「お゛お゛お゛お゛お゛わったぁぁぁ!!!」
テスト終了を告げるチャイムが鳴り、一番後ろの席である俺と由那を始めとした生徒が前の席に座っているクラスメイトの答案用紙を集める。
そんな、まだ答案用紙の確認は終わってはいないものの、重圧から解放された少し騒がしい教室内で。由那を抱きしめながら在原さんが上げた雄叫びが響いた。
「ひゃっ!? か、薫ちゃん……急に抱きしめないでよぉ……」
「へへっ、ふへへへっ。やっとだ。やっと解放された。俺ァ自由だァァァァァ!!!」
「一人称変わってる!?」
まるで大航海時代を生きる海賊のようになってしまった在原さんに捕らえられた由那を放って、俺は一人席に戻る。
テスト終わりは帰りのホームルームが無く、監視役の先生が答案の確認を終えたら自主解散だ。部活がある者は久しぶりの運動に胸躍らせて運動場と体育館へ。帰宅部は遊びに行くか、速攻帰宅。
あっという間に教室からは人が消えていき、やがて十分もすると俺たち五人以外は誰もいなくなってしまった。
「おつかれ、有美。どうだった?」
「うーん、どうだろ。記述のところちょっと怪しいかも……」
「ふぇっふぇっふぇ! お前たち、終わったことを考えても仕方ないぞよ! ここからは遊びの時間だるぉ!?」
「……ねえ、寛司。誰あのおじさん」
「あはは、ちょっと俺も分からないなぁ……」
「ゆーしぃ……助けてぇ……」
「すまん、諦めてくれ由那。俺はそのおじさんからお前を助け出せる自信が無い」
「ひぃん……」
完全に抱き枕と化してしまった由那の救出は諦めて、一番端の窓際席に座っている在原さんの周辺の椅子を動かして五人で集まる。
いよいよ週末には例の旅行だ。行き先は完全に最初の案である温泉に固定され、これからはスケジュールを組んでいく。
宿泊ができない俺たちにとってスケジュールは生命線だ。ただでさえあまり時間があるわけでは無いから、どこに行くのか。どれくらいの時間そこにいるのか。そういったことは明確に決めておいて損はない。
「くあぁ。本当、薫は元気だよね……。私もうテスト中から眠くてしょうがないや」
「有美、珍しく徹夜して頑張ってたもんね。声が聞きたいって深夜に電話がかかってきた時は何事かと────」
「はい、黙ろうなぁ」
「ふごごむごっ」
まあ、それからなんやかんやあって。ある程度の予定が組み終わると、五人のグループLIMEを作ってから解散した。
旅行まではまだ数日ある。細かいことは後々決めることにして、ウトウトと限界を迎えかけていた中田さんに配慮した結果である。
皆、俺も含めて心が昂っていた。その後の数日間の学校生活を送る中でも頭の中は旅行のことでいっぱいで、時はあっという間に過ぎていく。
そして、体感にしてほんの一瞬。ついに憂鬱な金曜日の授業を終えて。
『ねえみんなー、ようやく明日だよ!! 私楽しみすぎて全然寝れないや!!』
『私も私も〜。ちゃんと起きれるか不安だよ』
『大丈夫だよ。有美はいつも気づいたら寝てること多いし。まあ念のために明日起床確認のLIME送るね』
『お前らイチャイチャすな()』
『ねぇゆ〜し〜! 私たちも負けないようにイチャイチャしようよぉ〜!!』
『嫌だ』
『淡白すぎて草』
『というかみんな、寝れないのは今こうやってブルーライト浴び続けてるからじゃないの笑笑』
『オイ有美、ブーメランだぞ』
『ホットミルク持って行こうか?』
『来るな来るな!! 寛司お前マジで来そうで怖い!!!』
『えへへぇ。じゃあそろそろLIME閉じなきゃねぇ』
『だな。由那お前特に熟睡しそうだから早めに寝ろよ』
『ぶぅ。子供扱いしないでよぉ。私ちゃんと毎日起きてるでしょ? ゆーしと会う日は絶対目が覚めるもん!』
『はーいはい。惚気るなお前ら。じゃあワシはもう寝るぞよ〜』
『お休み〜』
『じゃあ俺もそろそろ。有美も早く寝なね』
『俺も寝るわ。おやすみ』
『ゆーしっ♪ また明日ね〜♡』
『じゃあみんな、寝坊しないでね〜』
いよいよ、旅行当日がやってきた。