「ゆーしっ。はい、あ〜ん♡」
「や、やめろバカ。周りに見られてるぞ……」
「にっししぃ。恥ずかしいのぉ?」
少しずつ人が増え始めて、周りが人混みになりつつある中。由那は売店で買ったバニラ味のソフトクリームをこちらに差し出してくる。
やはり流石は美少女。浴衣を着て歩いているだけですれ違いざまに人々が振り向き、一度そのご尊顔を拝めてから消えていく。
一人でいるだけでも可愛いのが、しかも今は三人。必然的にちょっとした注目を浴びてしまっていた。
「ほら、かぷっといってかぷっと! お風呂上がりのアイスは美味しいよぉ〜?」
「わ、分かった。分かったから! 顔に押し付けようとするのはやめろって!」
やれやれ、コイツは自分の注目度をちゃんと理解してるのか。いや、してないだろうな。
いつまで経っても逃してくれそうにないので、俺はくるくるにとぐろが巻かれたソフトクリームの先端に口をつける。
トロリと甘い牛乳風味は、スーパーやコンビニで食べるものとは明らかに違っていた。
「……うまっ」
「えへへ、やっぱり? じゃあ私も〜!」
パクリ。堂々と俺が口をつけたところからソフトクリームを口に入れると、美味しさと冷たさで由那が身悶える。というかコイツこの前バナナジュース飲んだ時間接キス恥ずかしがってたけど、もう大丈夫なのか?
「はふぅ。ゆーしと間接キスしながら食べるアイス……甘い」
「っえ!?」
「次は何食べよっか。……二人で半分こしながら、ね?」
「〜〜〜ッッ!!!」
俺の手を握る力が、強くなる。
違った。コイツ間接キスを気にしてないんじゃない。
(楽しんでるんだ。こっちの気も知らないでッッ!!)
浴衣を着た由那の破壊力は、普段の比にならない。
一挙手一投足全てが可愛くて、愛おしい。ふわりと柔らかい髪の毛も、ふとした瞬間に香る甘い匂いも。子供のように笑う笑顔や、一箇所全く子供っぽくないところが揺れる瞬間。
全てに目を奪われる。何度も何度も好きを実感させられる。
女の子とは、なんとズルい存在なのだろう。
「お〜い、由那ちゃん神沢君。あんまり離れないでよ〜? あ、恋の逃避行するならちゃんと連絡入れてね。その時は可だから」
「はぁ!? そ、そんなことするわけないだろ!?」
「どうだか、ねぇ。今も二人きりの空間作っちゃってたし」
「わ、私はゆーしとなら、いつでも……」
「おい由那!? 誤解を招くこと言うんじゃない!!」
指をいじいじしながら満更でもなさそうに赤面する彼女の頭にチョップをかましてから。ちゃんと離れないようもう一度手を繋いで、三人の後ろについていく。
ほんのりと温かい手のひら。由那の体温が上がっているのを、肌で感じ取れた。
在原さんの言葉を想像以上に意識してしまっているのか。まあ、気持ちは分からんでもないが。
「えへへ、逃避行……ゆーしと二人っきり……」
「ばぁか。何から逃げるつもりなんだよ」
「へ? えーっと……あれ、何からだろ?」
「そういうとこだぞ」
きょとんとした瞳で頭の上にはてなマークを浮かべるその姿を見て、俺はぽかんと開いているその口にさっき買ったエビ煎餅を放り込む。
はむっ。受け取ったものを疑いもせずパリパリ音を立てて口に含んでいく由那は、まるでリスのようだった。
「ほら、置いてかれないように急ぐぞ」
「はむ、むぐぐっ」
それから、俺たちは昼前までにかけて露店を巡った。途中に足湯で休憩も挟みつつ、混み合うギリギリのところで有名店の海鮮丼を頬張って。
ちょうど正午を回った頃に店を出てから、一番と言っていいほどの目的地へと向かう。
その先は、そう。水着着用によって混浴を認められた天然温泉だ。
室内と露天を兼ね備え、この温泉街最大の規模を誇るそこが、今回最大の目的地。水着姿の由那と混浴ができる、最高の施設。
(楽しみだな……)
全員考えることは同じなようで、隠しきれない期待を歩く速度として露出させながら。五人で、足早に温泉へと向かった。