「お゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!! 全っ然分からぁぁぁぁぁぁあん!!!」
「うるさぁい!! なんでいきなり叫ぶのよ薫!! ねぇちょっと寛司! 私どうすればいいの!?」
「あはは、賑やかだなぁ」
「神目線気取るなァァァッッ!!!」
ガラガラ、と教室の扉を開けると、二人の女子の異様な叫び声が耳へと届く。
俺たちの登校はあまり人と会いたくないというのもあり、少し早い。だからいつも教室についてもあまり人はいないし静かなのだが、どうやら今日は違った。
中田さんに在原さん、そして渡辺。どうやらその三人で早朝勉強会をしているようだ。
「あ、由那ちゃん! 聞いてよ、薫が勉強嫌だって発狂するんだよぉ……!」
「うるっせぇ! こっちにはお前みたいに好きな人と勉強できるとかそういうバフが無ぇの! モチベが保てねぇの!!」
「好っ────!? な、何言って!!」
「お前らラブラブちゅっちゅしてんだろ! だからあの有美が珍しく勉強なんてしてんだろ!!」
「ぃ、あぁっ!? し、ししししてない! 何もしてない!!」
「え? したよね。昨日だけで三回くらい────」
「お前はマジで黙ってろやァァァ!!!」
相変わらず仲のいい三人組だ。あの有美が、っていうあたり、多分在原さんもあの二人と中学が一緒だったんだろう。渡辺と中田さんは一緒に受験勉強した、なんて話を聞いたことがあるから絶対同じ中学で確定だし。
いいな、ああいうの。中学の仲良し組が一緒に受験して同じ高校に入って、って。なんかちょっと憧れる。
「ゆーしっ」
「おわ。どうした?」
ぴとっ。俺がそんな事を考えていると、由那は机に鞄を置いて身体を密着させる。
何事かと顔を見ると、にへぇ、と緩い笑顔が返ってきた。
「ゆーしには私っていう幼なじみがいるよ? これで寂しくないでしょ」
「……ったく。お前にはお見通しか」
「えへへ、ゆーしの考えてることなんてすぐに分かるもん」
「ぬぐぐぐぐ。なんで私の周りはこうバカップルばっかりなんだ。どいつもこいつも隙さえあればイチャイチャイチャイチャと。生で見せつけられる視聴者の気持ちになったことあんのか!!」
「わ、私はイチャイチャなんてしてないでしょ!? 由那ちゃんたちはともかく、私は!!」
「うるせぇ渡辺君のこと死ぬほど好きなくせに!!」
「ぴぃ……っ!?」
「おっと、そろそろやめたげて在原さん。有美そろそろ恥ずかしさが限界みたいだ」
まるで突然接続の切れたゲーム機のような音を出した中田さんは、ぷしゅぅ、と頭から湯気を出して渡辺の胸元にもたれかかる。それから頭を撫でられたせいで顔を真っ赤にしたまままた変な声を出していたが、そこをはもうイジらないのが正解だろう。
「うぅ、マジでやってられん……。何かご褒美でもあればなぁ」
「ご褒美? 薫ちゃん、何が欲しいの?」
「うーむ。何が、って言われるとな。これまたムズいな」
「なんじゃそりゃ」
むむむ、と首を傾げながら頭を悩ませる在原さんだが、やっぱり何も浮かばないようで。まあそもそもご褒美って言っても「あれが欲しい!」って叫んだところで誰がプレゼントするんだって話ではあるし。
だがそんな中。一人のキザ男が、彼女を抱いたままとんでもない提案をする。
「じゃあ物じゃなくて、テストが終わったら遊びに行くっていうのは? 予定合う日を作って旅行とか」
「旅行!? 行きたい! 行きたいぞぉ!? よし決まりだ、この五人で行こう!!」
「旅行っ! ゆーし、旅行だって! 私も行きたい!!」
「はぁ……?」
突拍子もない話に、俺はきょとんと目を丸くした。