面ぎゅっ、からいっぱいキス、したいにゃぁ。寝転びながらお布団の中でぬくぬく甘々ぎゅっぎゅもしよ〜♡」
「……ん」
俺たちのテストは、朝の死ぬほど甘い砂糖のようなキスから。始まった。