「ひゃんっ!? ゆ、ゆーし……?」
「なんだよ」
「その、何してるの? おでこ、ぴとって」
細く柔らかい由那の身体を捕捉し、額で背中を感じる。
いつも彼女が俺に甘える時、頬擦りをするように。俺もたまには思いっきり充電してみようと思った。
「なんか目一杯由那成分が欲しくなった。たっぷり充電させたんだ。次はこっちの番だろ」
「む、むぅ。これ、なんか恥ずかしいよぉ……」
目の前に映るのは、か細い背筋。
まるで抱き枕のようにして胸の内に由那を入れていると、温泉の効果も相まってか身体の疲れとか、そういうのが全部吹っ飛んでいくのを感じた。
さながら、好きな人との接触は特効薬らしい。
「う゛ぅ〜! 私もぎゅっ、したいよぉ!! ゆーしにされるのは嬉しいけど、私もぉ!!」
「ダメだ。今のお前に正面から抱きつかれたら多分色々壊れる」
今はこうやって、ただ由那の背中を見つめていたい。
胸、お腹、太もも、背中。どれをとっても一流品な美少女の成分はそうそう過剰摂取するものでもない。
今はまだ、これくらいで────
「じゃあいいもん。……ゆーしのこと、壊すもん!!」
「へっ……? おわぁっ!?」
思わずあまりの心地よさに目を閉じかけていた俺の腕の中で、いきなりか細い身体が暴れ出す。
完全な不意打ちに対応できず、簡単にお腹周りに巻いていた腕を剥がされてしまった俺は。そのまま反転した彼女に、真正面から見つめられて。
「私だって、ゆーしの水着姿見て……興奮、しちゃってるんだよ?」
「はっ!? おま、何言って────」
ペタペタと、俺の胸元に手が当てられる。
胸筋から、腹筋へ。二の腕なんかも触られて。何が何だか分からず、俺は軽くフリーズしてしまう。
「ゆーしってさ、意外と筋肉あるよね。えへへ、男の子っぽくてかっこいいなぁ」
まるでその様子は、リミッターが外れたかのよう。
どうやら、我慢していたのは俺だけではないようだった。急に俺の身体に触れ出したかと思えば、その瞳は様々な場所を注視してくる。
そして、気づけば。元々壁際にいた俺にはとっくに退路なんて無くなっていて。
ゆっくりと、首元に手を回されていた。
「でも、やっぱり顔が一番かっこいい。昔からかっこよかったけど、本当イケメンさんになったよねぇ。……再開したあの日、すぐに胸がドキドキしちゃったもん」
「ま、マジで待て由那。これはその、ダメだって!」
「やぁだ。待たないもん。ね……周りなんて気にしないで、私だけを見て? 我慢なんて、しなくていいから。ぽかぽかのお風呂の中でぎゅっできたら絶対気持ちいいよ? 一緒にぬくぬくしよう?」
「っうぅ!! っっっっ!!!」
「えへへぇ。黙秘は肯定と捉えまぁ〜す♡」
がばっ。顔が熱くなって目線を逸らした瞬間。由那は俺に覆いかぶさって、腕の位置を脇の下に入れ替えてから思いっきり抱擁を仕掛けてくる。
意地でも逃したくない。そんな意思が伝わってくる力強さと密着度。むにむに、と腹部に当てられ形を変える巨峰と胸元に顔を埋めて甘い匂いを漂わせる小さな頭に、もう俺は既に嵌められてしまっていた。
結局、ペースを握れていたのやら握られてしまっていたのやら。でも、コイツの根本はいつも変わらないように見える。
「甘えんぼだな、いつまで経っても」
「……こんなの、ゆーしに対してだけだもん。ゆーしにだから、甘えたいんだよ?」
「そっ、か。そうだな。俺も甘やかしたいと思うのは、由那だけだ」
「にへぇ。ずっと甘やかしててぇ」
「はいはい」
なんやかんやで、最後にはこうなるんだな。
由那は甘えるのが我慢できなくて、俺は甘やかすのが我慢できない。お互いがお互いの成分を摂取してないとどうしようもなくなっていて、離れられない存在。
(やっぱり、もう離れたくない。ずっと……一緒にいたいな)
もはや何度目か分からない″好き″を自覚させられながら。満足そうに笑みを浮かべている彼女の背中に手を回して。
抱きしめ合いながら、入浴を続けるのだった。