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第59話 突然のお誘い

「旅行っ♪ 旅行っ♪」


「簡単に言ったなぁ。けど、予定とかそんな簡単に合わせられるのか? ほら、部活とか」


「ん? それは大丈夫じゃないかな。江口さんと神沢君は何か部活やってるの?」


「私たちは何もやってないよー!」


「でしょ。俺と有美も部活には入ってないし、たしか在原さんも。だから個人的な予定とかが無ければテスト終わりにスッと行けるんじゃないかと思って」


 なるほど。コイツそれを分かってて言ったのか。


 にしても、旅行か。俺は両親の仕事の都合もあって経験したことはないが、まあ確かにこの五人でというのは少しテンションが上がる。


 突然の話に驚きはしたものの、仲良くなれたこのグループでの旅行。きっとそれはとても楽しいものになるだろう。


「じゃあ各々、今日明日くらいで行きたい場所を決めておこうか。流石に高校生で宿は取れないから日帰りにはなっちゃうけど。電車とかバスを使えばある程度のところには行けると思うし」


「そう、だな。分かった。考えとくけどさ。それより……それ、大丈夫か?」


「それ?」


 ピッ、と俺は指を指す、


 その指先の向く場所は、渡辺の胸元。壊れて湯気を上げつつける中田さん。


「きゅぅ……」


「わっ、ごめん有美!? 無意識にずっと抱きしめてた!!」


 あれ無意識だったのか。中田さんの頭を撫でたり背中に手を回してずっと胸の中に留めてたりしてたのは。てっきりわざとやってるんだと思ってた。あと中田さん、一切抵抗してないあたり本当にはずかしさで限界が来てたんだな。


「よし、やる気出てきた。めざせ赤点全回避! 頑張っちゃうでごぜぇやすよぉぉ!!」


「あぅ、ううぅ。へぁうぅ……」


「あわわ、有美ちゃん茹であがっちゃってる……」


 その後、俺たちは予定がない事を確認し、中間テストが終わってから今版最初の週末。五月十八日の土曜日に旅行へと向かうことになった。


 行き先はまだ決まっていないが、在原さんの鶴の一声で温泉街へと向かうプランが第一候補だ。川に行きたいという意見もあったが、まだ行くには少し寒い。


 何はともあれ、五人全員が一日にしてテストへのモチベーションを手に入れ、各々勉強に対する前向きなスタンスを胸に下校したのだった。


「えへへ、温泉旅行だってぇ。みんなで行けるの、すっごく楽しみ!」


「ああ。俺も渡辺達といるのは居心地いいしな。これからも仲良くしていきたい」


「ぷふっ。ゆーし昔から私しか友達いなかったもんね?」


「……うるせぇ」


 誰のLIMEの友達数が六人だって? いいだろ別に。両親と由那、渡辺、中田さん、在原さんだけしか登録してなくても困らないだろうがよい。


 というか俺がそうなったのは由那のせいだ。幼稚園、小学校とコイツと遊びすぎたせいで他の奴との繋がりを疎かにし、繋がり方を知る機会を失った。そのせいで転校した後の五年間もそれこそたまに一緒に遊ぶくらいはするけど、わざわざ個人LIMEを交換するほどの仲になった奴がいなかっただけだ。決してぼっちだったわけじゃない。決して。


「ね、ゆーし。明日から土日だけどその二日間も、ちゃんと私といてくれるよね?」


「ん? なんだよいきなり。まあそのつもりだけど。どーせ俺には由那しか友達いないからな」


「もぉ、拗ねないでよぉ。えへへぇ。じゃあ、ね? 明日、ちょっとだけ付き合ってほしいの……」


「付き合う? 何に」


 なんだいきなり。もじもじして何を言い出すんだ。


 そう思いながら問い返すと、由那は。俺の目をじぃっと上目遣いで見ながら、言った。




「……デート、行こ?」

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