ドクン、ドクンと心臓が跳ねる。
心は落ち着かない。落ち着く気配もない。
当然か。試着室で水着姿の由那を見た瞬間、簡単に理性の糸が途切れたのは記憶に新しい。
あの時の水着姿ではないとはいえ。今だって、同じようなものだ。
「あぅ……なでなで……」
ぽんっ、と真っ白な頭に手を置いて、ゆっくり手を動かす。
ハグとかそういうのは、ちょっとまだ出来そうにない。色んな意味で反応してしまいそうだからだ。
でも、どうしても甘やかしてあげたかった。猫のように甘えてくるコイツを、どうしても。
ゴロゴロと喉を鳴らす猫のように手に頭を擦り付けてくるその様子に癒されながら。右手をそっと左右に動かして小さな頭を撫で続ける。
「あんなこと言った後にこんなの……ずるいよぉ」
「じゃあやめるか?」
「むぅ。私のして欲しいこと、分かってるくせに。なんでそんないじわる言うの?」
「あはは、ごめんって」
ぷくぅ、と頬を膨らませて不満を見せつけるその姿は、やはり子供っぽい。
由那は身体こそこうして立派に成長しているが、やはり心はまだまだ子供なのだと思う。
ずっと変わらない。俺の好きな人は、昔からずっと。
幼少期の一番仲がよかった時も、俺への関わり方が分からなくなって、由那なりに悩んでいたツンツン期も。そして、今も。
いつまでも甘えんぼで、寂しがりや。きっと俺は彼女の外見だけではなく、そういう「守ってしまいたくなる」ところにも惚れているのだろう。
「あ、オイっ」
「撫でるの、やめちゃヤダ……」
そんな事を考えていたら、動かす手が疎かになってしまっていて。おサボりする手のひらをグッとつかまれると、無理やり頭に押しつけられる。
もっとしろ。もっと撫でろ。そんな、甘えんぼからの強いアピールだった。
俺の手に吸い付くように少し体勢が上がると、水面にはぽよんと柔らかいものが浮かび上がる。さっきは首まで浸かっていたからなんともなかったのに、急に出てきたそれに。俺は思わず目を奪われた。
「えへへ、ゆーしのエッチ。もしかして……私のおっぱいが見たくて撫でるのやめたの?」
「は、はぁ!? んなわけないだろ!?」
「ふふっ。……我慢しなくてもいいのに」
「っ〜〜〜!!」
「あー、顔真っ赤っ赤だ! ゆーしの変態〜」
「ぐぬぬぬ……」
ああクソ、やっぱり今まで考えてたの全部嘘だ。
こんのクソガキめ。身体だけ立派に成長しやがって!! 見せつけやがってぇ……っ!!!
「由那、お前ちょっと来い!」
「え? ────ひにゃんっ!?」
さっきまでは可愛らしくひたすらに甘えてきてたくせに。いきなりクソガキムーブで見せつけてくるもんだから、つい。
俺はなんだか遠慮するのが馬鹿らしくなって、胸元に由那を引き寄せた。
背中から抱き締めるようにして、自分の前にちょこんと座らせる。そして細く綺麗な地肌のお腹に手を回すと、そっと抱きしめた。
「な、何!? わわっ!?」
「お前ばっかり充電して、ずるいぞ。俺も由那成分充電するからな」
「充電……って、ぎゅっしてくれるの?」
「……我慢しなくて、いいんだろ」
「ぴっ!? ぴぃ……」
自分の胸の中に、由那がいる。
好きな人がいる。
抱きしめながら、上がっていく体温を感じて。髪の間からチラリと覗いたうなじにドキリとさせられながらも、綺麗な形をした肩甲骨の間にそっと。
額を、置いた。