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第43話 お母さん

「お母さんただいまー!! ゆーし連れてきたよー!!」


「お、お邪魔します……」


 小学生の頃はよく出入りしていたはずなのに、由那が扉を開けた瞬間。俺の身体には緊張が走った。


 そう。由那はもう、あの頃の小さな女の子ではないのだ。女子高生。俺は今、女子高生の家に足を踏み入れているのである。


 玄関に入ると、周りには丁寧に片されている靴箱、由那を含む家族全員が映った写真をデコレートして写真立てと共に飾っているものなど。


 小綺麗で、オシャレだった。


 そしてどこか、懐かしい香りがする。由那の匂いに近い、甘い香りが。


「お帰りなさい、由那。ゆーし君も。久しぶり。ふふっ、身体つきは変わってるけど雰囲気は意外と昔のままね?」


「そ、そうですか? というかおばさんも、相変わらず美人なままで……。昔からそうですけど、おばさんって呼ぶのマジで違和感凄いんですよね」


「あはは、ありがと。お世辞でも嬉しいわ」


 江口優奈さん。由那の実の母親で、幼なじみという関係上昔から色々とお世話になっている相手だ。


 昔から、この人とにかく美人なんだよな。白く長い髪、とんでもないサイズを携えた巨峰、そして何よりお淑やかで大人な風格。


 まるで今現在子供な由那を、そのまま大人の姿にしたかのような生写し感。顔もよく似ているし、まさに母と子。由那もいつかこの人みたいに大人っぽく……って、それは想像できないな。


 そして俺が違和感を全開にしながらも優奈さんをおばさんと呼ぶのは、本人の希望である。俺が幼稚園、小学生の頃から「私はもうお姉さんって歳じゃないから〜」とか散々言っていたけれど、少なくとも俺はテレビに出てくる有名人なんかも含めてこの人より「美人」が似合う人を見たことがない。


 今だって五年ぶりの再会なわけだが、もう怖いくらい見た目が変わっていない。むしろ昔より若返ったのではと思うくらいだ。女の人って凄い。


「あれ? 憂太はまだ帰ってないの?」


「あー、あの子今日は水泳の習い事で少し遅くなるわよ」


「そっかぁ。せっかくゆーしに会わせられると思ったのになぁ……」


 憂太? 憂太……。あ、由那の弟か。


 そういえば由那には三つ下の弟がいたっけな。結局由那と二人きりで遊ぶことがほとんどであまり深く関わりがあったわけではなかったけれど、会う時はいつも「ゆーしにい」って呼んでくれてたっけ。


 俺達の三つ下ってことは、あの小さかった憂太も今ではもう中学生なわけか。どんなふうに成長してるのか、少し気になるな。


「ね、勇士君。由那の部屋で勉強するって言ってたけど、気をつけてね? 由那の部屋二階だし」


「え? 気をつけるって何をですか?」


「その……結構、下に音響いちゃうから。ベッドの上でする時は────」


「お、おおおおお母さん!? 何変なこと言ってるの!? やめて、やめてよ恥ずかしいから!!」


「ふふっ、由那ももう高校生だもの。私は勇士君になら由那を安心して任せられるしね。応援、してるわよ」


「い、行こうゆーし! 早く私の部屋行こう!!」


「お、おぉ……」


「ごゆっくり〜」


 あ、あの人一体何口走ろうとしたんだ。


 いや、何を言おうとしてたかくらいは検討つくけど。相変わらずのほほんとした雰囲気でいきなりとんでもないことを口走るマイペースな正確なところも、あの美貌と一緒で変わってないみたいだな。




 本当、由那と似てるのは見た目だけってことか。どんな壮絶な経験をして歳をとったとしても……由那がああ育つとは、流石に思えないな。

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