「こ、ここでちょっと待ってて。すぐに片付けてくるから!」
「え〜? 別に気にしなくてもいいのに。少し散らかってるくらいが生活感出ていいと思うよ?」
「うるさい! いいからここで大人しく待ってなさい!」
家の前に寛司を置き去りにして、私は颯爽と家の中に入る。そして、急いで階段を駆け上った。
ちょっと散らかってるくらいならこんなに焦りはしない。恥ずかしいは恥ずかしいかもしれないけれど、少しくらい許容範囲だ。
ただ、私が今こうやって軽く汗を掻きながら部屋に急いでいるのにはそんなのとは別の理由がある。
「はぁ……はぁ……っ! これ、片付けなきゃっ!!」
勉強机の上に、ベッドの照明棚の上。本棚の空きスペースに教科書を置いているラック。
そこら中に置かれた写真立て。そこに入っている写真は、全て寛司と二人で撮ったものだ。勿論この間の文化祭で撮ったチェキもある。
「こ、こんなの見られたら恥ずかしくて死ぬ。絶対に隠さなきゃ……」
ならそんなもの初めから飾るな、という話なのは分かってる。
でも……せっかく現像して、この中のいくつかは寛司とお揃いの写真立てをわざわざ買いに行っている物もある。
当然寛司の部屋には同じものが同じ写真立てに入れられて飾られているわけだし、私も、と。
そうやって増えていった写真は、あっという間にこんな数になってしまった。気づけばアイツの部屋に置いている数よりも多い。
「絶対……絶対茶化される!」
そりゃあ、寛司と撮った写真を飾っていると心があったかくなるし、見るたびに色んな楽しい思い出を浮かべていられる。夜一人でいる時、寂しい気持ちも……薄められる。
私一人がそうしているのは別に、いい。けどそれを寛司に知られたらと思うと。まあまずまず間違いなく揶揄われることだろう。
だから寛司を家に呼んでいる間だけは。なんとか、写真を全部見つからない場所に────
(全……部?)
いや、ちょっと待て。
勘のいい寛司のことだ。私の部屋に写真が一枚も飾っていないなんて、不自然に思うのではないだろうか。
というか、一緒に写真立てまで買いに行ってるわけだし。もしその時の写真が一枚も飾られていなかったら。
「わ、私なら。ちょっと寂しい、かも……」
アイツのことだ。きっとそれを顔に出したりはしないのだろう。
でも、そう思わせてさうことに変わりはない。寛司の部屋に行った時、私との写真が飾られていて嬉しかった。そして多分飾られていなかったら、少なからず思うところがあったはず。
「で、でもこれ全部そのままにするの? そんなの、マジで恥ずかしいし……」
一枚、二枚と指差しで写真を数えてみると、飾ってあった総数は八枚。
まずい。流石に全部は重いと思われかねない。
選別しなきゃ。そうだ、寛司の部屋に飾ってあるのと同じものだけ残せばいい。もう何十回もお邪魔してるし、どこに何の写真が飾ってあったかは全部頭に入ってる。
「これ……は。机の上に置いてたよね。あとこれは、窓際。あっ、これは本棚に……」
そうして、手際良く写真を選んでいく。
幸い、思い返せる限りで寛司の部屋に飾ってあった写真は六枚。そしてそれら全てと同じものを、私も元々飾っている。
つまり、溢れた二枚だけ隠せばいい。そしてその二枚はちょうど私が恥ずかしげもなくベッドの照明横に置いていたものだ。寝る前にチラリと視界に入れて、心をあったかくしてから寝るための……。
「よっし。あとは散らかってるところ、軽く片して……」
この間、約五分。寛司のことは少し待たせてしまったが、女の子の部屋掃除としてはそう長い時間ではないはず。
「迎え、いかなきゃね」
ふぅ、と一息をついてから。私は行きのようにドタバタとした駆け足ではなく、ゆっくりと階段を降りて。
寛司を招き入れるため、玄関へと向かった。