「って、ヤバい。もう十一時前だぞ」
『うえ!? ほ、ほんとだ!』
話が弾んだせいか、それともただ単に由那と一緒にいたからか。時間はあっという間に経過していて、通話を始めてから三十分になろうとしている。
明日も早い。そろそろ寝ないと、支障をきたしてしまうな。特に俺が。
『う゛〜。名残惜しいけど、明日も早いもんね。そろそろ終わりにしなきゃ……』
露骨にテンションが下がってしまった由那は、さっきまでのニッコニコの笑顔はどこへやら。しゅんとした表情で、寂しそうにこちらを見つめていた。
俺だって通話を終えてしまうのは寂しいけれど。だからと言ってずっとこうしているわけにもいかないだろう。特に明日からは早く集まることを決めているのだから。
この寂しさは本物で埋めるとしよう。明日の朝にさえなればまたいつものようにイチャイチャが待っている。
『はぁ、会いたいなぁ。ゆーしにぎゅっ、してもらいたい。ビデオ通話だけじゃ満足できないよぉ……』
「オイ駄目だからな。絶対こんな夜道の中こっち来るなよ? 由那に何かあったら俺はもう生きていけないからな」
『分かってる。分かってるけどぉ! 会いたいよぉぉぉ!!!』
ああ、駄目だ。コイツ完全に禁断症状が出てる。
てか禁断って言ってもまだ別れて三時間くらいしか経ってないんだが。いくらなんでも早すぎ……いや、俺も似たようなものだからあまり言えないか。
俺だって会いたい。やっぱりこんな画面越しじゃなく、本物の体温を感じたい。抱きしめて、抱きしめられて。たくさんキスをしながらイチャイチャしたい。
本当にこのままだと、俺の方が会いに行ってしまいそうだ。夜の間も我慢できなくなってしまったらいよいよだな。
「俺も、会いたいよ。だから今日は早く寝て、明日遅刻しないようにな? 待ってるから」
『う゛ぅ、はぁい。ゆーしも夜更かししちゃダメだからね?』
「ん。分かってる」
俺はビデオ通話を繋げたまま、勉強机の上に広がっている教材を片付ける。
明日学校に持って行く分をカバンに入れ、残りを本棚に。ものの五分程度で明日の準備を完成させてから、スマホスタンドに置いていたスマホを手に持ち替えた。
「じゃあそろそろ、切らなきゃな」
『あっ、待って待って! 私最後に言いたいことあるから!!』
「言いたいこと……?」
なんだ、そんなに焦って。通話を切りたくない気持ちは俺も一緒だけど、本当にそろそろ寝ないとヤバいぞ。
なんて思いながら画面を見つめていると、由那は優しい笑みをこちらに向けながら。言った。
『おやすみなさい、彼氏さん。また明日……ね♡』
「お、おぅ!? お、おおおやすみ。また、明日」
『うんっ♪』
言いたいことってそれだったのか。
最愛の彼女さんからのおやすみコール。極上のそれを貰ったから通話を切り、充電が少なくなっていたスマホをコードに繋げてベッドに放る。
「……寝るか」
そして、歯を磨いたりもろもろの寝る準備をするために。俺は彼女さんの笑顔を思い出しながら一人、部屋を後にしたのだった。