由那は咄嗟に本を閉じ、俺の方を見る。
だが、当然手遅れ。俺は本の中身を覗いてしまった。
(俺の写真が、ギッシリと……)
中々に悍ましいものだった。小さな頃の俺の写真が詰め込まれたあれが、どうやら由那にとってのシークレットだったらしい。
そりゃあ、俺相手でも……いや、特に俺に対しては絶対見せられないわけだ。
「ち、違うの! これはその……えっと……」
「ほう? 何が違うのか言ってみろ」
「あのね! これはゆーしロスが酷かった時に作ったっていうか……今は使ってないから!! 本当だよ!?」
オイ、使うって何だ使うって。写真に対して使っていい動詞じゃないぞそれは。
由那曰く。あの写真ノートを作ったのは、俺と別れてからしばらく経ってのこと。
ずっと一緒にいた幼なじみがいなくなってしまい極限まで寂しくなった由那は、写真を見返していた。そしてとりあえず全部現像した。
そしてそれを年代順に並べ、思い出を振り返ることができるように一冊のノートにまとめたらしい。ちなみに今は生身の俺がいるため、見る機会はほとんど無くなったとか。まあ結局勿体無くて捨てたり封印したりはできなかったみたいだけれど。
「寂し、かったんだもん……。ゆーしの写真を見て記憶の中でイチャイチャするのが、唯一の楽しみだったんだもん!!」
ううむ、重い。それを俺と会えなかった五年間ずっとしていたのかと思うと、中々に気持ちが重い。
うるうると瞳に涙を浮かべながら、必死に弁明する由那。まるで悪いことをしたのがお母さんにバレた子供みたいだ。
だけど、まあ彼女を寂しがらせたのは俺なわけで。よくよく考えれば再開してから毎日こうしてずっと一緒にいたがるほどな奴が五年間も離れ離れを経験することとなれば、何かに縋ろうとしてしまうというのもわからなくはない。
「うぅ。引かないでぇ。ゆーしがいなくなっちゃって、本当に寂しかったの……」
「……はぁ」
小さく、ため息が漏れる、
それは、由那への軽蔑、侮蔑、失望。
どれでもない。
(コイツ、マジで俺のこと好きなんじゃないのか……!?)
太ももをつねりながら無理やり出した、感情を悟られないためのものであった。
いやいやいや、普通ただの幼なじみ相手にここまでしないよな? 寂しかったとか、まあ最初の数ヶ月から一年くらいは分かる。幼少期からずっと一緒にいた相手がいなくなったんだから。
でも普通、その気持ちがちゃんと五年間も続くものなのか。
再開してからも、コイツの行動は過激な方向におかしなことばかりだったけれど。今回のこれも含めて、そのどれもが明らかに俺に対する好意。
いい加減、ただの幼なじみだと思うには限度が出てきてるよな。薄々そうなのかなとは思ってたが。やっぱりコイツ、俺のことを……。
「き、気にしてない、ぞ。まあ今は使ってないみたいだし……実質アルバムみたいなもん、だもんな」
「ほ、本当!? よかったぁ……私これをゆーしに見られたら、嫌われるかもって……」
はぁ、と肩を撫で下ろした由那は、本を勉強机に戻して麦茶に手をつける。
コク、コク、と二回ほど喉を鳴らしてから、「ぷはぁ」と安堵したような声を漏らして。そそくさと、さっきまで机を挟んで向かい同士に配置していた座布団を二枚、隣同士に置き直す。
「ゆーし。私、ゆーしの隣でお勉強したい。……ダメ、かな?」
「は、はぁ!? なんで今の流れでそうなる!?」
「へ? だって安心したらゆーし成分補充したくなっちゃって……。ね、ぎゅってしたいの。時々、手も繋ぎたい。ゆーしの体温を感じながらお勉強……したい」
「っつつ!?」
こ、コイツ性懲りも無く。
いいのか? マジで勘違いするぞ。いや、もうし始めてるぞ。
っていうかその顔。甘えてくるみたいなこてんとした顔! ズルいんだよぉ……。